ポスト人口・健康転換期の健康研究 ー過去からまなぶ健康の未来ー

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大会長の挨拶

ようこそ長崎へ

この度,第84回日本健康学会総会を長崎で開催するにあたり,ご挨拶をさせていただきます。長崎では1980年(昭和55年)に中村正先生が第45回総会を開催され,2000年(平成12年)に竹本泰一郎先生が第65回総会を開催されています。およそ20年ごとの,昭和,平成,令和にまたがる開催となりました。

私事ですが,1980年に本学会に入会し,博士課程の学生として修士論文のテーマであるインドネシア・ジャワ島での研究を長崎で発表しました。はじめての学会発表でした。この学会の時に長崎県・小値賀島の男海士の調査を実施し,それが後に長崎に赴任するきっかけとなりました。今思えば,創立50周年の記念総会だったのですが,自分の発表だけで頭がいっぱいで,学会のことはまったく無知でした。2ページにわたる抄録が書けることと,発表も質疑も時間がながく自由闊達な質疑ができることが魅力でした。その後,他の学会を知るにつれ,実利的でない研究も受入れてくれる寛容さが学会の魅力だと感じました。

20年後の2000年は学会創立70周年記念の総会で,「健康の人類生態学的決定要因」という国際シンポジウムを担当しました。当時,社会疫学が台頭し,健康の社会的決定要因に注目が集まりつつありましたが,それも包含し,人類進化や歴史性,地域性も視野にいれて健康を考えることが重要だと考えてテーマを選びました。議論がうまくできたかは心もとないのですが,健康と健康の決定要因を広く捉えることが本学会の本質だと再認識しました。

さて更に20年近くが経ち,死亡率が低下し,人々が長寿化し,人口が高齢化するなかで,健康という価値が商品化され,正義として世の中に氾濫しています。では,それぞれの個人,家族,社会にとって,「健康とはなにか」を考えるとそう簡単ではないことがわかります。人間が生物である限り「完全なる健康」や「永遠の生命」など存在しません。そう言う人類生態学的理解にたった健康観を共有し,健康を絶対視しない考え方ができる集団としての健康学会でありたい。天邪鬼ですが,そういうプロフェッショナルな集団でありたいと考えています。

長崎郊外の外海に遠藤周作の「沈黙」の舞台になった隠れキリシタンの村があり,美しい海に面して遠藤周作文学館が建っています。遠藤周作は,弱き者に寄り添う伴走者として神を理解し受入れようとしました。私は宗教的な人間ではありませんが,自分の弱さも含めて,弱さがわかる学会でもありたいと思ったりします。

ぜひ,長崎で,そのような意見交換ができたらと考えています。
多くの学会員の参加をお待ちしております。また,この機会にぜひ「日本健康学会」に参加し,学会のあり方と研究内容に賛同いただき,入会していただく方が増えることを願っております。そのような方に声をかけていただければ幸いです。

最後に事務的なことですが,上に述べたこととも関連し,今回,大学を会場として,スポンサーに頼らず,手作りの学会で,総会参加費もできる限り抑え,華美に走らず質素な学会とさせていただきました。学会本体は11月1,2日の2日間ですが,3日目には教育ワークショップ,3つの連携研究会セミナーを用意いたしました。

皆様にはご不便をおかけすると思いますが,寛大にご容赦いただければ幸いです。
では,長崎でお待ちしております。

2019年(令和元年)5月15日
第84回日本健康学会総会
会長 門司和彦
(長崎大学 熱帯医学・グローバルヘルス研究科 教授)