フィリピン サンラザロ病院研修

    フィリピン サンラザロ病院 熱帯感染症研修について

    熱研内科では、若手医師(後期研修医、修練医)を主な対象とした熱帯医学臨床研修を10年以上前から実施しています。おもな目的は、感染症専門医を目指す若手医師が、現地で熱帯感染症を深く学ぶ機会をつくることにあります。グローバル化が深化する昨今、本邦でも輸入感染症症例が増加しており、感染症専門医は熱帯感染症に熟知していることが求められる時代になっています。
    フィリピン・マニラに位置する国立感染症専門病院であるサンラザロ病院は、世界でも最も多くの熱帯感染症症例が入院する病院のひとつです。
    (これまでの長崎大学とサンラザロ病院との関係は こちら をご覧ください。
    約4週間の研修期間中、若手医師は現地の医師と共に診療活動にあたり、英語で治療方針ついてディスカッションを行います。研修期間中、数多くの熱帯感染症を診療することができ、よくみられる感染症であるデング熱や腸チフスから、ジフテリアや狂犬病といった稀な感染症も経験することができます。
    熱帯医学グローバルヘルス研究科・熱帯医学修士課程(1年間)学生は、4週間の臨床研修の後も現地に滞在し、約8週~12週かけてサンラザロ病院で研究活動を行います。

    これまでの感想

    MTM
    サンラザロ病院での研修を終えて(岩元 祐太)
    サンラザロ病院での研修を終えて(柳川 愛実)

    修練医
    サンラザロ研修について(山本 優美)
    サンラザロ研修について(岩田 知真)
    サンラザロ病院研修感想文(望月 恒太)
    熱帯地域感染症専門病院における研修(加藤 隼悟)

    症例報告
    サンラザロ病院における1症例(山本 優美)
    サンラザロ病院における1症例(岩田 知真)
    サンラザロ病院における2症例(望月 恒太)

    熱帯感染症ベットサイド研修
    サンラザロ病院での熱帯感染症ベッドサイド研修(齊藤 信夫)

    (長崎大学 感染症内科(熱研内科)/熱帯医学グローバルヘルス研究科 齊藤信夫より)



    この記事は毎年当科の修練医がフィリピンサンラザロ病院に1か月間の感染症研修に行った際に現地から毎週科内のメーリングリストに症例報告をした内容の紹介です。
    修練医が初めて経験する現地の病院での症例報告ですので、認識不足の表現内容も多々ありますが、修練中の医師のリアルタイムの報告ということでご容赦ください。もちろん、このメールに対して当科の上級医がレスポンスしてその後の修正や議論に発展しております。今回はその部分は掲載しておりませんが、初めて経験する若手医師のリアルタイムの報告を拝見ください。

    2016年9月 熱研内科(感染症内科)
    田中健之

    ページ内リンク≫  2014年 2月24日  3月2日  3月10日  3月19日  3月20日
    ページ内リンク≫  2015年 1月16日  1月23日  1月30日  2月5日  2月12日  2月21日
    ページ内リンク≫  2015年 2月27日  3月4日
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    ページ内リンク≫  2016年 11月6日  11月12日  11月18日

    ● 2014年2月24日

    お疲れさまです。
    今のところ元気に研修しています。
    サンラザロ病院で印象的な症例があったので紹介します。

    修練医Aより

    22歳男性で主訴は発熱、鼻出血。受診4日前に熱っぽさがあったがそれ以外の症状は特に みられませんでした。受診1日前解熱傾向となったが、受診数時間前に嘔吐と鼻出血がありサンラザロ病院を受診しました。陽性症状は鼻出血、嘔吐、発熱、眼球結膜充血。陰性症状はカタル、咳でした。既往歴は特になく、仕事も大学を卒業して間もなく無職でした。入院時現症はBT 37.4、BP 120/100, HR 91, RR 20, BT 55kg、神経所見なし、両眼球結膜に軽度充血あり、呼吸音ラ音なし、心音雑音なし、皮疹なし。血液検査ではWBC 6600、HGB 19.5,、Plt 8万、AST 316、ALT 109でした。当初デング熱が疑われましたが、入院翌日に両上肢と体幹に皮疹が出現しています。皮疹の形状もmaculo-papular rash様にもみえ、両眼球結膜の充血があったことから麻疹の可能性も考慮しました。しかし、翌日血清検査でデング熱のNS1(+)IgM(+)IgG(+)と判明し、下肢にも皮疹が出現し性状もhermen's rashであり既往歴のあるデング熱と診断がつきました。この症例で非典型的だったのは、上肢から皮疹が出現したこと、体幹に皮疹がみられたこと(頻度は10%以下のようです)です。熱が下がるまでは血小板が下がるだろうとのことですが、出血傾向が無ければ基本どれだけ下がっても輸血はしないとのことでした。

    あとは治安について教わった注意点についてですが、ご存知の方も多いとは思いますがタクシーは結構危険なことがあります。フィリピンでは薬局で処方薬が買えるので、プロポフォールなどを買う輩がいて空調に混ぜて寝かせてその間にレイプや窃盗をするという犯罪があるそうです。フェローの先生は、タクシードライバーがマスクをしていたら要注意だといいます。
    スリにさえ気をつければ、電車とかの方が安全という話です。

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    ● 2014年3月2日

    お疲れさまです。今のところ元気にやっています。
    サンラザロ病院の研修についてですが、おもしろい症例がありましたので報告します。

    修練医Aより

    (症例)23歳、女性、(主訴)腹痛、水疱疹
    (現病歴)妊娠36週であり、妊娠7ヶ月までは定期受診など一切なかった方。受診3日前に熱っぽさを感じた。受診2日前に腹部に水疱疹がわずかにあった。受診1日前に水疱疹が出現し、腹部から全身に広がった。症状が改善しないため近医を受診し、サンラザロ病院を紹介された。(既往歴)初期結核(幼少時、6ヶ月間の抗結核治療)(生活歴)渡航歴なし、喫煙6本5年間、飲酒毎日ビール1-2本ボトル
    (入院時現症)BT 37.0℃, HR 110, RR 24, BP 120/80、腹痛で叫んでいた。、呼吸音:ラ音なし、心音:雑音なし、腹部:球状に膨隆、顔面、体幹、四肢:水疱疹を多数観察
    (血液検査)WBC 12200(neutro 76.3%、lymph 14.7%、Eosino 0.6%、mono 7.7%、Baso 1.40%)、RBC 341万、Hb 10.5、Hct 0.32、MCV 94、MCH 30.9、MCHC 32.99、Plt 18.8万

    (入院後経過)
    当日は午後11時頃に入院し、水疱疹から水痘の診断でアシクロビル800mg5× 5日間の治療を開始した。入院時から腹痛を認め、翌日午前2時頃に自然分娩があった。2.4kgの女児で、Apgar scoreは8-9点で羊水混濁がみられたため、AMPC、GMの投与が行われ経過良行とのこと(同院小児科で加療された)。母親については、細菌感染予防のため、AMPC/CVA(4/1) 425mg 2×を7日間投与された。その後合併症もみられず、水疱も痂皮化し、7病日に退院となった。

    (症例について)
    びっくりする状況ですが、内科のフェローの先生は分娩室にいき、午前2時頃自然分娩をしたということです。お子さんは母親より先に無事退院したそうです。この患者さんは飲酒、喫煙を続けており、病院への受診も妊娠7ヶ月までなかったそうです。ちゃんとした保健教育は受けていないではないかと思わせる様な一例です。また水痘の合併症の一つに早産があり、夜中にお産があったというとても印象に残る症例でした。

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    ● 2014年3月10日

    サンラザロ病院でのトレーニングコースの1週目が終了しました。
    先週5日間は前半3日と後半2日で2症例ずつ計4症例がチームに与えられ、チームメンバーの4人がそれぞれを症例報告としてまとめました。チームでのディスカッションを繰り返し、Dr.robinやDr,chrisとのディスカッションも行いました。また、水曜と金曜には2チーム全員での各症例のディスカッションを行い、来週の火曜にサンラザロ病院の医師の前でのpresentationが行われます。更に、その間にもサンラザロ病院のドクターによる講義が行われました。
    今回、自分の担当した典型的な麻疹の症例を報告します。

    修練医Bより

    Short title:
    five days of fever, rash, and conjunctival injection.
    Chief complaint:
    fever, cough, anorexia, diarrhea, rash of whole body
    History of present illness:
    A 19-years-old male student was in his good health until 5 days before admission, when fever of thirty-nine degree, cough, anorexia, coryza, conjunctival injection and diarrhea started. His conjunctival injection was in the both eyes.
    The day before admission, he had rash on his face, which went down to his body and extremities. He was seen at local health center and referred to SLH.

    Past medical history: unremarkable
    Social history: currently smorker of 10 sticks per day from 14-years-old. never drink. never illicit drug use. no allergic. never sexual contact with female and male. no sick contact at his family or communities.
    Vaccination is not remenbered.
    Family history: grandmother hypertension, no TB, no DM, no BA

    Review of systems:
    positive: fever, cough, diarrhea, anorexia, rash, conjunctival injection, coryza
    negative: sputum, dyspnea, micturition pain, difficulty of urination
    Physical examination:
    BT 36.5 degree, HR 74 bpm, BP 110/70 mmHg, RR 24 /min
    General appearance: the patient is a well-developed.
    state of consciousness: normal
    HEENT:
    Eyes: conjunctiva is injected, no icterus, no anemic
    Mouth: white and clusterd lesions on both buccal mucosa.
    Lung: clear sound of breath. no crackles.
    Heart: regular, tachycardia, no murmur.
    Abdomen: flat and soft. slight pain of whole abd. no tenderness. no hepatomegaly and splenomegaly.
    Back: no CVA tenderness, no tenderness of spine.
    Extremities: maclopapular rash with confluent

    Differential diagnosis:
    most likely: measles (rash, koplik spots, conjunctival injection, fever)
    less likely: syphilis (yongman, rash), drug rash (rash)
    least likely: rubella, enterovirus
    Management:
    1. resource lmited setting: rehydration, observation
    2. resource rich settig: measles IgM, CBC, Chemistry (electrolyte, renal function), rehydration

    Research question and Method:
    Question: What is the risk factor of severe measles ,such as pneumoniae, encephalopathy?
    Method: case control study. All severe measles cases in 6 months were list up. And several factors of complication cases compare with same factors of non-complication measles cases.

    麻疹の流行を防ぐためには、予防接種が重要と考えられるが、フィリピンでの過去10年に置ける麻疹の予防接種率は60%でほぼ改善していない。また、フィリピンでの麻疹に関する疫学調査も、pubmedでの検索では20年前のstudyが検索されるのみである。2013年から2014年にかけて引き起こった麻疹の流行などを見るに、今後のフィリピンでの麻疹のコントロールを行って行くためには、基礎となる疫学調査は必須のものと考えられる。
    1997年に報告された、フィリピン国内での麻疹の疫学調査1)は、1993-1996年にかけて複数施設で行われたretrospective studyで180症例と比較的小規模なstudyである。34%(61症例)でpneumonia、gastroenteritis、encephalitisといった合併を認め、そのrisk factorsとしては、5歳以下、重症病棟への入院などがあったが、その後の米国の報告2)で合併症発症のrisk factorsとなっていた栄養障害は含まれていないという違いも見られる。
    今回reserch questionとして選んだ、合併症を有する麻疹のrisk factorsのstudyは非常にsimpleである。しかし、フィリピンにおいて過去のepidemiologyの報告が乏しいことから、より大規模な調査を行うことができれば、powrefulなstudyとなる可能性がある。

    1) Ned Tijdschr Geneeskd. 1997 Dec 20;141(51):2492-5.
    2) J Infect Dis. 2004 May 1;189 Suppl 1:S4-16.

