呼吸器感染症

診療科としての熱研内科初代教授の松本慶蔵教授時代(1974年 ~ 1993年)から,熱研内科は呼吸器感染症の起炎菌決定法,感染成立機序,抗菌化学療法論については,日本のオピニオンリーダーとして活躍してきました.永武毅教授時代(1994年 ~ 2004年)の業績としては,1)呼吸器病原性菌による気道上皮への接着機構,2)分子生物学的手法による薬剤耐性菌の伝播様式,3)慢性気道感染症の気道炎症病態,4)肺炎や気道炎症の終息・修復機構に関する研究が挙げられます。

「超高齢化時代の肺炎の実態を明らかにする~多施設共同研究; APSG-J研究~」

熱研内科は伝統的に、呼吸器感染症の研究を積極的に行ってきた。有吉教授の就任以降は、ベトナム・ニャチャンでの小児呼吸器感染症サーベイ(2005年〜)をはじめとして、東北大震災後の肺炎発生率調査(2011年)、高知県での成人市中肺炎調査(2008年~2010年)、神奈川県での肺炎球菌性肺炎のアウトブレークの報告(2014年)などがあげられる。これまでの蓄積をもとに、2011年秋から始めた多施設共同研究では、国のワクチン行政や教科書を書き換えるような成果を目指している。

きっかけから多施設共同研究(APSG-J研究)へ
2012年、人口動態統計において、死亡原因としての肺炎が脳血管障害を抜いて3位となったことが話題になった。その死亡の95%超は65歳以上におけるものであり、高齢化社会における肺炎の疾病負荷は非常に深刻である。一方、高齢者の肺炎は非常に多様であるので、緻密で積極的な医療・保健政策の構築が必要である。しかし、日本においてはこれまで、成人肺炎の良質な客観的疫学データはほとんど存在していなかった。本邦における成人肺炎の臨床疫学的研究は、これまで検査室ベースで起炎微生物の分類を中心に報告されたものが多く、「コミュニティのなかでどのような肺炎がどれだけ起きているか」を知る必要があった。私たちは、日本において実際にどのような肺炎がどのくらい発生しているのかを明らかにするため、多施設での疫学研究を行った。
その先駆けは、2008年から2年間、高知県の近森病院における市中肺炎(CAP)調査であった。高知市におけるCAPの発生率と原因微生物について検討した。その結果CAPの発生率は9.6/1,000人/年と推定され、年齢とともに著名に上昇していた。実はこの数字自体、これまで必要とされつつ得られなかった成果である。これを出発点として、多施設共同研究を2011年9月から開始した(Adult Pneumonia Study Group – Japan; APSG-J研究という)。この研究では、CAPに高齢化社会で重要な医療ケア関連肺炎(HCAP)をも含めた市中発症肺炎(community onset pneumonia; COP)の疫学を明らかにするのが目的であった。近森病院に加え、順次、北海道の江別市立病院、千葉県の亀田総合病院、長崎市の十善会病院の四施設(それぞれの地域におけるもっとも多忙なERをもつ急性期病院)において、前向きに15歳以上のCOP症例の登録を行った。

研究成果
この研究によって、日本における肺炎の発生頻度(16.9/1,000人/年)、それが年齢や性別、起炎微生物(細菌やウイルス感染)、基礎疾患などによってどのように違うかを明らかにした(1)。手前味噌ながら、高齢化社会における肺炎の全貌を詳らかにした論文であり、とある肺炎の研究の第一人者からはこれを読めば日本の肺炎のすべてがわかると褒めていただいた。これから高齢者の肺炎をどう予防し、どう治療していくのかを論じるためには不可欠なデータであり、今後の保健行政にも生かされていくと確信している。現在、この研究でのデータを利用して、高齢者肺炎の臨床像、繰り返し肺炎の危険因子、ウイルス関連肺炎、肺炎球菌性肺炎の血清型分布と臨床像について論文をまとめており、それぞれ投稿または投稿準備の段階である。
また、江別市立病院、亀田総合病院、近森病院、十善会病院という第一線の急性期病院と信頼関係を構築し、共同で研究を行えたことも、教室としてとても大きな収穫であった。

