環境医学部門
疾病生態分野

 当分野では,昭和52年以降,熱帯環境の生体に及ぼす影響について環境生理学の立場から検討し,その成果の熱帯医学への応用を目指している。温度・湿度が制御可能な2基の人工気候室,及び動物用核磁気共鳴装置(MRI)を備えている。平成6年度の改組により,環境医学部門の一研究分野となった。

有効な紫外線防御法の研究
 熱帯地や山岳地では太陽光に含まれる紫外線は多量かつ強力で,生体に様々な障害を引き起こす。地球上の生物は,生命維持に有害な紫外線に対する防御法を,進化の過程で獲得してきた。
 本研究では,砂漠・荒地に生息する黄鼠や海抜3200mの山岳地に生息するナキウサギを含む数種の野生哺乳動物に備わる紫外線防御法について研究を推進してきた。紫外線環境が厳しい砂漠や山岳地帯を生息圏とする野生動物に備わる、種族保存に有効である紫外線の防御メカニズムの研究結果から,紫外線対策を考え,特に熱帯地およびオゾンホールの環境破壊における紫外線対策を検討している。


紫外線による生体防御の機能低下が熱帯病の感染におよぼす影響に関する研究
 強い紫外線に長期間暴露されると皮膚癌が生じる。しかし,少量の紫外線暴露でも生体防御機能に影響すると考えられる。熱帯地の紫外線は強く、また多くの人が感染症で苦しんでいる。熱帯感染症の住血吸虫症では,約2.5億人の患者が苦しんでいる。
 マウスへのマンソン住血吸虫感染実験では,人工紫外線(UV‐B)による紫外線照射群は,紫外線非照射群と比較すると,感染幼虫の数,回収成虫数において統計学的に有意に高い値が認められた。現在,太陽光による紫外線暴露の影響について実験を行っている。
 この研究は,感染症に対する紫外線の影響を解明して感染抑制に貢献する。特に,紫外線が強い熱帯地における感染症対策を目的としている。

冬眠動物の暑熱・寒冷耐性に関する研究
 冬眠動物は特有の寒冷耐性を有する。その機序解明の目的で,冬眠動物であるハムスターの神経・内分泌・循環機能や寒冷ショック蛋白(CSP)誘導能について,非冬眠動物(ナキウサギ,ラット,家ウサギ)と比較検討している。

表面電極筋電図脳波解析装置を用いた瞬発的動作時の主働筋・拮抗筋の協調に関する研究
 瞬発的手指伸展動作には,伸筋群のみならず屈筋群の協調が必要である。瞬発動作を鍛練している運動選手の筋電図解析から伸筋群と屈筋群の協調の意義について検討している。

助 教 授 大 渡   伸
助   手 李   丁 範
技能補佐員 川 嶋 順 子
技能補佐員 早 嶋 順 子

砂漠、荒地に生息する黄鼠

海抜3200mの山岳地に生息するナキウサギ

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人工気候室と生体信号解析装置

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