長崎大学熱帯医学研究所における、平成20年度実績 JSPS拠点大学交流事業の報告、および平成21年度実施計画概要をおこないます。

JPS拠点大学事業とは 長崎大学熱帯医学研究所JSPS活動概要 長崎大学熱帯医学研究所JSPS組織 長崎大学熱帯医学研究所JSPS研究交流実績概要 長崎大学熱帯医学研究所JSPS研究交流成果 長崎大学熱帯医学研究所JSPS総交流人数 長崎大学熱帯医学研究所JSPS発表論文 長崎大学熱帯医学研究所JSPS 平成21年度実施計画概要 長崎大学熱帯医学研究所
JSPS拠点大学交流事業 長崎大学熱帯医学研究所 平成20年度実績
研究協力体制の構築状況
 当初「熱帯医学」という研究領域の特殊性と、当事業が十分理解されていなかったため、対策事業を伴わない研究指向の事業に越側の戸惑いがみられたが、それは初年度中に克服された。フィールド調査は緒についた段階であったが、越側が蓄積していたライブラリーを資料に日脳ウィルスの遺伝子配列解析が開始され、93年以降のものが全て中山タイプであることを明らかにした。2年次には各小課題共フィールドの定期調査・採集が本格的に立ち上がり実質的なデータが蓄積され始めた。但し、学術雑誌への公表までには至らなかった。漸く3年次になり10篇以上の論文が生産されるようになった。特に、日脳とデング熱両感染症ウィルスの時空的進化を考察する上で有力な手がかりとなるべき遺伝子型の発見など、地域研究ベトナム編とでもいうべき成果が挙がり始めた。平成15年度(4年次)に、SARS流行に続く鳥インフルエンザの流行が勃発した。越側のウイルスと呼吸器感染症共同研究者の相当数が直接防疫活動に関わった他、日本からも一部が緊急疫学調査の一端を担う形で駆け付け、貴重なデータと経験を蓄積することが出来た。また新しいアプローチとして地理情報システムを活用した疫学的研究がウイルスと媒介蚊の研究で始まり、流行動態の理解に新たな展望が開けた。第1期の最終年度に至りフィールドからのサンプル採取数が分子疫学的解析をするに十分な量に達した小課題が多く現れ、その資料をもとに日本とベトナムの分業による遺伝子解析が大いに進んだ。その結果、各研究グループが対象とする病原体のベトナムにおける遺伝的固有性、日本や周辺アジア諸国との類似性がそれぞれ鮮明になってきた点が第1期5年間の最大の成果であったといえる。
中間評価にて「A」評価を得たことから第1期の運営は概ね正しかったと判断し、小課題はそれぞれを発展的に引き継ぐ形で、第1期とほぼ同じ共同研究の協力大学,研究協力者により第2期(平成17年度)の活動を開始した。特記すべきはこの事業の実績が評価され,同年度より文科省委託事業である新興・再興感染症国際拠点形成プログラムのうち「新興・再興感染症臨床疫学拠点」形成事業がスタートしたことである。長崎大学はNIHE内に自前の海外研究拠点を開設した。これにより同研究拠点をも活用する形で当事業の共同研究も大変やりやすくなった。但し、第2期では特に公表論文の増加と、若手研究者、博士課程大学院生やポスドクの積極的参画を目標に掲げた。その結果、第2期初年度から従来より顕著に多い37篇の論文が公表された。また、若手招聘研究者が11名参加した(全体の丁度50%)。日本からは3名の博士課程学生が指導教官と共に訪越した。基本的に第1期を発展的継承したことにより、共同研究のスタイルが確立していたことから、第2期の共同研究は各年とも極めて順調に推移し、それに伴って学術成果も安定的に進捗した。代表的な成果として、ウイルス・人獣共通感染症では、原因不明のウイルス性脳炎患者髄液と蚊からの新種ウイルス発見(Banna virus)、SARSウイルス診断用抗原を用いた新しい血清診断法による不顕性感染例の発見、ハンタウイルス遺伝子の塩基配列解読と分子系統樹解析、コウモリの採血サンプルからのニパウイルスN蛋白に対する抗体陽性例の確認とベトナム中部高原地域にも抗体陽性のコウモリが棲息している事実の判明、狂犬病グループによるイムノクロマト法を用いた抗原迅速診断アッセイ系の開発等が挙げられる。