あたらしい肺炎球菌性肺炎研究
2014年6月に13価蛋白結合型肺炎球菌ワクチン(PCV13)が65歳以上に適応拡大され、また同年10月からは、23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)が65歳以上に定期接種化された。肺炎球菌性肺炎の重要性はこれまでも示したところであるが、PPSV23については、成人非侵襲性肺炎球菌性肺炎を予防するかは国内外の研究では一定していない。一方、PCV13については、オランダで行われた研究で、ワクチン含有血清型による肺炎球菌性肺炎の発症を45%程度抑制したことが報告された(CAPITA試験)。しかしながら、この研究では本邦で問題となる75歳以上の高齢者は30%程度しか含まれていない。では実際に、日本においてこれらのワクチンがどれくらいの肺炎球菌性肺炎を予防するのか。これを血清型置換の問題やそれぞれのワクチンの真の予防効果をあわせ、これから明らかにしていきたい。その手始めとして、2016年5月から、APSGJ研究の四施設に佐世保市の長崎労災病院を加えた5施設で、肺炎球菌性肺炎のサーベイを開始している(JPAVE研究)。

(1)Morimoto K, Suzuki M, Ishifuji T, Yaegashi M, Asoh N, Hamashige N, et al. The burden and etiology of community-onset pneumonia in the aging Japanese population: a multicenter prospective study. PLoS ONE. 2015;10(3):e0122247.

現在のラボから:細胞から臨床へ(ミクロからマクロへ目を向ける)


アポトーシスとは?
アポトーシスとは、細胞死の形態の一つである。細胞が膨潤して崩壊していくネクローシス (壊死)とは異なり、アポトーシスを起こした細胞は、隣接する食細胞にとりこまれて処理されるため、『クリーンな細胞死』とも言われる。

エフェロサイトーシス(Efferocytosis)とは?
アポトーシス細胞はマクロファージや好中球などの食細胞により貪食処理(ファゴサイトーシス)される。この機序をエフェロサイトーシスと呼ぶ。この貪食処理により死細胞から炎症を引き起こす分子(炎症性サイトカイン)の放出を防いでいる。アポトーシス細胞がネクローシス細胞まで進んでしまうとさらに炎症性物質の産生が強くなる。マクロファージはアポトーシス細胞を貪食するが、生きている細胞やネクローシス細胞を貪食する能力は低い。なぜなら、アポトーシス細胞が細胞表面に、"eat me" シグナルをマクロファージに対して提示し、これをマクロファージが認識し、貪食しているためだと考えられている。したがってアポトーシス細胞の段階の死細胞を如何に効率よく処理するかが、炎症の制御には非常に重要である。Eat me signal で最もメジャーなのがアポトーシスになると細胞表面に出てくるphosphatidylserine(PS)という細胞膜を構成するリン脂質である。マクロファージはそのPSを認識して貪食へのスイッチが入る。アポトーシス細胞を認識するレセプター(BAI1,TIM4など)や認識に介するbridge molecules(MFG-E8,calreticulinなど)と呼ばれる分子の同定や解析が近年、この分野の研究で解明されつつある。

臨床に目を向けて、肺の炎症の場では?
肺で炎症が起こるとまず好中球がやってきて、炎症の原因となっている異物(細菌など)を貪食する。役割を終えた好中球は自らアポトーシスとなり、その次にやってくるマクロファージに”eat me”シグナルを出して貪食されて役割を終える。もし、このマクロファージによるアポトーシス細胞の処理が上手く働かなかったらどうなるだろう? 役割を終え処理されるべき好中球は壊死(ネクローシス)してしまい、逆に炎症性サイトカインを放出し、終息する炎症が収まらず遷延してしまう。つまり、“炎症終息”の過程が障害される。例えば、細菌を抗菌剤で治療して細菌は除去(殺菌)されても、炎症がなかなか治まらず病態としては遷延する場合を臨床の場ではしばしば経験する。ARDS、重症肺炎、重症感染症そして慢性炎症性疾患(呼吸器ではCOPDやIPFなど)では、アポトーシス細胞の処理が障害されていると考えられており、我々はその機序の一部として炎症終息の障害があるという仮説のもとに、呼吸器感染マウスモデルで炎症終息と組織修復でのHGFの役割(Morimoto K,et.al.AJRCMB;2001)やMCP-1/CCL2の炎症終息における重要性(Amano H,et.al.JI;2004)などを明らかにしてきた。また、スタチンの新しい臨床的意義を慢性閉塞性肺疾患とアポトーシス細胞除去の観点から提唱してきました(Morimoto K,et.al.JI;2006)。引き続き、臨床へフィードバックを常に念頭におき、現在も炎症終息機構をテーマにマクロファージの貪食活性を上げる、もしくは下げる分子の検討やその活性化、不活性化の機序の解明などの研究を進めています。