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    ● 2014年3月19日

    tetanusの症例を報告します。
    誘引となった外傷は特に認めず、開口障害が初発のようでした。
    患者はATS投与後はすでに改善傾向を示しています。

    修練医Bより

    tetanus
    【主訴】開口障害
    【現病歴】52歳男性。特に誘因なく、当院入院前日より開口障害が出現した。本人からはそれ以前の外傷歴の聴取はできず。家族からは入院4日前の口唇の鈍的外傷の聴取があったが、診察上は明らかな外傷を認めず。開口障害を主訴にフィリピン総合病院を受診した。ENT(eyes,nose and throat)-doctorが診察し、一旦入院となった。Erythromycinの内服を開始したが、翌日に痙笑(sandonic smile)、腹痛と四肢の筋硬直が認めたことから、SLHにコンサルト、転院となった。
    【現病歴】
    アルコール依存症
    内服:常用薬なし
    【社会歴】
    喫煙歴:2-4/dayx30年
    飲酒歴:アルコール依存症。
    職業:5年前より無職。アルコール依存が原因で無職となった。
    破傷風予防接種歴:なし
    【アレルギー歴】
    food(-)、drug(-)
    【身体所見】(ジアゼパムで鎮静中)
    BT 36.6 degree, HR 92 bpm, RR 20 /min, BP 130/80 mmHg,
    頭部:開口障害あり。齲歯多数。痙笑(sardonic smile)
    胸部;no crackles、 no murmur, regular
    腹部:no tenderness
    【検査】
    ・前医でのL/D
    WBC16.50H (Neut0.93H, Lym0.04, Mono0.03), RBC4.88, Hb147, Hct0.437, MCV89.5, NCH30.1, NCHC33.6, RDW13.1, Plt140L
    ・入院時L/D
    CBC: WBC9900 (Neut97.50, Lym20.10, Eos1.30L, Mono10.70, Baso0.40), RBC398L, Hb130, Hct0.379, MCV95.00, MCH32.66, MCHC34.34, Plt304
    生化学: Cre1.00, Na139.90, K3.57
    【problem list】
    #1 tetanus
    ATS on day1 + MNZ500mgx3 + diasepam20mgx4
    本症例でははっきりとした外傷歴はないが、入院時の診察で齲歯が多数認められたことから、エントリーとして齲歯が考えられている。家族の話では入院4日前に鈍的外傷があったとのことであるが、診察上は明らかな外傷を指摘できない(口唇の外傷とのことであるが)。入院4日前に外傷があり、1日前に開口障害というエピソードは通常よりも進行が早い印象もあるが、破傷風症例のうち15%は3日以内の発症であるとの報告もあるようである。
    抗毒素抗体の投与は、day1にTIG(tetanes immune globulin)の投与を推奨しているが、フィリピンでは安価でもあることから、tetanusに対してはATS(Anti Tetanes Serum)が第一選択となっている。TIGの投与はskin testの結果ATSが使用できない場合に限られている。抗生剤はMNZ500mgx3 10日間の投与が行われている。

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    ● 2014年3月20日

    先週に入院となったdengue feverの症例です。

    修練医Bより

    Denge fever
    【主訴】
    41歳男性
    発熱
    【現病歴】
    生来健康な41歳の男性。入院3日前より頭痛・めまいを伴う発熱が出現した。咳嗽やcryzaはなし。アセトアミノフェンの内服を行なっていたが、症状は改善しなかった。入院前日に排尿困難・筋肉痛・嘔吐を認め、持続していた頭痛も強くなっていたことから、SLHを受診した。
    【既往歴】
    2010年 Denge fever
    DM(-), Bronchial asthma(-), HT(-)
    内服薬:なし
    【社会歴】
    喫煙歴:なし
    飲酒歴:なし
    15年前に違法な薬物の使用歴がある。
    家族歴:特記なし
    【sick contact】
    なし
    【アレルギー歴】
    なし
    【身体所見】
    BT 38.1 degree, BP 120/60 mmHg, HR 93 bpm, RR 20 /min
    HEENT: conjunctivitis(+), no anemia, no isteric.
    Lung: clear sound, no crackels.
    Heart: regular, no murmur.
    Abdomen: left CVA tenderness (+).
    Extremities: no edema, no rash.
    【Laboratory Date】
    入院当日)
    dengue virus:NS1 negative, IgM negative, IgG positive
    血算: WBC 4600 (Neut81.5%, Lym8.50%, Eos 6.50, Mono2.90, Baso0.60), RBC563万, Hb16.2, Hct48.3, MCV86.0, MCH28.83, MCHC33.61, Plt16.3
    生化: AST 12 U/L, ALT 4 U/L,, Na 136.90 mmol/L, K 3.38 mmol/L, Cl 93.50 mmol/L

    入院後の血液検査の経過
    WBC 4600(3/15)→5900(3/16)→6400(3/17)
    RBC 563万(3/15)→513(3/16)→558(3/17)
    Hb 16.2(3/15)→15.4(3/16)→16.8(3/17)
    Plt 16.3万(3/15)→7.5(3/16)→4.6(3/17)
    【problem list】
    #1 Dengue fever
    #2 urinary tract infection suspect

    【入院後経過】
    #1 Dengue fever
    入院翌日より解熱し、その後よりPltの減少とhemoconcentrationを認めていることから、現在critical phaseにあると考えられる。出血を示す所見はなし。プロトコールにしたがって輸液を行なっている。入院時の血清学的検査ではNS1とdengue IgMが陰性であったが、検査時期がやや早かったことが原因と考えているようです。患者は早期退院を強く希望していて、治療継続が難しい状況で、Dr.はPltが上昇してきたらすぐにでも退院を考えています。
    本症例では経過中に皮疹を全く認めなかった。dengue feverでは3割程度は皮疹を認めないようで、本症例では入院時に発熱と嘔吐でdengue feverと診断している。WBCが上昇していないことからは細菌感染よりウイルス感染が疑われるが、dengue virusの血清学的結果も陰性で、dengue feverと診断して良かったのかは自身は疑問があり、尿路感染の精査も不十分。
    #2 UTI疑い
    入院時に排尿困難やCVAtenderness陽性であったことから、尿路感染の併発が疑われた。しかし、患者に尿検体採取のためにカップを渡しているようであるが、患者は治療にあまり協力的ではなく、採尿を行なってくれないとのこと。尿検体が得られていないことや、全身状態が落ち着いていることから抗生剤の投与は行なっていない。自身の診察時は抗生剤投与がなかったにもかかわらず、すでに排尿痛やCVAtendernessは消失していた。

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    ● 2015年1月16日

    お疲れ様です。サンラザロ病院での研修が1週間終了しました。とても内容の濃い一週間で、さまざまな症例を見学させていただいています。その内の一症例を報告させていただきます。

    修練医Cより

    [症例]29歳、男性
    [主訴]発熱
    [現病歴]ギニアへ仕事で10週間滞在後、入院4日前に帰国。マラリアの予防内服なし。入院2日前に悪寒を伴う発熱、腹痛、下痢を自覚。発熱に対してパラセタモール500mg内服。入院前日に前医受診、マラリア迅速キット陽性と判明。精査・加療目的でサンラザロ病院紹介入院。
    [既往歴]2010 マラリア(おそらく熱帯熱マラリア)
    [生活歴]職業:オイル製造業、家族:妻、喫煙:20pack year、飲酒:なし
    [入院時現症]BT:37.1℃ HR:120/min BP:110/60mmHg RR21/min SpO2 97%(RA)
    意識清明 眼球結膜黄染なし 眼瞼結膜貧血なし 口腔:扁桃肥大なし、咽頭後壁発赤なし
    胸部:呼吸音ラ音なし、心雑音なし 皮疹なし
    腹部:平坦、軟、圧痛なし
    皮疹なし 脳神経学的異常なし
    [血液検査]WBC:9.0(Neu76.1 Lym17.6 Eo 1.6 Ba4.7) RBC4.8 Hb13.6 Ht0.41 Plt55 APTT 27.50sec PT-INR 1.10
    [血液塗抹検査]Plasmodium falciparum 21520mm3
    [入院後経過]uncomplicated P.falciparum malaria対してArtemether20mg/Lumefatrine120mgを0、8、24、,36、48、60時間後(day1-3)の計6回内服、day4にprimaquine15mg内服。入院当日の 21520/mm3をピークにday6には80/mm3まで減少し、発熱なく全身状態も改善していたが、day7に160/mm3まで上昇を認めたためday9からQuinine10mg/kg/dose 8時間毎、Doxycycline3mg/kg/day 開始となった。投与期間の目安は7日間が推奨されているが、塗抹をフォローし判断する予定。
    サンラザロ病院でのマラリア症例はほとんどが本症例のようなアフリカへの出稼ぎ労働者による輸入感染症であるそうです。熱帯熱マラリアは通常、マラリア流行地域で蚊に刺された後7−30日の潜伏期間を経て、非特異的な症状(発熱、全身倦怠感、頭痛、腹部違和感、筋肉痛、関節痛など)を呈して発症し、rapid diagnosis test (RDT)や血液塗抹検査などで診断、治療としては薬剤耐性を考慮し単剤での治療は推奨されず、Artemisinin-based combination therapy(ACT)による3日間の治療がfirst lineとなり、サンラザロ病院ではArtemisin/lumefantrineの合剤を3日間内服と、熱帯熱と三日熱の共感染の可能性を考え、4日目にはprimaquineの内服も全例行っているようです。塗抹は入院2日間は48時間毎、その後は陰性となるまで連日フォローを行い、陰性が確認できれば退院の上、外来にてday7、14、21、28にもフォローを行います。本症例では治療終了後14日以内に発熱など症状の増悪は認めないものの塗抹での増悪を認めており、Late parasitological failure(LPF) と判断され、second lineのQuinine+Doxycyclineが開始となりました。治療終了後14日以降での増悪は再感染が考えられ再度ACTでの治療が可能ですが、14日以内での増悪は治療不応と判断されACT以外での治療が推奨されているそうです。
    [参考文献]
    Guidelines for the treatment of malaria second edition WHO
    Oxford handbook of tropical medicine 4th edition
    Tropical medicine Lecture Notes 7th edition
    Tropical medicine textbook of the SanLazaro Hospital

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    ● 2015年1月23日

    サンラザロ研修に来て早くも2週間が経過しました。先週はローマ法王がマニラに来訪され、町中はローマ法王のTシャツを着た人々で溢れかえっていました。今週の症例を報告させていただきます。

    修練医Cより

    [症例]42歳、男性
    [主訴]嘔吐、狂水症状
    [現病歴]入院1ヶ月前に右手を犬に噛まれ、近くの民間診療所に相談し水牛の骨による治療を受けていた。犬の行方は不明。入院1日前に嘔吐を認め、近医受診。急性胃腸炎の診断で対症療法となっていた。入院数時間前に近医再診したところ狂水症状を認め、狂犬病が疑われたためサンラザロ病院紹介、咬傷歴と症状から狂犬病と診断され、同日入院となった。
    [入院時現症]BT37.1 HR72 RR24 BP130/90 SpO2 98% [血液検査]WBC7.7(seg74 Lym20) Hb145Ht0.43 RBC4.6 Plt205 [診察所見](病室外から観察)意識清明 右腕咬傷痕の疼痛あり 送風による筋攣縮あり 四肢麻痺なし
    [入院後経過]狂犬病隔離室に入院、上肢拘束とし、ジアゼパム・ハロペリドール投与。入院当日の深夜に呼吸器障害により死亡。
    狂犬病はイヌ、ネコ、オオカミ、キツネ、ジャックル、スカンク、コウモリに咬傷されることで感染し、潜伏期間はウイルスが脳に達するまでの期間で平均数ヶ月であるが4日から数年の報告もある(小児や顔面や頸部の咬傷では早い)。発症後はほぼ100%死に至り、サンラザロ病院のDrの印象では狂水・狂風症状をきたした場合は48時間以内に亡くなることが多いそうです。
    初発症状としては咬傷痕の疼痛や掻痒感などでその後、頭痛、発熱、混迷、幻覚など。疼痛を伴う筋攣縮が特に問題となり、水分摂取による咽頭筋の攣縮(hydrophobia)、横隔膜・呼吸筋攣縮、送風による顔面の攣縮(aerophobia) が生じ、最終的には攣縮による心臓・呼吸器障害により死亡する。
    診断としてはその他ウイルス同定(唾液、脳、CSF)、抗原測定(皮膚生検)やPCR(唾液、皮膚生検)、抗体価などありますが、神経学的症状と流行地域での動物咬傷歴で臨床的に診断されている例が多いようです。治療としては痛みや恐怖に対する鎮痛・鎮静薬などの対症療法が中心となります。サンラザロ病院ではコレラ、腸チフス、ポリオ、髄膜炎菌感染症、狂犬病、ジフテリア、SARS、新型インフルエンザ、エボラ患者は強制入院の対象となっており、本症例も家族は帰宅を希望していましたが、Rabies roomでの隔離入院となっていました。ほとんどが動物からの感染で、ヒトヒト感染は臓器移植による感染の報告例があるようです。感染対策としては、医師は部屋の外からのみ診察し、看護師も注射などの処置の場合はPPEを装着していました。また家族には暴露後ワクチンの接種が行われる予定です。廊下からの観察およびカルテレビューのみでしたが、狂風症状などを見させていただき、貴重な体験となりました。

