平成8年度に文部省研究評価推進経費による本研究所初の外部評価が実施された。その提言に基づき,当研究所が到達すべき具体的目標を設定すべく,委員会等での審議を経て,平成11年6月に別紙に記載された[総合目標](Mission
Statement)を掲げるに至った。
平成9年度に熱帯医学資料室の廃止転換により発足した熱帯病資料情報センターは,従来からの業務である熱帯医学に関する資料の収集・整理・展示に加えて,熱帯病に関する各種の情報を収集・評価・整理し,専門家及び一般社会に発信することとなった。平成9年度教育文化週間の行事の一環として,本センターの休日特別公開を実施し,当研究所及び熱帯医学に対する一般社会人の理解の向上を図った。
昭和53年度から当研究所で開講してきた熱帯医学研修課程の20周年に当たり,本課程を修了した研修生の追跡調査を行ない,約30%から回答をえた。本研修課程より2年早く,東京大学医科学研究所で開講されてきた「熱帯医学研修基礎課程」が平成11年度をもって閉講されたことにより,わが国における熱帯医学研修課程は,当研究所のみとなった。平成12年度は定員を従来の10名から15名に増員し,将来20名に増員する可能性も残されている。幸い平成8年度以降研修課程の応募者が定員を上回っており,その多くは,既に何らかの形で熱帯現地での体験を有し,その経験に基づいて更なる研鑽に励みたいという希望者が増加している。これらの研修生に対しては,彼らの経験に基づく批判に耐えうる生き生きとした活力に満ちた講義・実習を行なう必要がある。
昭和58年度以降当研究所に開設されてきた,日本国際協力事業団(JICA)の集団研修コース[熱帯医学研究]は,平成9年度から期間が従来の9ヶ月から12ヶ月に延長され,割り当て国も約10国に増加された。この機会に,研修生に授与されるべき修了証書の表題も従来のCeriticateからDiplomaに修正された。このような活動をはじめとする諸外国との友好親善に対する貢献によって,当研究所は平成10年度外務大臣表彰を受けた。
平成12年度から,当研究所とベトナム国立衛生疫学研究所とを,それぞれの国の拠点大学とする日本学術振興会の拠点大学方式による学術交流事業が[熱帯感染症の新興・再興に係る要因の研究]を大課題として開始されることになった。本事業は,当研究所の複数の研究者が、既存の研究部門・研究分野を超えて参加できるプロジェクト方式研究体制の試金石ともいえるものであり,研究所を挙げての事業として外部からも注目されている。
更にタイ国マヒドン大学と長崎大学との大学間交流協定が締結され,将来の人物交流・共同研究が一段と促進されることが期待される。
平成12年度にはJICAが新たに設けた開発パートナー事業に当研究所から応募した「インドネシアにおけるマラリア対策」の課題が採択され,当研究所の今一つの海外事業として遂行される予定である。更に所謂「橋本イニシアティブ」で知られる国際寄生虫対策事業にも,当研究所の複数の研究分野の教官・研究者が関与している。
現今日本政府の行財政改革路線の結果,国立大学の独立法人化は既定の事実として冷静に受け止め,適切に対処しなければならない。当研究所も総合目標(Mission Statement)に沿って,研究の集中化・効率化・社会への還元及び国際貢献を通じて,世界に開かれた研究所としてそれ独自の存在意義を明らかにする必要がある。研究所所員並びに関係者ご一同のご支援・ご協力をお願いする次第であります。
平成12年8月11日