Efferocytosisとは?(PDF)

文責 田中健之
2008年10月(2014年3月一部改訂)

最近の当科の肺免疫の研究の流れ
呼吸器疾患における宿主の免疫反応がどのように疾患の病態生理に関与しているのか?
感染症疾患や慢性炎症性疾患における宿主の反応が炎症の終息過程でどのように制御されているのか?
リサーチグループ(山下嘉郎、高木理博、田中健之、森本浩之輔)

当科の呼吸器免疫の研究の流れは、微生物側の観点に加えて、ここ最近では宿主側の観点から進めてきました。そこには、臨床の現場にて、起炎菌が同定されて、選択した抗生剤も正しいのに、治療反応性が乏しい症例やよくわからない炎症が遷延する症例を時に経験するため、そのような病態にどんな宿主の因子が関与しているのだろうかという疑問があるからです。
この観点は感染症という炎症の話だけではなく、ここ最近は様々な非感染性の疾患も炎症性疾患として認識されてきており(COPD、気管支喘息、動脈硬化症、関節リウマチなどの自己免疫性疾患)、炎症の遷延、炎症終息の障害という観点からはある意味共通したリサーチ・クエスチョンが根底にはあります。

体内での免疫担当細胞ではリンパ球の役割はもちろん非常に大きいですが、肺内の主要な細胞は肺胞マクロファージであることから実はマクロファージの役割も非常に大きく、しかし、そのマクロファージの機能では依然未知の部分も多いのが現状です。また、肺胞を構築する肺胞上皮細胞も疾患のpathogenesisとの関連で未知の部分が多いのです。

我々は当ホームページの別記事にもあるように、Efferocytosis(別記事のefferocytosisの説明記事参照)の機序の解析を軸に、炎症終息過程のHGFやMCP-1やスタチンの関与の研究が報告され(Morimoto K, et al. Am. J. Resp. Cell. Mol. Biol. 24: 608-615,2001, Amano H, et. al. 2004. J. Immunol 172:398-409, Morimoto K, et. al. J.Immunol 176: 7657)、その流れからMCP-1によるマクロファージの貪食機能の活性化にはRac1というsmall Gタンパクの活性が不可欠であることや( Tanaka T, et al. BiochemBiophys Res Commun. 2010 Sep 3;399(4):677-82.)、IPFとefferocytosisの関連性の研究の報告もなされました(Mormoto K, et al. Res Med 2012 vol. 106 (12) pp. 1800-1803)。また最近では、神経伝達物質のセロトニンと炎症性疾患の関連がいくつか報告されており、このセロトニンとマクロファージの貪食活性の機序を報告しました(セロトニンが貪食活性を低下させ、その機序にRhoAというsmall Gタンパクの経路の活性が関与)(Tanaka T, et al. J Biol Chem, published online, Feb 25 2014)。これらの研究の流れは、炎症終息過程にはマクロファージの貪食能がその制御に重要な役割を果たしていることを明らかにしており、主に肺免疫における炎症制御戦略においてユニークな観点であります。

臨床の現場では、既知の疾患で既知の治療を行う場面ばかりではなく、時には病態が不可解で説明つかない場合もあります。当科ではそのような患者の病態解明にもいろんな角度から解析を行っています。

35歳の肺胞蛋白症のある症例を経験した際には、基礎疾患もなく、抗GM-CSF自己抗体も陰性で、これまでの肺胞蛋白症の分類では分類できない症例を経験しました。新潟大学の中田光教授と当教室の共同研究で、この症例が世界で初めてのGM-CSF受容体β鎖の欠損(遺伝子変異)であることが判明して、その患者さんの細胞の機能解析まで行い報告しました(Tanaka T, et al. J Med Genet. 48(3):205-209. 2011,Mar)。この研究は肺胞蛋白症の病態の解析において非常に重要であっただけではなく、肺胞マクロファージの機能の解明にも重要な研究でありました。