    [参考文献] WHO Expert Consultation on Rabies,Oxford handbook of tropical medicine 4th edition,Tropical medicine Lecture Notes 7th edition,Guidelines on animal bite management in SanLazaro Hospital 2010

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    ● 2015年1月30日

    お疲れ様です。サンラザロ研修も3週間がたち、だいぶこちらの研修にも慣れてきました。
    今週も症例報告させて頂きます。

    修練医Cより

    [症例]48歳、男性
    [主訴]頚部痛、腹痛、背部痛、開口障害
    [生活歴]飲酒喫煙歴なし 仕事 自営業 既婚 ワクチン接種歴なし
    [現病歴]3週間前に1cm程度の釘を踏み、1.5cm程度の傷を負った。釘を抜去し、洗浄の上、自分で薬局で購入したアモキシシリン500mgを数回内服して経過をみていた。入院4日前に1日に2回程度の開口障害を自覚。3日前には頚部硬直および5/10程度の頚部痛を自覚。2日前には背部および腹痛の硬直を自覚。入院数時間前に嚥下障害を認め当院に救急搬送された。
    [入院時現症]BT36.0 HR59 RR24 BP120/80 SpO2 96%(RA) 意識清明 貧血なし 黄疸なし 項部硬直あり 開口障害あり 呼吸音清 ラ音なし 心音整雑音なし 腹部板状硬 右足底部に創部痕あり頚部、背部、四肢攣縮あり 浮腫なし
    [検査所見]WBC 6000 RBC 4.57 Hb14.1 Hct43 Plt 189000 BUN5.69mg/dl Cre0.98mg/dl Na143mEq/l K 3.21mEq/l Cl 106mEq/l AST 20IU/l ALT16IU/l
    [入院後経過]創部および臨床症状から破傷風と診断。ATS(抗破傷風血清)20000単位、メトロニダゾール500mg×4回/日、ジアゼパム100mgを6時間で持続投与および10mgを6時間毎に静注開始。徐々に攣縮は改善しジアゼパム漸減、第6病日に終了。開口障害も残存しているものの、改善しており、嚥下テストにて誤嚥なく、粥食から開始、現在も入院中。

    本症例は良好な経過をたどった破傷風の一例でした。
    破傷風も潜伏期間は平均1週間とされており、早いほど重症化するリスクが高いと言われていますが、本症例は17日程度でした。本症例は呼吸状態は比較的良好で、筋攣縮も短時間のみでしたので、gradeⅡの中等症の破傷風であったと思われます。臨床的に診断され、明らかな創部がない場合は口腔内感染や中耳炎からの感染などを考え検索するそうです。入院適応は開口障害、痙笑、腹部硬直、筋攣縮を認めた場合となっていますが、軽傷にみえても急激に悪化するためほぼ全例入院となります。治療はサンラザロ病院のガイドラインに沿って行われ、ATS(抗破傷風血清)20000単位またはTIG(TetanusImmuneGloblin)3000単位、トキソイド(入院日、(前回接種から)1ヶ月後、6ヶ月後、1年後、1年後の計5回)、メトロニダゾール、ジアゼパム投与を行います。中等症から重症の場合は気管切開を推奨しますが、金銭的な問題から施行できない症例もあるようです。退院の基準は開口可能であり水分または固形摂取できること、7日間攣縮がないことであり、本症例も今後入院継続し経過観察する予定となっています。
    気管切開例も多くみられ、切開後はICU管理となるようです。現在ICUには5例入院があり4例が破傷風、1例は結核性髄膜炎患者と多くの破傷風患者が入院しています。

    [参考文献]Current recommendations for treatment of tetanus during humanitarian emergencies WHO January 2010 Oxford handbook of tropical medicine 4th edition Tropical medicine Lecture Notes 7th edition Tropical medicine textbook of the SanLazaro Hospital

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    ● 2015年2月5日

    お疲れ様です。
    サンラザロ病院の研修が開始してから4週間が経過し、遂に明日で最後となりました。
    恵まれた環境で、充実した研修生活を過ごすことができました。このような機会を与えて頂き、本当に有難うございました。
    最後の症例報告をさせて頂きます。

    修練医Cより

    [症例]24歳、男性
    [主訴]発熱
    [現病歴]入院10日前に家の外で誤ってねずみを踏んだ際に右足背をねずみに咬まれ、同日animal bite外来受診、破傷風トキソイド投与されていた。4日前から発熱、全身倦怠感、血尿が出現。2日前からは背部痛が出現。入院数時間前から尿量低下および複数回の嘔吐が生じたため、来院。
    [既往歴]特記すべきことなし
    [生活歴]職業:雑貨屋 飲酒:ビール1本/日 喫煙:27pack year
    [入院時現症]BT37.6 HR95 RR35 BP90/50 SpO2 99(RA)
    眼瞼結膜貧血なし 眼球結膜黄染あり 両側頚部リンパ節腫脹あり 口腔内異常所見なし 呼吸音清 心音整、雑音なし 心窩部圧痛あり、反跳痛なし 両側緋腹部圧痛あり 右足背に咬傷痕あり 皮疹なし
    [検査所見]WBC9190 RBC382 Hb12.0 Ht36.0 Plt55000 PT-INR1.27 APTT35.10 T.Bil10.70mg/dl D.Bil10.01mg/dl AST171U/L ALT99IU/L BUN32.24mg/dl Cre3.07mg/dl Na132mEq/L K4.21mEq/l LEPTOCHECK(ICT) positive
    尿検査Glu 50mg/dl Bil2.0mg/dl ケトン陰性 比重1.011 潜血0.50mg/dl pH 5.00 蛋白50mg/dl 白血球25WBCs/uL
    [入院後経過]臨床経過および検査結果からレプトスピラ症と診断。尿道カテーテル留置の上、細胞外液による輸液(300ml/h)を開始し、DEX初回8mg、以後4mg6時間毎、抗菌薬はCTRX2g/日を選択。入院4時間後まで尿量排泄を認めず、輸液を400ml/hへ増量およびフロセミド20mgを8時間毎投与。計2L投与後、徐々に尿量増加を認めたため輸液量・利尿薬減量。ステロイドは5日間で終了。抗菌薬は10日間継続。腎機能基準値内であることを確認し第10病日退院。

    中等症から重症のレプトスピラ症が補液および抗菌薬治療で良好な経過をたどった一例でした。現在は雨季でないためか、レプトスピラ症の患者は数例程度しかなく、入院時から観察できたのは本症例のみでした。
    抗菌薬についてはDOXY内服、点滴ではPCG、代替可能としてAMPC,AZM内服やAMPC, AZM, CTRX, CTXなどが推奨されており、本症例では簡便性の面からCTRXが選択されていました。
    フィリピンでは洪水や雨季にアウトブレイクが起こることから、国民に対しての注意喚起がされており、暴露前予防内服は流行地域で汚染水による暴露を受ける場合DOXY200mg週に1度が短期間のみ、暴露後としては低リスクであれば24-72時間以内にDOXY200mg単回投与、中等度リスクではDOXY200mg/日3-5日間投与、高度リスクでは暴露が解けるまで200mg/週内服が推奨されているそうです。
    ステロイドについては重症の肺胞出血や腎機能障害例に対して使用し、mPSL投与の報告例が多いようですが、金銭面の問題からサンラザロ病院ではDEXを使用しているそうです。

    [参考文献]philihealth policy reccomendations on diagnosis management and treatment of leptspirosis ,ajem2012:449:31,pmedj2006;82(971):602

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    ● 2015年2月12日

    お疲れ様です。
    こちらにきて1週間が経とうとしています。
    ゆっくりと流れる時間の中で、興味深い多くの症例に触れ、自分の好奇心の赴くままに調べ事をする、という贅沢な時間を満喫しています。
    入院になったトキソプラズマ脳炎の1例がありましたので紹介いたします。

    修練医Dより

    トキソプラズマ脳炎の1例。43歳男性。
    (現病歴、および入院後経過)3ヶ 月前に左片麻痺を来しCTで脳出血と診断され治療を受けた。2ヶ月前に四肢けいれんを生じ、再度入院となったが、口腔カンジダの合併が あり、MRIではリングエンハンスメントを伴った中心部の壊死を疑う結節影を認め、Immunocompromisedの トキソプラズマ脳炎が疑われた。血漿トキソプラズマIgG抗体陽性にてトキソプラズマ脳炎の診断となり、ST合 剤(T80mg+S400mg/日)+DEXで治療が開始されたが、改善なく、2月3日にSLHに 入院となった。入院時は、GCS 6-7程度の意識障害、左片麻痺と右Eye 眼 瞼下垂を認めていたが、治療薬をPyrimethamine/ Sulfadoxinの合剤(商品名:Fansidar)P25mg/S500mgに変更したところ、意識状態、神経学的にも改善傾向を認めている。
    現在、HIV PCR提 出中で、陽性であればCD4提出予定。

    [入院時身体所見]
    意識清明
    BT37.3 HR 128 RR27 BP 80/40 SpO2 90%
    その他上記以外に特記すべき所見なし
    [入院時検査所見]
    WBC 2.83/L(Neutr 58.8%、Lymph 26.8%)、Hb 10g/dL、Ht 35%
    MCV 67.8、 肝機能正常、腎機能正常、血液培養陰性

    (考察)
    Mansonで は“The most commonly used and successful regimen is the combination of pyrimethamine/sulfadiazine and folinic acid administered for up to 4–6 weeks after resolution of signs and symptoms. TMP/SMZ appears to be equivalent to pyrimethamine/sulfadiazine.” という記載があります。
    Mansonで は“TMP-SMX(at 10 mg/kg/day of the TMP component, divided in two doses) has shown efficacy similar to the pyrimethamine-sulfadiazine regimen (with a more rapid radiologic response in the TMP-SMX group) in a randomized pilot trial in 77 patients with AIDS; this provides an alternative regimen for situations in which parenteral therapy is required.”とあり、ST合 剤は1st choiceとされるSulfadiazizeの 治療成績と変わらないようです。
    本症例では、推奨される治療量(T10~20mg/Kg)のST合剤が使われていなかったことが前医でのTreatment failureの一因であったと思われます。この症例は救命例ですが、以前にはクリプトコッカス髄膜炎との合併例で救命できなかった症例もあるようです。(その症例はクリプトコッカス髄膜炎が主の病態であったようですが。)AIDS患者に限りませんが、免疫抑制状態にある患者でトキソプラズマ脳炎を診断した場合には、常に他の疾患の合併も頭に入れておく必要があると思われます。
    今朝も複数人との性交渉歴のあるMSMの 25歳男性が意識障害で入院になりました。口腔カンジダの合併もあり、DrたちはAIDS、トキソ脳炎を疑っているようです。また更に昼ごろに20歳のHIV陽性の女性が意識障害、呼吸困難感を主訴にER受診。こちらはあまりトキソは疑われていないようです。トキソ脳炎のClinical manifestationとしてmandellに はaltered mental state, seizures, weakness, cranial nerve disturbances, sensory abnormalities, cerebellar signs, meningismus, movement disorders, and neuropsychiatric manifestationsな ど多彩な症状を呈すること、58% to 89%が亜急性の経過で発症、15% to 25% が 脳出血やけいれんなどの急性の発症であり、初発症状として多いのは片麻痺や会話の異常であるとあります。
    ただ結局はどんな経過・症状もありえるということになるので症状からだけではなんとも言えない気もします。Diagnostic work upもこれからですので診断がついたら、またお伝えしたいと思います。