蚊媒介性感染症では、日本脳炎ウイルスの東南アジアから日本への移動経路が判明した他、新開発の殺虫剤や天敵としてのミジンコを用いたデング熱媒介蚊の防除実験、デング熱媒介蚊の殺虫剤抵抗性要因とkdr遺伝子頻度の解析によりマラリア防除のためのピレスロイド散布が抵抗性の分布に強く影響していることを明らかにした。また、マラリア主要媒介蚊の分子生物学的分類から新種を発見した。呼吸器感染症研究グループでは、小児の患者臨床情報収集および鼻咽頭ぬぐい液の採取・凍結保存を継続的に実施し、半数以上の患者からインフルエンザ桿菌、肺炎球菌、モラキセラ菌が検出されることや、ウイルス感染では、インフルエンザウイルス、RSV、メタニューモウイルス、アデノウイルス、ライノウイルスを検出した。RSV及びインフルエンザウイルスでは季節変動も明らかになった。腸管感染症グループは、年一回の駆虫を2年間繰り返し、駆虫が寄生虫のコントロールに効果的である可能性をフィールド試行より示唆した。コレラグループは、コレラ患者の家周囲の池から検出と、トリメトプリム・スルファメトオキサゾル耐性遺伝子の検出を進めた。若手研究者養成と社会貢献面、及び論文の公表も第2期初年度と同等に安定的に推移した。セミナーは、隔年で日越交互に4回実施した。何れのセミナーも参加者は50~70名で、共同研究の成果報告を中心とし、活発な討議を図った。セミナーを通し、各研究者が対象としていないベトナムの感染症についての情報が共有され有意義であった。第1期最終年度の平成16年度には、長崎大学の21世紀COEと共催した。以上より全期間を通じた研究交流目標は、対象感染症に対する効果的な防圧方法の提言を除いてほぼ達成されたと考える。
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学術面の成果
 これまでの研究交流活動を継続、発展させると共に、各小課題とも最終年度であることを意識し、規模拡大は図らず、この課題が「発生と流行に係る病原体の地理的、年代的変異、並びに各種の自然的、社会的環境要因の解析に重点を置く」とした基本目標に立脚し、研究グループ毎に良く協議した上で、平成22年3月中に「まとめ」を終える。対象とした感染症の効果的な防圧方法についても提言し、研究成果の社会還元に努める。平成21年11月26日~28日には長崎大学GCOE「熱帯病・新興感染症の地球規模統合制御戦略」との共催による国際セミナーを長崎にて開催し、両プログラム間で成果と情報の共有を図る。従来通りポスドク、博士課程大学院生などを積極的に共同研究に参加させ、またベトナムからの招聘者にも若手研究者を多く加えるよう越側代表者/コーディネーターに要請し、日越協力して若手研究者育成に努める。特に、上記の国際セミナーは、熱帯病と感染症研究の国際的動向を把握し、研究者ネットワークに加わる良い機会なので、若手研究者の参加を奨励し発表の機会も与える。一方、共同研究成果の国際学術雑誌への論文公表を急ぎ進める。拠点大学間(長崎大学とNIHE)の教育と研究に係る緊密な関係は、1985年来四半世紀近くに及ぶもので、大学間学術交流協定も締結されているが、特に平成12年来の当事業と平成17年からの新興・再興感染症国際拠点形成プログラム「新興・再興感染症臨床疫学拠点」形成事業により飛躍的に強化され、今や先端研究を実施できる実験室も備えた長崎大学の海外教育研究拠点がNIHEに立地し、常時5名以上のスタッフが研究活動に専念している。よって拠点は形成されており揺るぎないものとなっている。この拠点を大いに活用し、拠点のより一層の実質化を図る。
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