若年性(18歳)の間質性肺炎の症例を経験したときは、問診から家族歴(母親や祖母)があることが判明し、その兄弟(14歳,16歳)も若年性の間質性肺炎があることが判明して、患者さんの細胞からSPC(サーファクタントプロテインC)の新規の遺伝子変異を長崎大学人類遺伝学教室との共同研究で同定して、細胞の機能解析まで行い報告しました。(Ono S, et al. Eur Respir J. 38(4):861-9. 2011, Oct)。この研究では新規の遺伝子変異での発見だけではなく、実際その変異タンパク質導入で肺胞上皮細胞の小胞体ストレスが活性化していることを証明したことで、間質性肺炎のpathogenesisと小胞体ストレスの関連性を示唆する研究でありました。

現在、当科ではこの肺免疫の流れで、炎症終息過程の機序のテーマでの研究が進行中です。その研究のターゲットは、糖尿病、ARDS,肺炎やその他の感染症や慢性炎症性疾患や自己免疫疾患と非常に多岐に渡る分野に応用できると考えています。

これらの研究に興味があれば連絡お待ちしています。

2014年3月文責 田中健之

小児急性呼吸器感染症患者における分子生物学的手法(Multiplex-PCR法)を用いた包括的病原体同定法の有用性に関する研究

背景
急性呼吸器感染症は年齢、性別問わず、高い罹患率、死亡率をもたらす疾患である。

WHOによると5歳以下の小児では死因の約20%が急性呼吸器感染症(肺炎 細気管支炎 気管支炎)によるものであり、うち90%が肺炎に起因すると概算されている。

毎年160~180万人の小児が急性呼吸器感染症によって死亡していると推察されており地域によらず死亡原因の第2位を占めている。小児ではRSウイルス、パラインフルエンザウイルス、インフルエンザウイルスが細気管支炎、下気道感染症の主な病原体である。また市中肺炎を引き起こす病原体として、肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラキセラなどあるがこれらは菌血症を伴う肺炎を引き起こす病原体としても知られている。さらに近年、クラミジア、レジオネラ、マイコプラズマのような異型肺炎の病原体が呼吸器感染症の重要な原因であることが示唆され、市中肺炎の15~50%を占めているとされている。微生物学的診断法の確立は適切な治療を行うためには重要なことであり、多くの精力的な研究が行われているにもかかわらず、従来からある同定法には限界があり、市中肺炎の原因微生物を50%以上の精度で同定することですら困難である。

そこで核酸増幅法は現在知られているほとんどの急性呼吸器感染症の病原体を少量の核酸から同定できる非常に優れた方法である。我々は12種類のウイルス(ヒトメニューモウイルス、RSウイルス、インフルエンザウイルスA,B、パラインフルエンザウイルス1,2,3,4、ライノウイルス、アデノウイルス、コロナウイルス、ヒトボカウイルス)を一度に短期間に検出する方法(Multiplex-PCR法)を開発し実際の臨床の現場での有用性を検討すべく、すでに研究拠点であるベトナム(ニャチャン)では約1000検体の解析を終了し、2008年4月より長崎の小児(長崎大学病院、長崎市民病院)を対象に同様の調査を開始し、最終的には日常の小児診療、小児呼吸器感染症の予防に役立てることができればこの上ない喜びである。

この方法は、培養に基づく分離同定方法とは異なり、微生物の生死に依存しないため、抗生剤の投与に前投与に影響されることは少なく、短時間で結果を得ることができる。また、肺炎球菌 インフルエンザ桿菌
モラキセラなど気道に定着することは知られているが、核酸増幅法によりそれらの菌が定着しているのか、あるいは気道感染の原因となっているのかを区別することができる。細菌の気道への定着率が高いこと、従来からある同定法には限界があることなどから小児領域の臨床において急性呼吸器感染症における原因微生物の同定がルーチンで行われることは稀である。このような現状で病院診断を改善するために、一連の核酸増幅診断システムは小児症例での原因微生物同定において確立、試行されるものである。