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    ● 2015年2月21日

    お疲れ様です。
    早いものでもう2週間が経ちました。
    今週は当直もさせて頂きました。
    狂犬病の症例もみれて充実した当直でした。
    少し遅れましたが今週の症例です。
    マラリア症例が3例入院していますが、すべて輸入例です。
    (パプアニューギニア、シオラレオネ、ナイジェリア)
    そのうちの1例をご報告いたします。

    修練医Dより

    [現病歴]
    Papua New Guineaで漁師として働いていた。入院17日前に発熱、悪寒を自覚し、現地の病院を受診し、Vivax+Falciparumの混合感染と診断されたが、入院拒否で帰宅。しかしその後、症状改善なく、全身筋力低下、食欲低下も生じ入院6日前に同院に入院。
    Primaquine 22.5mg(2wks)+Artesunate 100mg(3days)で治療が開始され、症状改善認めたため入院2日前に退院し、入院当日にフィリピンに帰国。しかし、再度発熱があり、SLHを受診し、MalariaのTreatment failureが疑われて入院となった。
    [既往歴]2012年 肺結核症、2012年 甲状腺摘出後
    [社会歴]職業:2007年からパプアニューギニアで漁師。
    [身体所見]BT 36.1 BP140/90 HR 84 RR 21
    結膜黄染があるがそのほかは消化器症状を含め特記所見なし [検査所見]WBC 15.2×10^3/μL, Hb 8.2g/L, Hct 27%, Plt 50×10^4/μL, BUN13.64mg/dL, Cr 1.43mg/dL, 肝機能正常範囲
    [入院後経過]スメアでRing formを認め、P. falciparumによるマラリアと診断。
    前医と同じArtesunate 100mg 、Primaquine 22.5mgでの治療を継続し、12時間毎にスメアチェックする方針とした。スメアでは一旦は陰性化するが、12時間後のスメアでは再び陽性化する状態が続いた。入院9日目のスメアで依然として400/mm^3のRing formを認めるため、Doxycycline100mg 2T 2× poとQuinine600mg ×3 divでの治療に変更。本日、入院12日目で、全身状態は落ち着いており周期的な発熱もないが、退院に必要となる少なくとも2回連続での陰性化は依然確認できていない状況。

    [考察]
    パプアニューギニアは全土に渡り、マラリアの流行地域であり、WHOの資料によれば2013年の時点で94% が>1case/1000populationの発生率のハイリスク地域に居住しています。近年はGlobal fundからの援助により、蚊帳がハイリスク地域に行き渡り、報告されている入院数、死亡率とともに減少傾向で2000年から比較すると、共に50%以上減少しています。割合としてはP. falciparum (87%), P.vivax (11%)です。P. falciparumに対するACTの耐性に関してはWHOの報告では高い(~10%)です。
    今回は、ArtesunateとPrimaquineで治療が開始されましたが、この両剤での治療はFalciparumの治療としてはWHOの ACTでは推奨リストに載っていません。そもそもPrimaquineはNon-endemic areaのReturning travellerなどのP.VivaxやP.OvaleのImportCaseに対してRadical cureを行うために用いられる薬なので本症例ではP.Falciparumに対してはArtesunate単剤で治療されていたことになります。
    「タイでRecrudescenceの熱帯熱マラリア患者に対し,アーテスネイト単独の7日間の治療では6週間後の再燃率が26%であったが,メフロキンを併用することで,再燃率が6%に抑えられた。」という報告があり、本症例でもやはり最初からWHOのガイドラインに沿った多剤での治療が望ましかったのではないかと思いました。

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    ● 2015年2月27日

    お疲れ様です。
    早いものであと1週間となりました。
    現在、患者の数はそれほど多くありませんが、興味深い症例がたくさんあります。
    今週は確定症例ではありませんが、Typhoid feverが疑われている1例をご紹介したいと思います。

    修練医Dより

    31歳女性
    [主訴]発熱
    [現病歴]入院1週間前からの発熱、乾性咳嗽、入院前日からの筋肉痛を主訴にサンラザロ病院を受診。
    [既往歴]Tyhpoid feverで2回 の治療歴あり(詳細不明)、Leptospirosis(2001)
    [家族歴]特記事項無し[薬剤歴]特記事項無し
    [入院時身体所見]体温 39.2度、血圧 90/60mmHg、脈拍119bbpm 呼吸数 20/min、酸素飽和度95%
    眼球突出あり、両側肺底部にCrackles聴取、腹部圧痛なし、その他特記所見なし
    [検査所見]
    BUN 5.8 Cr 0.61 TP 6.26 Alb 2.49 Na139 K 3.0 AST 122 ALT 154 ALP 128
    WBC 12.85(Neut 89.6%) RBC 3.97 Hct 33 Hb11.6 plt 21
    甲状腺:T4 30.89(11-23), TSH 1.29(0.27-3.75)
    末梢血スメア(2/9): No remarkable finding.
    Salmonella RAPID IgG, IgM: negative
    マラリアスメア:1回のみ。陰性。Chikungunya: negative
    CXR: n.p
    ECG: NSR, ⅠⅡaVR 陰性T波
    腹部エコー:特記所見なし 血液培養:入院後数回取られているがすべて陰性。便培養:陰性。尿培養:陰性。
    [入院後経過]
    既往歴、および間欠的な腹痛がありThypoid fever、また両側肺底部にCoarse cracklesを聴取したことから肺炎の合併が疑われ、CTRX3g×1(5日間)にAZM 500mg(1週間)を加えて治療開始。しかし改善なく、入院5日目のレントゲンで両下肺野に浸潤影が出現したことからもTyphoid feverではなく、肺炎をより強く疑い、抗生剤をCTRXよりPIPC/TAZ、 次いでMEPM1g×3(14日間)に変更するも39~40度台の発熱が遷延。入院16日目に提出したELISA法のサルモネラ抗体が後日、IgG 1.12(>1.0) IgM 1.34(>1.0)と陽性であったことから、薬剤耐性サルモネラによるTyphoid feverの可能性を再度考え、入院27日目にクロラムフェニコール500mg×4で治療を開始した。その後も発熱が続いており、入院30日目に1g×4に投与量を増量。その後は悪寒が消失し、軽度解熱傾向(まだ38度前後だが。)がみられる。
    [考察]
    耐性サルモネラが疑われて治療がされている1例。
    経過には述べていませんが、エコーで少量の心嚢液を認めたり、その他にも眼球突出があったり、臀部に悪臭を放つPedunculated massがあったりとベースになにかありそうなのですが精査はされていません。喀痰のTZは陰性、甲状腺機能もほぼ正常です。
    サルモネラの薬剤耐性はマンデルには、クロラムフェニコール、シプロフロキサシン、S/T合剤、アンピシリンなどで多いと記載があります。本症例で最初に使ったセフトリアキソン、アジスロマイシンについては耐性の報告は多くありません。セフトリアキソンについては以下の論文に報告があります。 前医での記録はないので詳細は不明ですが、Typhoid feverでの治療歴が二度あるので、Chronic carrierのRecurrenceなのかもしれません。しかし、Chronic carrierに薬剤耐性が多いのかは、感覚的にはそうである気もしますが、よくわかりません。さらにELISA法ではIgG, IgMともに陽性であり、そもそもChronic carrierでないのかもしれません。
    さらにこの症例が本当にTyphoid feverなのかもまだ議論の余地があります。ELISA法での抗体はごく軽度の陽性です。またセフトリアキソン、アジスロマイシンの両方に耐性ということがあるのかも疑問です。しかし、腹痛(30%)はないものの、咳嗽(30%)、 悪寒(40%), 皮疹(5%)(括弧内はマンデルによる症状の頻度)があり、臨床症状としてはCompatibleです。確定診断は難しく、クロラムフェニコールに対する反応をみることになります。なお、マンデルには自然経過で3~4週で改善、治療介入すると3~5日程で改善と記載があり、すでに4週以上が経過しており、自然経過でいつ改善してもおかしくない状態です。改善したとしてもこの患者にクロラムフェニコールが効いたのか、それともクロラムフェニコールには耐性で自然経過で良くなったのかはわからないのではないかと思いました。

    ・136Saha SK, Talukder SY, Islam M, Saha S: A highly ceftriaxone-resistant Salmonella typhi in Bangladesh. Pediatr Infect Dis J. 18:387 1999 10223698
    ・137Kumar S, Rizvi M, Berry N: Rising prevalence of enteric fever due to multidrug-resistant Salmonella: an epidemiological study. J Med Microbiol. 57:1247-1250 2008 18809553
    Extended-Spectrum-Beta-Lactamase Production in a Salmonella enterica Serotype Typhi Strain from the Philippines▿
    J. Clin. Microbiol. August 2008 vol. 46 no. 8 2794-2795

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    ● 2015年3月4日

    最後の症例報告になります。
    このような機会を与えてくださり、皆様には本当に感謝しております。

    マラリアのスメアを12時間毎に行ったがすべて陰性。
    しかしClinical malariaとして治療が行われている1例

    修練医Dより

    [社会歴]
    職業:船夫でパプアニューギニアなどにも行くことがある。
    パラワン在住。
    [現病歴]
    6週間前にパラワンの流行地域を訪れて帰ってきた後に悪寒を伴う発熱があった。3週間前より黄疸があり、近医にてCiprofloacinを処方される。症状が続き、2度の眼球上転する“けいれん”を家族に目撃され、SLH受診。
    [身体所見]BP 100/70 HR 90 RR 23 SpO2 91 BT 39
    意識清明
    HEENT:眼球結膜黄染、舌背黄染
    Chest:特記所見なし 腹部:心窩部に圧痛
    四肢:浮腫なし
    [既往歴]1991年 マラリア 詳細不明
    [入院時検査所見]
    Na 128 K 3.24 AST 116 ALT 217 Direct B 22 Indirect B 0.78 CCr 5.42 BUN 134.9
    WBC 19160(Neut 93, Lymp 3.4) Hb 8.8 Hct 26 MCV 82.5
    PT 28% INR 2.79 動脈血ガス pH 7.39 PCO2 18.9 PO2 88.6 HCO3 11.2 O2 AaG 35
    [ROS]
    陽性所見:頭痛、倦怠感、 筋力低下
    [入院後経過]
    セフトリアキソン2g 1×、キニン7/ 1/2 tab 3×、 ドキシサイクリン 200mg 2×で治療開始。12時間毎のマラリアスメアはすべて陰性、レプトの迅速検査も陰性だが、経過からClinical malariaとしてマラリアの治療が継続されている。治療開始後4日目以降は解熱が見られている。血小板減少、 凝固能低下からと思われるMelenaがあったが輸血で対応。ビルリビンを含めた肝機能、腎機能、代謝性アシドーシスもゆっくりと改善傾向。
    [考察]
    マラリア診断のゴールドスタンダードはスメアとされていますが、PCRと比べると感度は劣るようです。Wangai(2011)らは、2007年に356人のケニア人から採取した血液でPCRとスメアのマラリア(Falciparum)の検出能力を比較した結果、スメアで陽性となったのは6人、スメアで陰性となった350人のうち72人でPCRが陽性となったと報告しています。スメアのdetection limit が10–50 trophozoites/μl (Trampuz et al., 2003)である一方で、PCRは10 parasites/μl(Hanschield, and Grobusch, 2002)で検出できるようです。
    ビルリビン、クレアチニンもかなり上昇しており、代謝性アシドーシスも進行した状況でありながら、スメアがすべて陰性。Sequestrationがあるのだとしても、この状況でマラリアだというのは直感的には納得しがたいところですが、キニン開始後より改善傾向にあるところをみると、やはりPCRでしか検出されないぐらいのParasitemiaのマラリアと考えるべき症例なのでしょうか。ただし、レプトの迅速診断も感度はよくないとのことですし、ドキシサイクリンも開始されているため、レプトの可能性も完全には否定しきれないと思います。PCRで診断できればいいのでしょうが。(ただし、マラリアについては流行地域を有するパラワンに在住しているとのことで、PCR陽性でも偽陽性ということも考えなくてはいけないですが。)

