宿主病態解析部門
暑熱順化機構分野

 本分野は,平成6年度に新設され,ヒトおよび動物の熱帯暑熱環境への適応機序の解明とその熱帯医学への応用を目的としている。現在,助手1名のみの分野であるため,環境医学部門疾病生態分野と共同で以下の研究を行っている。

熱帯地住民に見られるヒトの長期暑熱順化機序に関する研究
 日本人および熱帯地住民(タイ,アフリカ)を対象に,人工気候室において温熱負荷や運動負荷を加え,核心温(口腔温,鼓膜温,直腸温,食道温),皮膚温,局所発汗量,汗腺のアセチルコリン感受性(定量的軸索反射発汗テスト)を測定し,熱帯地住民の暑熱順化機序を検討している。熱帯地住民は暑熱環境下において,非蒸散性熱放散(対流,放射,伝導)に優れ,日本人に比べ少量の汗で効率よく(無効発汗の抑制)体温を調節出来ること,また,熱帯地住民の発汗抑制は中枢性(発汗閾値体温の高温側へのシフトとゲインの低下)および末梢性順化(汗腺のアセチルコリン感受性の低下)の両者によることが明らかになった。タイ国チェンマイ大学との共同研究である。

運動トレーニングによる暑熱への交叉適応に関する研究
 
短期間の運動トレーニングでは,発汗量が増大するが,長期間トレーニングを継続すると逆に発汗量が減少する型の暑熱適応が生じることを明らかにした。その中枢性・末梢性機序を検討している。

温度感受性変異株細胞を用いた細胞・分子レベルの熱耐性の研究
マウス乳ガン由来の温度感受性変異株tsFT101は,39℃では減数分裂は正常に起こるものの細胞質分裂が特異的に阻害されるため,細胞が多核化するという温度依存性の特性を有する。39℃で培養したtsFT101細胞では前加温処理後の熱耐性の誘導がほとんど見られず,同時に熱耐性と強く関係していると考えられる熱ショック蛋白(HSP)の誘導もきわめて僅かであった。この細胞の温度感受性特異の検討を通して,細胞・分子レベルの温度感受性・温熱耐性の機序の解明を目指している。

 

弱熱耐性動物ナキウサギを用いた比較生理学的研究
 寒冷地や高山に生息し,寒冷・高地順化動物モデルとして注目されるナキウサギは,有効な熱放散反応を持たず暑熱に弱い。また,寒冷地に生息しながら,冬眠しない。ナキウサギの暑熱・寒冷暴露時の自律性・行動性体温調節反応の検討,解剖・組織学的検討,中国・モンゴルの生息地での野外調査研究からナキウサギの寒冷適応機序の解明を目指している。

熱帯・亜熱帯・冷温帯地域住民の自然環境温度適応能の比較研究
 タイ(熱帯地)・ネパール(亜熱帯・冷帯),日本(温帯)の学生・運動鍛練者,労働者(含:高山荷物運搬)を被験者として自然環境温度や日射刺激が生体機能や器質変化に及ぼす影響を測定記録し,環境温度適応能の国際比較研究を試みている。

教授(兼任)  

助    手  金 田 英 子

 

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人工気候室内での温熱性発汗実験

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細胞培養実験室

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