現在、長崎市民病院小児科、長崎大学病院小児科のご協力を得て主にウイルスの同定を行っている。

期待される結果
急性下気道感染症に対して適切な治療を行うため重要である病因同定に有用である。肺炎を引き起こす病原体を知ることは治療の計画やワクチン接種の方針を決める上で重要である。この研究は定型細菌だけでなくウイルスや非定型菌について着目した数少ない研究になるだろう。また、入院を要するウイルス性の急性下気道感染症について明らかにすることになるだろう。

原田義高

「呼吸器病原性菌による気道上皮への接着機構」

インフルエンザ菌のヒト気道上皮細胞へのガングリオシドリセプターによる付着(Kawakami K, et al. Microbiol Immunol, 42:697-702,1998),インフルエンザ菌の咽頭上皮付着と去痰剤の影響について報告しました(Cheikh TN, et al. Microbial Pathogenesis.30:121-127,2001).

一方,モラキセラ菌の気道上皮への付着機序について,精力的な研究が展開されています(Rikitomi N,et al. Microbiol. Immunol, 41:487-494, 1997).本菌のヒト咽頭上皮細胞への付着には去痰薬が抑制することも報告しまた(Zheng, CH, et al. Microbiol Immunol, 43:107-113,1999).また,本菌は咽頭上皮の陽性荷電部分に付着し(Ahmed K, et al.Microbial pathogenesis, 28:203-209, 2000),そのアドヘジンはasiao GM1,asioalo GM2であることを明らかにした(Kamruddin A, et al. Med Microbiol Immunol 191: 5‐10, 2002).今後,去痰薬やアドヘジンアナログによる菌定着予防法の確立が期待されます。

「分子生物学的手法による菌伝播様式」

国内における1994年までの肺炎球菌のβラクタム耐性の急増を報告し (Rikitomi, N., et al. Microbiol. Immunol, 40: 899-905,1996.),肺炎球菌感染症の親子間の伝播の可能性を分子疫学的手法により証明しています(Hoshino K, et al. J Clin Microbiol. 40: 4357-4359,2002).同様にインフルエンザ菌の薬剤耐性と親子間の伝播についても分子疫学的手法で明らかにしました(Watanabe H, et al. J. Clin. Microbiol 42:362-5, 2004).

モラキセラ・カタラーリスについては,過去10年間の薬剤耐性の推移(Martinez G, et al. J Infect Chemotherapy. 4:139-141,1998),モラキセラ・カタラーリスのLOS共通抗原を認識する単クロン抗体を用いた本菌の検出法の確立し(Oishi K, et al. Clin Diagn Lab Immun. 3: 351-354, 1996),また本邦におけるモラキセラ菌の年次的遺伝子パターンの変化(Martines G, et al. Epidemiol Infect. 122: 417-422,1999),さらにはモラキセラ菌による院内感染の分子疫学調査(Masaki H,et al. Microbiol Immunol. 47:379-85,2003)まで幅広く研究を展開しました。

一方,MRSA院内感染の実態とその対策についても精力的におこなってきました.2000年以降は分子生物学的手法を用いて,MRSA下気道感染症における上気道の定着菌の役割(Watanabe H,et al. J Clin Microbiol. 38: 3867-3869, 2000),本邦におけるムピロシン耐性MRSAの市中への拡散とムピロシン使用による耐性菌発生の機序(Watanabe H,et al. J Clin Microbiol.39:3775-3777,2001, Watanabe H, et al. J Hosp Infect. 47: 294-300,2001),分子疫学手法によるMRSA腸炎の発症と上気道分離菌の関与(Watanabe H, et al. Microbiol. Immunol. 45: 629-634, 2001),MRSA感染対策実施によるMRSA敗血症の減少について詳細に報告しています(Masaki M, et al. Intern. Med.40: 214-220, 2001)。