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    ● 2016年3月31日

    2月14〜日3月12日の滞在中の症例レポートを送信させていただきます。

    修練医Eより

    約3週間で経験した狂犬病3症例についてご報告します。
    49歳男性、1年前ペットとして飼っている子犬に手を噛まれ、ワクチン接種歴なし。無症状で経過していたが、入院2日前から焦燥感や苛立ちが出現し、自制がきかないため家族に自分に近づかないように言っていた。徐々に苛立ちが増強して近くの診療所を経由してSLH来院、狂犬病として隔離病棟に入院し、6日目に死亡した。
    31歳男性。パンパンガ県出身で食用の犬の屠殺を仕事としていた。2年前に飼い犬に噛まれた。半年前犬を屠殺しようとした際に手を噛まれて受傷したが、症状はなく放置していた。入院1日前より恐水症と恐風症が出現し、SLH隔離病棟に入院したが、入院3日目に死亡した。
    45歳男性、2015年12月に犬に噛まれ、近医を受診して狂犬病ワクチンの接種を受けたが、途中から外来・接種をドロップアウトしていた。来院した日の朝から恐水症が出現し、同日夜11時入院となった時には恐水症、恐風症を呈していた。翌日朝7時に死亡。
    狂犬病症例は救急外来で病歴聴取や身体所見がとられて、すぐに狂犬病専用の隔離個室へと移され、ベッドに四肢拘束される。隔離個室に移されると、看護師が食事を食べさせに入る以外は中に入らないため、家族が2重の鉄格子の外に付き添うのみです。
    外来には毎日500例近くも動物咬傷の患者が訪れるとのこと。数時間の外来を見ているだけでも1 歳から80歳まで多く患者がやってきました。多くは犬咬傷でその他猫、ヘビ、ネズミ、不明の場合などです。滞在中、大都市マニラの路上から、近郊の県まで、放し飼いにされた犬が非常に多くみられます。ペットとして猫や犬を飼う人は多く、外来でも飼い犬に噛まれたという人が毎日大量に押し寄せます。また、上記2症例目の症例にあるように、フィリピンの一部の県では犬の肉を食用とする習慣があり、そういった地域からの症例も稀ではないとのことです。

    アンゴラ帰りの輸入マラリア症例
    47歳フィリピン人男性、主訴は発熱と頭痛。ガーナを拠点にアフリカ各地のホテルの管理人をしているが今回はアンゴラ帰りだった。これまで2008年に初めてアフリカでマラリアに罹り、ほぼ毎年マラリアに罹患して入院歴もあるが、予防内服はしていなかった。今回もアンゴラでマラリアと診断され7日間入院したが、軽快する前にフィリピンに帰国した。3週間医療機関を受診せず、アセトアミノフェンを飲んで自宅療養していた。最初は発熱、頭痛のみだったが、悪寒、腹痛、食欲低下、嘔気などの症状も出現し、増悪するため来院した。入院時は38℃の発熱あり、血液検査では軽度貧血と血小板低下、腎機能障害、肝機能障害があり、血液スメアではPlasmodium vivaxとP.Falciparumいずれも認め、count 4,960/μLであった。入院当日からArtemethol/Lumepantrine 20mg/120mgの4日間内服とPrimaquine15mgの2週間内服が開始された。毎日血液スメアが提出され、countは4960→7734→832→128と徐々に減少を認め、入院3日目からは解熱、頭痛や食欲低下も改善した。1ヶ月でフィリピン国内からのマラリア症例は経験せず、この輸入マラリアのみでした。一方で蚊媒介感染症としてはデング熱の症例は毎日のように入院があり、また、研修期間中はジカウイルスに関する話題もあって、ジカウイルスに関する勉強会なども開かれていました。

    デング熱については先日感染症研究会で発表させていただきましたが、破傷風に関しては経過が比較的追えた症例や特徴的な身体所見がとれたものなど今日の18時の報告会で少し紹介できればと思います。

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    ● 2016年8月5日

    お疲れ様です。
    やっと生活にも慣れてきました。
    患者さんと触れ合えることがとても楽しいです。

    研修中は週に一回、経験した症例を報告することになっていますので、今週経験したデング熱の症例を、簡単ですが報告させていただきます。

    修練医Fより

    23歳女性。主訴は発疹です。
    【現病歴】来院5日前より発熱と体の痛みが出現し 、自宅にあったアセトアミノフェンで自己対応していた。
    しかし発熱は持続し、悪寒も伴うようになった。来院1日前には解熱傾向となったが、全身に発疹が出現したため、サンラザロ病院を受診した。
    【既往歴】1997年にデング熱。幼少期に喘息。
    【生活歴】喫煙なし。機会飲酒あり。最終月経は先週。
    【来院時現症】BT 36.3度 HR 83回/分 RR 16回/分 BP 110/70mmHg SpO2 98%(room air)
    意識清明。眼瞼結膜に貧血なし。眼球結膜に黄疸なし。頸部リンパ節の腫脹なし。
    呼吸音:清、ラ音なし。心音:整、雑音なし。腹部:平坦、軟。圧痛なし。
    四肢浮腫なし。体幹、背中に発疹あり。
    【ROS】陽性:発疹、全身倦怠感、軽度の食欲不振。
    陰性:頭痛、咳嗽、喀痰、腹痛、嘔気嘔吐。
    【血液検査結果】WBC 5590/μL、Hct 38%、PLT 10.3万/μL、BUN 16.5mg/dl Cr 0.38mg/dl
    Na 141mmol/L K 2.83mmol/L
    【デング抗原抗体検査】NS1(抗原) 陰性、IgM 陰性、IgG 陽性
    【入院後経過】
    デング熱として、輸液のみで対症療法を行った。入院後も発熱なく経過し、入院2日目には発疹は右下腿のみに縮小した。
    血液検査では、入院2日目にPLT 7.4万/μL(午前)→3.4万/μL(午後)と減少傾向を認めたが、身体所見上出血傾向は認めなかった。
    入院4日目にはPLT 10.8万/μLまで回復し、発疹は消失した。全身状態良好のため、入院5日目に退院した。
    【考察】
    デング熱一例を経験した。
    デング熱は急性の発熱で発症し、3~5日のfebrile phaseが持続する。この間悪寒や全身倦怠感、頭痛、後眼窩痛を伴うことが多い。NS1、IgMが上昇するのもこの時期である。解熱しfebrile phaseが過ぎ去る時期に、発疹が出現することが多い。その後はcritical phaseに入り、激しい炎症反応による血管透過性の亢進のため、血漿成分が血管外に漏れ、血小板減少を始めとした血球減少や、Hctの上昇がみられる。この際、水分バランスの管理を厳密にしなければ、胸水、腹水の増加につながる。また、この時期はデング出血熱へ移行するサインが出やすい時期であり、腹痛、嘔吐、粘膜出血、肝腫大、Hctの急激な上昇、Pltの急激な低下などのWarning signsを見逃さないことが重要である。デング出血熱に移行すると、重度の血管外漏出、重度の出血、重度の臓器障害に至り、心筋炎や脳炎につながることもある。
    治療は基本的に対症療法であるが、発熱時はアセトアミノフェンで対処し、出血傾向を助長するためアスピリンやNSAIDsは避けるべきである。輸液は3-5ml/kg/hを目安に開始し、必ず尿量を確認し水分バランスをコントロールする。腹痛が出現した場合はPPIやH2 blockerのIVで対応することもある。
    本症例は、来院5日前に発症し、来院時は解熱しcritical phaseであった。頻回にPltやHct、水分バランスをモニタリングし、輸液のみで合併症なく経過した症例であった。

    デング熱は毎日2,3例は入院します。
    今回報告する症例は合併症なく退院しましたが、現在入院中の別の患者さんは、発症6日目にも関わらず発熱、腹痛、嘔気嘔吐が持続しており、PLTも2万/μLまで低下し、今日は血尿が出ました。デングの中でも様々な重症度の患者さんを診ることができています。

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    ● 2016年8月12日

    元気にしております。
    マニラは雨でとても涼しいです。
    しかし豪雨のため道路が冠水するので、道が渡れなくて困ります。
    仕方なくトライシクルに乗ったらぼったくられました。

    今週は破傷風の患者さんを報告します。
    8月6日(土)に入院し、私は8月8日(月)よりフォローアップを開始しました。

    修練医Fより

    19歳、男性
    【主訴】首のこわばり
    【現病歴】来院2週間前に右のつま先にけがをしたが、医療機関は受診しなかった。来院1週間前より首のこわばり、心窩部痛、背部痛、開口障害が出現した。症状は持続し、来院3日前には全身の筋肉のこわばりも加わった。来院2日前にA病院を受診し、鎮痛薬を処方され、B病院への受診を勧められた。来院1日前にB病院を受診しようとしたが体動困難であり、当院への受診を勧められ、来院した。
    【既往歴】 糖尿病なし、高血圧なし。
    【生活歴】喫煙なし、機会飲酒あり。
    【ROS】 (+)首のこわばり、筋肉のけいれん、筋肉痛(背部、腹部)、開口障害、嚥下障害
    (-) 発熱、頭痛、皮疹、腹痛、下痢、嘔吐

    【来院時現症】 BT 36.7℃, HR 89/min, BP 120/80mmHg, SpO2 99%(room air), HT 153cm, BW 50kg.
    意識清明。眼瞼結膜充血、眼球結膜に黄疸なし。リンパ節腫脹なし。開口制限あり。顔面の筋けいれんあり。
    項部硬直あり。呼吸音:清、心音:整、雑音なし。腹部:平坦、硬。圧痛なし。皮疹なし。

    【血液検査】 WBC 6140/μL(Seg 62%, Lymph 23%, Mono 9%), RBC 46.6×10^6/μL, Hb 15.0g/dl, Hct 45%, PLT 346×10^3/μL, Na 148.9mEq/L, K 4.39mEq/L, Cl 113.4mEq/L
    【尿検査】 比重1.025, pH 6, 糖(-), 蛋白(2+), ビリルビン(-), ケトン(-), 潜血(-),白血球(-), RBC 2-5/HPF, WBC 4-12/HPF

    【入院後経過】臨床所見から破傷風と診断し、外毒素の中和のためAnti-Tetanus Serum40万単位を、免疫活性化のために破傷風トキソイド0.5mlを投与した。破傷風菌に対してはメトロニダゾール500mg×4回/dayを開始し、その他の混合感染の可能性も考慮し、ABPC/SBT3g×4回/dayも開始した。筋けいれんに対し、ジアゼパム10mgIV×6回/dayとジアゼパム60mg+5%TZ 250mlを6回/day(総投与量420mg/day)の投与を開始し、遮光を指導した。
    入院3日目はT-シャツで顔を覆い、発汗を認めた。結膜充血や項部硬直も認め、頸部は左右の可動性は良好であったが、上下運動に制限が見られた。開口は1横指程度可能であるが、飲み込みにくさがあった。飲食や会話は困難であった。筋痛と首のこわばりのため自力で上体を起こすことはできなかった。右膝の拘縮と右大腿部の筋痛も認めた。両上肢や左下腿に筋拘縮や筋痛はなかった。腹部はやや硬で、圧痛はなかった。スパズムは認めなかった。
    入院4日目には自力で座位を取ることができ、項部硬直はやや緩和し、全身の筋痛は消失していた。腹部の筋緊張は前日より緩和していたが、依然としてやや硬めであった。開口制限もやや緩和し、2横指程度開口可能であった。飲食や会話はやや困難であった。改善ありと判断し、ジアゼパムは4回/day(総投与量280㎎)に減量した。
    入院5日目には開口制限はさらに緩和し、会話はスムーズに行えるようになった。腹部の筋緊張も消失し、飲水から徐々に開始した。経過良好のためジアゼパムは10mgIVのみ3回/day(総投与量270㎎)に減量した。
    しかし入院6日目の昼に再び腹部の筋緊張が出現し、再度ジアゼパムは10mgIV×4回/dayに増量し、また、バクロフェンが追加された。開口制限や項部硬直の増悪はなかった。
    入院7日目(本日)も腹部の筋緊張は持続していた。筋痛や腹部圧痛はなかった。開口制限はさらに緩和し、食事摂取良好であった。
    抗生剤は合計10日間の投与を予定し、今後も症状に合わせジアゼパムを減量し、経口投与可能となった時点で退院の方針である。

