宿主病態解析部門 暑熱順化機構分野

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本分野は,平成6年度に新設され,熱帯地環境がヒトおよび動物へ与える影響,この直接的影響により生じる二次的障害,さらに熱帯地環境への適応のメカニズムを解明し,熱帯医学への応用を目的としている。

研究活動

熱帯地環境で,特に生体影響が強い環境因子の暑熱および紫外線について研究している。

ヒトの短期・長期暑熱順化に関する研究

ヒトの短期暑熱順化は,日本人の春から夏へ向かう期間に,人工気候室で温度負荷を加え皮膚血流量を反映する皮膚温・発汗などの熱放散反応を指標とする。短期暑熱順化では,大量の汗(無効発汗:流れ落ちて体温を下げる効果が低い)をかく過剰反応が生じ,また汗の電解質濃度が高く,生体にとっては損失が大きい。

ヒトの長期暑熱順化で対象とする熱帯地住民は,一般に皮下脂肪が薄く四肢が長い細身の体型で,非蒸発生熱放散による体温調節に優れている。日本人と同じ温度負荷に対して,少量発汗・低電解質濃度で,生体への損失が少ない。[下図:発汗実験]  本研究では,若年者・高齢者へ偏りがある熱中症による犠牲者の減少,および壮年者の暑熱に対する能力適応(不快感や疲労が減少し作業能力が高まる)により,社会的・経済的効果を上げるのが目的である。

人工気候室内での温熱性発汗実験

有効な紫外線防御に関する研究

熱帯地や山岳地の陽射しは強く,多量の紫外線が生体に様々な障害を引き起こす。一方,地球上の生物は,生命維持に有害な紫外線に対する防御法を,進化の過程で獲得してきた。我々は,特に紫外線環境が厳しい砂漠・低緯度地域・山岳地等に生息する野生動物に備わった,紫外線防御の効率や防御機序を研究している。

この研究では,環境やヒトへ影響が少なく,自然に近い紫外線防御法を,野生動物の紫外線防御から考案し,紫外線の脅威を除く事が目的である。[下図:下層が黒色の2色構造した体毛をもつ野生動物では,黒色部で紫外線吸収し皮膚組織を防御している。]

紫外線による生体防御機能低下が熱帯病の感染におよぼす影響

強い紫外線の長期間曝露で皮膚癌が生じるが,少量の紫外線でも疾病感染に対する生体防御機能に影響すると考えられる。特に,紫外線の影響が強い熱帯地では,多くの住民が感染症で苦しんでいる。

マウスへのマンソン住血吸虫感染実験において,人工紫外線(UV−B)照射群では,紫外線非照射群と比較し,皮膚から侵入した感染幼虫数・生体で生存していた回収成虫数が有意に高い値が認められた。更に,太陽紫外線でも同様の影響があるのか研究を行っている。現在,住血吸虫症だけでも,熱帯地では約2.5億の患者が苦しんでいる。

この研究は,感染症に対する紫外線影響を解明して,疾病感染の抑制に貢献する。特に,紫外線が強い熱帯地における感染症対策を目的としている。

助教授(兼任)大渡 伸

海抜3200メートルの山岳地に生息するナキウサギ