「慢性気道感染症の気道炎症病態」

慢性気道感染症の病態として,気道のIL-8産生と好中球浸潤の悪循環が存在することを指摘し,14員環マクロライドのエリスロマイシンがIL-8産生誘導を低下させることを報告しました(Oishi K,et al. Infect. Immun. 62 : 4145-4152, 1994).次に,慢性気道感染症のIL-8産生誘導の一因として,緑膿菌由来のinterleukin-8産生因子としてPseudomonas nitrite reductase (PNR)を初めて同定しました(Oishi T, et al. Infect. Immun. 65: 2648-2655,1997).PNRは抗菌薬や補体による破壊により放出され,気道上皮細胞からIL-8産生を誘導し(Sar B, Antimicrob. Agents. Chemother. 43: 794-80, 1999),さらにはPNRのIL-8産生誘導にNF-kBの活性化が必須であることを明らかにしました(Mori N, Infect.Immun. 67: 3872-3878,1999).また,PNRは肺胞マクロファージや肺胞上皮細胞においてIL-8産生のみならずとMCP-1産生を誘導することも報告しています(Sar B,et al. Microb. Pathog. 28:17-23, 2000).

一方,我々はこれまでに14員環マクロライドが慢性気道感染症のIL-8産生を低下させることを報告しましたが,その新たな作用メカニズムとして14員環マクロライドが活性化好中球由来IL-8産生誘導を抑制するが,アポトーシスには影響しないことを報告しました(Tsuchihashi Y, et al. Antimicrob. Agents. Chemother. 46: 1101-1104, 2002).さらに,我々は14員環マクロライドが肺胞マクロファージによるアポトーシス好中球の貪食クリアランスを増強し,気道炎症の終息過程を促進することを報告しています(Yamaryo T, et al. Antimicrob. Agents.Chemother. 47: 48-53, 2003).

一方,我々はマウスあるいはラット緑膿菌性肺炎モデルにおいて,臨床病態を左右する種々の因子について検討してきました.これらの検討から,気道の好中球浸潤におけるTNFaやCINC2の役割(Sonoda F, et al. Microbiol. Immunol. 41: 601-6-8, 1997, Amano H, et al. Cytokine. 12:1662-1668, 2000),塩酸吸引による肺炎増悪の機序(Mitsushima H, et al. Microb. Pathog. 33: 203-210, 2002),ステロイド大量投与における易肺炎発症機序(Satoh S, et al. Clin. Exp. Immunol. 126:266-273,2001),糖尿病状態におけるMIP-2 a産生誘導の低下(Amano H, et al. Infect Immun. 68: 2925-2929, 2000)を明らかにしました.

「細菌性肺炎における炎症終息機構の解明」

マウス緑膿菌性肺炎モデルにおいて肺胞マクロファージ(AM)によるアポトーシス好中球貪食除去がHepatocyte growth factor (HGF)産生を誘導し,AMが炎症終息のみならず気道上皮の再生修復に貢献していることを明らかにしています(Morimoto K, et al. Am. J. Resp. Cell. Mol. Biol. 24: 608-615,2001).さらにこの研究は発展し,同モデルにおいて細菌感染による炎症の終息期に肺内に産生されるMCP-1/CCL2が,AMによるアポトーシス好中球の排除とHGF産生を介して,急性肺炎の治癒過程に重要な役割を果たすことを明らかにしました.また,MCP-1は肺胞マクロファージのフォスファチジルセリンリセプター(PSR)の発現亢進を介してアポトーシス好中球貪食を促進する新しい機構についても発見しました.(のちにこの実験で用いた抗PSR抗体はPSRではなく, その他のアポトーシス細胞の貪食に関わる抗原を認識することが判明している.)これらの新知見から我々は重症肺炎における炎症終息・組織修復といった新たな炎症のパラダイムを提示しています.(Amano H, et. al. 2004. J. Immunol 172:398-409).更に,臨床において利用できる薬剤として,HMG-CoA還元酵素阻害剤(スタチン)がアポトーシス細胞の除去を亢進すること,そして慢性閉塞性肺疾患の患者の肺胞マクロファージではアポトーシス細胞貪食能が低下しており,スタチンにより修復されることを証明し,この分野の臨床応用の可能性を見出しました.(Morimoto K, et. al. J.Immunol 176: 7657)今後は、それでは治らない炎症,コントロールできない炎症とは何なのか,それはどのようにして制御できるのかを解明していきます.

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