    【考察】
    破傷風の一例。
    破傷風は主に土壌に生息するClostridium tetaniにより引き起こされる。Clostridium tetaniが産生する2種類の毒素の内、テタノスパズミンは神経シナプスの終末に結合し抑制系の神経伝達物質を遮断することで筋けいれんや筋硬直を誘発する。
    臨床所見で典型的なのは、項部硬直、開口障害、筋けいれんなどである。筋けいれんは顔面に出現することが典型的であるが、全身の筋肉に出現する可能性があり、この一環として喉頭痙攣も起こしうる。重篤な場合は挿管を考慮する。筋けいれんによる筋痛を伴うことも多い。これらの症状は発症約10日間でピークに達する。急性期を過ぎると自律神経障害による高血圧や頻脈、不整脈、高体温、発汗などが見られる。症状は4週間程度持続し、完全に回復するには数か月を要する。
    診断は臨床的に行われ、病期分類は様々なものが存在するが、サンラザロ病院ではCole分類やAblett分類を使用している。
    本症例はIncubation periodが7日、Period oncetが5日、開口制限やスパズム、嚥下障害などは中等度を評価し、Cole分類でStageⅡと判断している。
    治療は破傷風トキソイドやヒト破傷風免疫グロブリンの迅速な投与が推奨されているが、サンラザロ病院では、ヒト破傷風免疫グロブリンは高価であるため、Anti Tetanus Serumを使用しており、20000単位をそれぞれIV、IM(総投与量40000単位)する方法がとられている。
    また、破傷風菌に対してはメトロニダゾール(500mg×4回/day)やペニシリン(10-20万単位/kg/day)を10日間使用することが推奨されている。
    スパズムの緩和には高用量のジアゼパム(2-30mgを2-8時間毎、20-40mg/kg/dayを超えない)が第一選択である。ジアゼパムはコントロール良好であれば、3日毎に前回投与量の10%より漸減でき、2週間~3週間で終了する。しかし必ずしも3日毎である必要はなく、臨床症状に合わせて減量できる。サンラザロ病院では、10mgのIV bolusと60mgを5%TZ 250mlに溶解したdripを併用しコントロールしている。
    バクロフェンやマグネシウムの効果も証明されている。重篤な場合は筋弛緩薬を使用する。
    本症例は典型的な臨床症状より破傷風と診断しⅡ期と判断した。標準的な治療を開始したが、ジアゼパム漸減中に症状が再燃し、再度ジアゼパムを増量しバクロフェンを追加した例であった。

    今週はhospital weekと言って、病院のお祭りのようなものをしていました。政府が援助で毎年市内のすべての病院で行われるそうです。
    サンラザロ病院でも、毎日催し物がありました。
    火曜日はデング熱や狂犬病、HIV、TBなどのブースを設け、訪れた人に簡単な輪投げや玉入れ、ダーツ、くじ引きなどをしてもらって、景品と共にその疾患に関する情報を載せたパンフレットや、景品が疾患に関連するもの(HIVではコンドーム、消化管感染症では石鹸など)を配ったりしていました。感染症のブースがメインでしたが、栄養や高齢者をテーマにしたブースもありました。
    政府の支援と言っても微々たるものらしく、ブース設定や景品は手作りで、フェローたちは病院に泊まり込みで作業していたようです。お客さんは病院に勤務しているコメディカル、警備員さんなどがメインでしたが、ちらほら患者さんも来ていました。どのブースも長蛇の列で、みんな楽しそうでした。私もあちこちブースを回って沢山景品をもらえ、とても楽しむことができました。
    楽しんで疾患の周知ができ、特に感染症は正しい知識で予防できることが多いので、大変有益な催しだと思いました。
    水曜は医学生がジカ熱をテーマにクイズ形式のシンポジウムを開いており、木曜はダンスを披露していて学園祭のようでした。

    今週は雨の日が続き、ちらほらレプトスピラが来ています。
    来週はレプトスピラの報告ができればいいなと考えております。
    あっという間に折り返し地点です。それでは、残り2週間も頑張ります。

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    ● 2016年8月21日

    お疲れ様です。
    マニラは台風のようなお天気が続いていて、先週とは打って変わって蒸し暑い日々です。
    今週はレプトスピラ症の報告をします。重症例が立て続けに入院しております。

    修練医Fより

    25歳、男性
    【主訴】下肢痛、無尿
    【現病歴】来院7日前に豪雨により冠水した道路の排水を行った。
    来院6日前より発熱を始めとした感冒症状が出現し、歩行時の下肢の痛みを伴った。
    市販のアセトアミノフェンで対処し、一時的に症状は軽くなったため、医療機関は受診しなかった。
    しかし来院2日前に、腹痛と嘔吐が出現し、1日5回以上の下痢も繰り返した。
    同時に尿量の減少を認め、来院1日前には完全に無尿となった。また、下肢痛の急激な増悪があり、当院を受診した。
    【ROS】 (+)発熱、頭痛、全身倦怠感、腹痛、下肢痛、嘔気嘔吐、下痢
    (-)悪寒、咳嗽、喀痰、皮疹
    【既往歴】 糖尿病なし、高血圧なし。破傷風トキソイド+免疫グロブリン注射済み(2015年)
    【生活歴】喫煙、飲酒は5年前にやめた。

    【来院時現症】 BT 36.7℃, HR 117/min, BP 80/60mmHg, RR 18回/分, SpO2 99%(room air), HT 172cm, BW 60.8kg
    意識清明。眼瞼結膜充血あり、眼球結膜に黄疸あり。皮膚もやや黄染している。
    リンパ節腫脹なし。口腔内clear。白苔なし。舌はやや乾燥している。
    呼吸音:清、心音:不整、雑音なし。腹部:平坦、軟。心窩部に圧痛あり。腸蠕動音は良好に聴取する。
    末梢温暖、やや湿潤。四肢麻痺なし。浮腫なし。皮疹なし。
    【血液検査】 WBC 5960/μL(Seg 89%, Lymph 7%, Mono 4%), RBC 23.0×10^6/μL, Hb 7.0g/dl, Hct 19%, PLT 49×10^3/μL,
    PT-INR 1.08, BUN 67.31mg/dl, Cr 6.7mg/dl, Na 144.5mEq/L, K 2.08mEq/L, Cl 114.2mEq/L
    【画像検査】胸部Xp:軽度心拡大あり。肺野はclear。
    【生理学的検査】ECG:Af波形。HR 130回/分の高度な頻脈。明らかなST-T変化なし。

    【入院後経過】
    レプトスピラ迅速検査で陽性の結果を得、典型的な病歴からレプトスピラ症と診断した。
    セフトリアキソン2g×1回/day、ハイドロコルチゾン1 00mg×4回/dayを開始した。
    また、来院時尿道カテーテルを挿入したが、無尿であり、血液検査結果からも急性腎不全と判断し、フロセミドの静注を開始し、透析導入のため右内頚動脈より透析用カテーテルを挿入した。低血症に対して補正も行った。

    入院2日目で利尿剤に反応が見られ始めたが、100ml/8h程度であり次第に血性となった。
    腹痛はさらに増強し、じっとしていられないほどであった。腹部の筋性防御は認めなかったが、心窩部の著明な圧痛を認めた。
    呼吸不全は進行し、酸素は朝には経鼻4Lだったが夕方にはマスク10Lまで増量し、同日21時ごろに挿管した。
    挿管の際、気管チューブより中等度の出血あり、肺胞出血が示唆された。
    透析は1回施行できたが、出血傾向の増強や全身状態の悪化から、これ以上の透析は困難と思われた。

    入院3日目も尿量は100ml/8h程度で、ほぼ血液様であった。
    呼吸は不安定で酸素化は保たれず、呼吸不全が進行し、同日昼12時ごろ(入院約48時間後)、 死亡が確認された。

    【考察】
    レプトスピラ症で重篤な経過をたどり、死亡した一例。

    本症例は豪雨後の雨水との接触という病歴、眼脂を伴わない結膜充血に黄疸を認め、下肢痛や腹痛、急性腎不全などの典型的な身体所見からレプトスピラを疑い、迅速抗体検査でもレプトスピラ陽性の結果を得、早期に診断し治療介入できた。
    しかし、入院後に出血傾向と呼吸器疾患の合併とその急激な進行を認め、死亡に至った一例であった。

    この症例以外にももう一名、似た経過で死亡したレプトスピラの一例を診ました。
    こちらは発症4日目で来院し、入院翌日に透析用のカテーテル挿入しましたが、その直後より呼吸不全が急激に進行し、入院後約36時間で死亡に至りました。死亡時診断は急性肺胞出血と急性腎不全でした。
    両名とも20歳代の若い男性であり、小さなお子さんもいたので、 救命できなかったことにとてもいたたまれませんでした。

    今週は月曜にトンドという地区のHealth Centerの見学に行ってきました。
    トンドは20年くらい前にはマニラで最大のスラム街だったのですが、政府によって開発がすすめられ、スラム街の人々に無料で家屋を与えたそうです。表向きは、大きなスーパーやきれいな建物が増え、治安も劇的に改善したそうですが、大通りを少し奥に入れば、 依然としてスラム街が残っており今も沢山の人が生活をしています 。成功した人たちはどんどん町を出ていき、スラムの人々だけが取り残されており、ここ数年は少し治安も悪化しているそうです。
    そんな地区で、約5万人をカバーするHealth Centerは存在するのですが、医師一人、その妻が助手で一人 、看護師一人の合計3人で切り盛りしています。政府の支援があるため治療費は無料で、小児から高齢者まで毎日平均50人の患者が訪れます。普通の外来以外にも小児のワクチン接種や結核のDOTS、ソーシャルワーカーの手を借りて妊婦の訪問診療をこなしています。
    毎月お給料は6万円程度で、開業するか私立の病院に就職すればその何倍もの収入が得られるため、 忙しさと収入の面でみんなやりたがらないそうです。
    Health Centerの見学後は実際にスラム街を歩かせてもらいました。 ゴミがたくさん打ち寄せられた川(水路)のそばで、建物は密集して崩れそうにしていましたが、どこも子供たちが元気に遊んでいる光景が見られ、やはり本質的なところはどこに行っても変わらないと改めて感じました。
    もちろん例外なくスラムの人々もHealth Centerは受け入れますし、スラムの中まで妊婦の訪問も行うと聞き、こういった場所でのHealth Centerの役割はとても大きいと感じました。また、人数もお給料も少ないながらも笑顔でHealth Centerを支える医療スタッフの姿がとても印象的でした。

    今週は長大の学生さんも見学に来られ、医局は一層にぎやかでした。
    あっという間に残り1週間です。最後まで頑張ります。

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    ● 2016年8月26日

    お疲れ様です。相変わらず元気にしております。
    早いもので、研修期間も今日で終わってしまいました。
    これが最後の症例報告になります。

    修練医Fより

    2歳、女児
    【主訴】皮疹
    【現病歴】来院1日前に39.7℃の発熱あり、アセトアミノフェンを内服したが改善が見られなかった。数時間後には顔面と腹部に皮疹が出現したため、近医を受診。血液検査を施行され解熱薬を処方されて帰宅した。しかし発熱は持続し、皮疹は全身に広がったため、当院受診した。
    【既往歴】特になし。母親によると定期ワクチンはすべて接種済み。
    【ROS】陽性:発熱、活気不良、全身の紫斑、全身の痛み
      陰性:咳嗽喀痰、嘔気嘔吐
    【来院時現症】BT 36.9℃ HR 179回/分 RR 30回/分 SpO2 99% 身長 90cm 体重 11kg。
    意識清明。ベッド上でぐったりし弱く啼泣している。
    眼瞼結膜に貧血なし。眼球結膜に黄疸なし。頸部リンパ節腫脹なし。
    呼吸音:清、心音:整、雑音なし。腹部:平坦、軟。
    耳介、四肢、体幹に多形性の斑状の紫斑が散在している。紫斑は痛みを伴い、ほとんど体動しない。

    【血液検査結果】WBC 26420/μL(Seg77.8%, Lym14.5%)
     RBC 万/μL、Hb 10.8g/dl、Hct 0.34%、PLT 24.4万/μL

    【入院後経過】
    急激な経過と特徴的な紫斑から髄膜炎菌感染症を疑い、血液培養、血中髄膜炎菌PCRを提出した。
    治療としてはセフトリアキソン1g×2回/dayを開始した。高熱にはアセトアミノフェンで対応した。
    当初紫斑であった皮疹は、入院4日目には中心部より壊死が見られ、一部は深く潰瘍化していた。上部はほぼ黒い痂皮で覆われていたが、周囲は発赤を残した状態であった。一部水疱を伴うものも認めた。紫斑部の疼痛は持続し、掻痒感も伴った。
    発熱は38度台がしばらく持続した。活気不良であったが、食事摂取は可能であった。
    血液培養は陰性であったが、サンラザロ病院長崎ラボで実施したPCRではN.Meningitidisが陽性となり、確定診断に至った。血清型はB群であった。
    入院6日目には水疱はほぼ痂皮化し、紫斑にできていた黒色痂皮も剥落を始めた。紫斑部分の疼痛は接触時のみとなり、患児の活気も回復し始めた。
    入院8日目に解熱し、深く潰瘍形成した紫斑以外は治癒傾向となった。
    食事摂取は良好で、全身状態は安定し、入院14日目に退院した。

    【考察】
    小児の髄膜炎菌血症の一例。
    一般的に患者としては生後6カ月から2年の幼児及び青年が多い。髄膜炎菌は患者のみならず、健常者においても5~20%の保菌率を示す。
    髄膜炎菌は莢膜多糖の種類によって少なくとも13 種類のセロタイプに分類されているが、起炎菌として分離されるものは血清型A, B, C が全体の90%以上を占め、本邦ではB,Y群が同定されることが多い。フィリピンではB群の報告が多い。
    飛沫感染し、潜伏期間は3~4日とされているが、2~10日の幅がある。
    気道を介して血中に入ることで、まず菌血症を起こし、高熱や皮膚、粘膜における出血斑、関節炎等の症状が現れる。引き続いて髄膜炎に発展する場合もある。髄膜炎を起こした場合、迅速に治療を開始しなければ、死亡率はほぼ100%に達する。サンラザロ病院では、髄膜炎菌感染症患者は年間20-30人の入院があり、死亡率は20-30%であった。
    抗菌薬が比較的有効に効力を発揮するため、臨床的に疑った場合は早期に適切な治療を開始すべきである。
    治療薬としては、セフトリアキソン、クロラムフェニコールなどが挙げられる。
    本症例は発症1日未満で来院し、特徴的な紫斑から臨床的に診断し早期に治療開始し、軽快した症例であった。

    今週の後半は、TB病棟とHIV外来を中心に回りました。合わせて3日間でしたが、とても濃い研修内容でした。
    TB病棟には60名ほど入院していました。
    臨床的にTBが疑われる患者が入院していますが、入院時のAFBが陽性か陰性かで部屋が分けられており、AFB陽性の患者は30人程度でした。MDRの患者も10人程度いました。
    もちろん個室などはないので、20人くらいが学校の教室2つ分くらいの大きさの部屋に入れられ、1m間隔に置かれたベッドがそれぞれ与えられています。AFB陽性部屋は、もともとあるベッドだけでは足りないので、簡易ストレッチャーで空いたスペースに新しいベッドを造っていました。回診中にもどんどん新しいベッドが造られて新たな患者が入院してきました。
    年齢は10代~70代までさまざまで、ほとんど全員が全身倦怠感のためベッド上を動けず、空いたペットボトルに排尿し、ベッドの下にそのまま置いていました。喀痰も同様にペットボトルやカップに喀出し、捨てずに溜めていて、少なからず衝撃でした。
    また、患者の半数くらいが栄養失調を合併しており、特に高齢者は死亡率が高く、私が2日いる間に2人が目の前で亡くなりました。
    気胸や胸水を合併する患者も多いのですが、胸腔ドレーンの挿入は外科医しか施行できず、呼吸状態が切迫していても外科医が来るまで酸素投与しかできないのにはとてももどかしい思いをしました。

    HIV外来では、毎日40~50人程度が来院し、カウンセリングや服薬確認をしています。圧倒的に男性が多く、ほとんどがホモセクシュアルだそうです。
    HIVの診断が付いた患者はすべて、TBとその他のSTD、HBV、HCVの感染の有無を確認します。
    HIVの治療を開始できる患者は、まず3回のカウンセリングを行いますが、すべてに必ず同伴者が必要です。カウンセリングでは薬剤内服の目的、生活習慣指導、定時内服の重要性、永続的な内服の必要性、薬剤の副作用、気を付けるべき症状などを指導します。適宜質疑応答で患者が本当に理解しているか確認し、問題なければ開始するというしくみになっていました。
    HIVの治療導入は日本では経験したことのないことであったので、すべてが新鮮でした。

    あっという間の研修期間でした。
    にぎやかなフェローたちに囲まれ、とても楽しい時間を過ごすことができました。ようやく全員の名前を憶え仲良くなってきたところなので、とてもさみしいです。
    生活においても、満員電車の乗り降りを完全にマスターし、交通量の多い道路も車の間を縫ってスムーズに渡れるようになり、お金もまごまごせずにさっと払え、よくタガログ語で話しかけられるようになってきたところでした。
    この間、フェローについて薬品会社主催の講演会に行ってきたのですが、超高級ホテルが会場で、トイレの手洗いが自動で水が出ることにひどく感動してしまって、私もずいぶんこっちになじんだなあと感慨深く思いました。

    明日帰国します。台風が向かってこないのを祈ります。
    続けて夏休みを頂いていますので、9月5日に病棟に戻り次第、今回の研修内容は報告させていただきます。
    有意義な研修を送れたのも、先生方のおかげです。本当にありがとうございました。

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    ● 2016年9月24日

    3年目の修練医Gです。フィリピンでの2週間を終え、先ほど帰国しました。
    2週目は色々とイベントが詰まった週で、月曜の病院全体のお祭りに始まり、水曜日にはジフテリアforum、木曜にはPPRISM(何個かの病院が集まって行う症例検討会)、金曜には地域のクリニック見学とスラム見学などさせてもらいました。
    入院患者では、髄膜炎もしくは脳炎疑い症例(19歳女性、1週間前からの頭痛・嘔気。髄膜炎疑われ前医でCTRX使用後に、状態がかなり悪く挿管されてSLHに救急搬送。前医でルンバールは施行されておらず、起炎菌は不明。転院直後より抗生剤をVCM2g + CTRX 2g×1/day + HRZEに変更し、入院3日目に初めてルンバール施行)や、最終日には首や両膝・腰部に結核性を疑われる潰瘍病変を持つ20歳男性(2か月ほどの結核治療歴あり)など変わった症例もあり、これからどのようにしていくのか見たい症例が多かったです。
    また、大分大学微生物学教室の西園教授に狂犬病のお話しを聞かせていただいた後にdog bite外来の見学をし、とてつもなく需要があり介入していかないといけない問題なのだと思います。

    症例報告の前に、今回このような貴重な機会を与えてくださり感謝申し上げます。有吉先生をはじめ多くの先生方、みなさまのおかげで大変有意義な2週間を過ごすことができました。日本で見ない症例だけではなく、社会的な問題を目の当たりにし、考えさせられた2週間で、とても良い経験ができたと考えております。

    修練医Gより

    さて、今回は前回少し紹介しましたleprosy疑いの症例を提示します。しかし、SLHでbiopsyはされておらず、あくまで皮膚所見や顔貌所見での判断です。tala leprosarium というハンセン病専門病院に転院となり、結局どういった診断となったのかはわかっておりません。もやもやした報告となりますがご容赦ください(添付した写真が患者です。眼線のみをうまく入れられず、眼以下を切り取っております)。

    【症例】20歳男性
    【主訴】皮膚病変、発熱、関節痛
    【現病歴】2ヵ月前より発熱、少量の黄色喀痰を伴う咳嗽を認めた。発熱は出たり消失したりを繰り返していた。また、関節痛と四肢のしびれを認め、また四肢より血管に沿った皮疹を認めた。顔面の皮膚の肥厚もみられた。解熱鎮痛薬内服にて少しの改善を認めたが症状は持続したため他院受診したところ、症状や皮膚所見からハンセン病を疑われた。発熱に対しては皮膚軟部組織感染と考えられ、SLH受診となった。
    【既往歴】特記なし、病院受診歴なし
    【家族歴】特記なし
    【ROS】BT 38.9℃, HR 120/min, RR 33/min, BP 100/60mmHg, SpO2 98%(room air)
    Ht 161.5cm, Wt 53kg
    意識状態は良いがぐったりしている
    眼:貧血あり・黄疸なし、顔面:獅子様顔貌
    胸部:肺胞呼吸音両側良好、明らかなラ音なし、心音整
    腹部:平坦・軟、圧痛なし
    四肢:上下肢に1cm大の水泡形成多数あり、多数の病変皮膚あり隆起しており大きさは様々
    ・神経所見:
    運動;正常、感覚;正常、明らかな知覚消失なし、明らかな神経肥厚はわからず
    【L/D】WBC 26970/μL(Seg 88.1%, Lymph 6.8%, Mono 4.8%, Eosino 0.1%, Baso 0.2%), RBC 2.85×10^6/μL, Hb 7.7g/dl, Hct 26%, PLT 29.8×10^4/μL, ESR (1h) 130mm/h, BUN 5.52mg/dl, Cr 0.57mg/dl, Na 128mEq/L, K 4.18mEq/L, Cl 92.3mEq/L, AST U/L, ALT U/L

    【治療と経過】
    ハンセン病および、何らかの皮膚軟部組織感染症としてPIPC/TAZ 4.5g×4/day + VCM 1g×2/dayを開始、また破傷風toxid 0.5ml筋注+ 抗破傷風血清 6,000単位筋注を施行された。適宜解熱薬を使用し解熱傾向となった。入院当初からbiopsyはしておらず、明らかな知覚消失や神経肥厚は認めていなかったものの、初期のハンセン病を見ているものと臨床的に考えられていた。マニラ市にあるハンセン病院がありそこへの搬送を提示していたが、自宅からの距離が遠くなってしまうなど色々な理由があり家族側が拒否していたものの、1週間後に家族が了承し、現治療を継続したまま転院となった。

    【考察】
    ハンセン病はMycobacterium lepraeによる慢性感染症である。新規患者数は年間約20万人で、インドで約12万人、ブラジルで約3.5万人、インドネシアで約1.7万人などである。M.lepraeは1873年ハンセン(ノルウェー)によって発見された、人工培地で培養できない菌である。31℃前後が至適温度のため皮膚を好んで侵し、また末梢神経親和性を有する。マクロファージ内で増殖するため、病理所見では肉芽腫やレプローマなどとして観察される。ヒト以外にはアルマジロなどに感染する。
    症状としては主に皮膚と末梢神経に病変を及ぼす。皮膚症状は、斑・局面・丘疹・結節・広範な浸潤や、二次的に熱傷・水疱・亀裂・潰瘍・瘢痕など多彩である。また、眼・顔・鼻・手・足・睾丸やその他の臓器・組織に障害を来たす事もある。病変は局所的にとどまる事もあるが、経過とともに重症化することもある。
    ハンセン病の診断は基本的に臨床所見および皮膚スメア検査にて行う。生検皮膚の病理組織や、末梢神経の生検も有用であるが、病理組織所見は臨床所見の裏付けになるが、組織中にM.lepraeが検出できた場合を除き、ハンセン病診断において必須な臨床所見ではないとされる。

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    ● 2016年11月6日

    10月30日に無事、フィリピンに到着しました。10月31日は追加の祝日、11月1日は万聖節というフィリピンの祝祭日であり11月2日からのスタートでありました。フィリピンはいま乾季に入ろうとしておりますが、それでも週に2回程度、雨が降っており、道路が冠水することはありませんが雨上がりの道は多くの水たまりがありレプトスピラが増えそうな印象でした。私の住んでいるエルミタ地区は観光地であるようで、毎朝道路の掃除がされており、この地区でのレプトスピラ症は少ないとのことでした。

    11月4日の午後は、10月の入院患者、死亡患者、また気になった症例の発表を行うmorbidity and mortality というカンファレンスがありました。10月の入院患者は180人程度であり、8割がデング熱,1割がレプトスピラ症というような内訳でした。死亡患者は15人と通年を通じて大きな変化はないようでした。
    症例報告はクレブシエラによる複雑性腎盂腎炎、敗血症、細菌性髄膜炎の症例や重症デングと考えていたら重症レプトスピラ症であった症例、重症レプトスピラ症に伴う肺胞出血など計4例報告されていました。

    研修医Hより

    Age: 19
    Sex: male
    Chief Complain) fever
    History of Present illness) 7days PTC, fever 40℃, abdominal pain and vomiting .no accompany with diarrhea.2days PTC,bleeding(epistaxis) Few hours PTC, no fever. Patient consulted us.
    Past Medical History) DM(-), HT(-)
    Social History) smoke(+), alcoholic drink(+),allergy(-)
    ROS) (+)slight rashes,stomachache
    (-) headache, diarrhea, vomiting, malaise
    Physical Examination) BT 36.5℃, HR 49/min, RR 19/min, BP 90/40mmHg, SpO2 99%(room air), HT157cm, BW 49.5Kg
    Pink palpebral conjunctiva, anicteric sclera, no cervical lymphadenopathy. Chest: Clear breath sound, no murmur, regular rate and rhythm. Abdomen: soft, flat and normal bowel sound. No palpable of the liver, tenderness of RUQ. No edema.
    Rashes are bilateral upper and lower extremities without sole, palm, trunk and back. No petechiea.
    Labo date) WBC 4000/μL(Seg 37.1%, Lymph 52.7%, Mono 10.2%), RBC 53.3×10^6/μL, Hb 16.1g/dl, Hct 47.9%, PLT 58×10^3/μL,BUN 12.35mg/dL, Cr 0.87mg/dl, Na 144mEq/L, K 3.7mEq/L, ALT 122U/L, PT 11.6s PT-INR 1.31, APTT 55.7s
    Dengue check) NS1(), IgM(), IgG()
    また、デングチェックの結果はまだ帰ってきておりませんが、発熱、頭痛、嘔吐が持続しその後、鼻出血を認めております。入院時発熱はなくfebrile phaseからcritical phaseに移行していることがわかります。身体所見では、よくよく見ると四肢に紅斑を認めておりましたが体幹、背部には認めませんでした。皮疹は点状出血となり四肢に残存することから、今後、徐々に点状出血となっていくのかもしれません。治療に関しては、WHOガイドライン準拠で補液を行っており、それ以外にも追加でビタミンK、PPIはほぼ全ての症例で投与されております。

    来週から本格的にデング症例のフォローを行う予定です。こちらは最低気温25℃と常夏であり季節感が狂ってしまいますが、そろそろ長崎でも寒くなっていると思います。風邪など引かれませぬようご自愛ください。来週は興味深い症例にあたることができればと考えております。

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    ● 2016年11月12日

    さて、2週目となりました。少しずつですが、こちらのごはんにも順応出来、この環境に慣れてきているような気がします。症例としては相変わらずデングが入院患者の半数以上を占めており、それ以外としては蜂窩織炎(CA-MRSAが多いようです)、急性腸炎などがあります。現在レプトスピラは収束しているようでほぼ見かけなくなりました。まだ、破傷風を見るチャンスには巡りあえていません。猫にかまれたことによる狂犬病疑いの患者は夜間に入院後すぐに亡くなり直接は見ることは出来ませんでした。
    まずは、なんとか見つけたレプトスピラ症のケースです。

    研修医Hより

    Age: 20
    Sex: male
    Chief Complain) on&off fever for 6days
    History of Present illness)6days PTC,fever on & off ,undocumented, vomiting, abdominal pain, myalgia.1day PTC, decreasing urine output,then consult to near hospital working diagnosis of leptospirosis then refered to our institution
    Past Medical History) allergies(-) HPN(-) DM(-)
    Social History) alcohol drinker non smoker
    ROS) (+)flood exposed, fever, vomiting, abdominal pain, malaise
    O)
    Physical Examination) BT 36.3℃, HR 88/min, RR 19/min, BP 100/70mmHg, SpO2 99%(room air), HT 148.2cm, BW 67kg.
    Conscious GCS15 weaklooking
    HEENT Pink palpebral conjunctiva, anicteric sclera,clear
    Chest breath sound
    Cardiovascular regular rhythm
    Abdominal Soft epigasmic tenderness
    Labo date) WBC 11330/μL(Seg 74%, Lymph 12.7%), Hb 12g/dl, Hct 37%, PLT 110.3×10^3/μL,PT 14.4s PT-INR1.15 , APTT 30s BUN47.79mg/dL Cr 7.98 mg/dL,TP 5.85g/dL, Alb 2.33g/dL Na 128mmo/L K2.92mmol/L, AST 19IU/L, ALT 32IU/L
    Urine sediment analysis)RBC 6-10HPF, WBC >50/HPF
    Lepto check) LEPTOCHECK IgM:positive
    A/P)
    #Leptosipirosis
    #AKI
    Treatment) >started IVF, Ceftriaxone 2gm q24h, Frosemide 40mg
    >paracetamol if high fever.
    この後、尿量は回復し、透析無しで軽快傾向となっております。
    レプトスピラ症が少なくなり、相対的にデングが増えてくるこの時期には両者を鑑別するのはなかなか難しいです。しかし、デングはほとんどのケースで外液の補充で良いのに対して、レプトスピラ症は、AKIのリスクや抗生剤が必要であることを考えると鑑別をつけることは重要であると考えられます。結膜に黄染を認めれば可能性は挙がるのでしょうが、本症例では認めませんでした。鑑別点としては、まずWBCが挙げられます。レプトスピラ症はWBCが上昇するのに対して、デングはウイルス感染であるためWBCは減少します。また、分画もリンパ球が比較的多いです。次に尿検査です。レプトスピラ症は尿検査でWBCが著明上昇するのに対して、デングでは血尿は認めるものの尿中WBC上昇はありません。担当医に聞いてみると本症例でも、そこを鑑別点にしたとのことでした。以下にまとめの表を載せます。

    clinical biochemistry
    dengue Acute febrile syndrome accompanied by headache, retro-orbital pain, muscle aches, rash Hemoconcentration (hematocrit ratio / Hb) Lymphocytosis initial, Leukopenia, Thrombocytopenia,
    Mild transaminemia
    leptospirosis Clinically similar to dengue.
    Spill or conjunctival hemorrhage. Intense muscle aches, leg cramps. Jaundice
    Anuria. Dyspnea, cyanosis. Angina
    Leukocytosis combined with thrombocytopenia. Azotemia Transaminemia severe
    Hyperbilirubine mia.
    Acute respiratory failure (hypoxemia)

    今週末で折り返しとなります。来週こそは、狂犬病や破傷風などを見られればと思います。

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    ● 2016年11月18日

    ついに3週目も終わりそうです。今週は破傷風や狂犬病の入院があり良い経験ができました。来週は最初の2日間はTB病棟での研修、最後の3日間は学会ということで、3週間の熱帯感染症病棟での研修は終わりました。最初の週は連休のため3日間しかなく、2週目はほぼデングしか来ませんでしたが、今週はいろいろな症例を見れて良かったです。
    では症例です。

    研修医Hより

    ■Rabies
    Age: 44
    Sex: male
    S)
    Chief Complain) hydrophobia aerophobia
    Past Medical History) Patients was bitten by a stray dog at Sep 28,but he didn’t consult and had not rabies vaccination. He ate dogs twice for 2monthes. 4days PTC, Patient started to refusal in table of water and be afraid, then consulted to TPH, referred to our hospital. When administration, he has aerophobia.
    Social History)
    ROS) (+) restlessness, hydrophobia, aerophobia
    O)
    PE) none
    Labo date) none
    A/P)
    #Rabies
    Treatment) diazepam 1A+haloperidol 1A i.m. family vaccination.
    経過)入院後、開眼はしているものの返答などはなく、hydrophobiaがあるため食事なども摂取できません。また、患者の唾液は感染の危険があるため、最低限の看護、緩和介入しか行わず、鍵のついている病室に入室し身体拘束されます。やむなく入室する際は接触感染対策がされています。最終的に狂躁状態を繰り返し、鎮静され入院2日目に死亡となりました。

    狂犬病はラブドウイルス科のリッサウイルスに分類され、感染動物からヒトに伝搬する急性ウイルス性の中枢神経、人獣共通感染症です。狂犬病はフィリピンにおいて重要な公衆衛生問題の一つです。狂犬病TOP10国に入っており、年間におよそ200-300人のフィリピン人が死亡しています。2010年には300,000人が何らかの動物咬傷にあっています。2007年よりフィリピンのBohol地方(フィリピンで4番目に狂犬病による死者を認める地方)でthe Bohol Rabies Prevention and Elimination Project (BRPEP)というプログラムが開始されました。これは、犬の頭数のコントロール、集団の犬ワクチン接種、dog-bite managementの改善、検疫獣医の設立、サーベイランスやモニタリングの改善などを行うものでした。介入の結果2007年から2009年までの年間人狂犬病の死亡率は10万人あたり0.77から0.30を経て0となり、介入の効果があったと考えられています。犬は狂犬病のreservoirかつvectorですが、犬以外にも猫、牛、アライグマ、キツネ、コウモリなどもreservoirとなります。咬傷以外による狂犬病のウイルスの感染は角膜移植などで認められている。また、犬を解体し食べることで狂犬病になったというケースレポートもあり、ここフィリピンでも犬食や解体は狂犬病のリスクであると担当医は言っていました。

    狂犬病の潜伏期間は1-3ヶ月程度と言われており、本症例も1ヶ月半程度です。動物咬傷による筋肉のウイルス感染の後、筋肉内でウイルスは増殖し、神経筋接合部を通り逆行性に軸索内を移動して後根神経節へ移動します。この神経筋接合部や軸索を逆行する流れはTetanusの毒素と似ているところがあります。 もっともウイルスと毒素ですので前者は複製されますが、後者は複製されず最終的には細胞内から排除され、Tetanusは合併症さえコントロールできれば最終的には完治するという違いがあります。話が横にそれましたが、ウイルスは脊髄から上行(100-400mm/day)し中枢神経へと感染し、行動異常を来します。その後唾液腺,肝臓,筋肉,皮膚,副 腎,心臓などに遠心性に広がります。その為、感染者の唾液には注意が必要であり、上記のような患者対応となっています。

    臨床経過は1-3ヶ月の潜伏期、1-7日間の前駆期、1-7日間の狂騒期があると言われております。特徴的な咽頭収縮(恐水症hydrophobia、恐気症aerophobia)は狂騒期におこり、水を飲み込むときや空気を吸うときに使用する筋肉のコントロールを行う疑核周囲のニューロンの感染によると考えられています。

    発症してしまっては致死率がほぼ100%なの(現在まで5例の改善例があるようです)で、暴露時の予防対策(PostExposure Prophylaxis)が重要になってきます。WHOのガイドラインでは3つのグループに分けます。危険なほうからⅢ〜Ⅰとカテゴライズされております。本症例の家族は患者と接触はありましたが、小さな擦り傷や擦過傷などはありませんでした、そのためcategoryⅠに分類されますが、本患者からの感染のリスクが少しあると判断してワクチン接種のみを行うこととしました。
    学会では2日目にダンスがあるようで、その練習もしています。コンテストみたいで賞もあるようです。連日30℃を超える中で練習を行っていで、汗だくになっています。天気予報をみると、長崎でもだいぶ寒くなってきているようですが、フィリピンにいると10℃ってどのぐらいの寒さだったかを忘れてしまいそうです。

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