教授メッセージ2015年

● 4月のメッセージ

教授就任10年を振り返り、そして10年先を見据える

2005年3月27日に、「日本でも発展途上国でも活躍できる次世代の日本人医師の受け皿となれるような教室をつくりたい」という夢を叶えたい一心で、国内で唯一、内科教室でありながら、熱帯医学・発展途上国での医療・研究活動を使命とする熱帯医学研究所臨床教室(熱研内科)の教授に就任した。今年の3月で就任後10年が経ち、数えてみると定年まであと10年ある。この機会に、これまでの10年を振り返り、これからの熱研内科を見据えてみた。

ひとが集まるところ
教室の本質はひとである。私が就任以来、毎年教室員が増え、約40名の医師が新たに熱研内科(就任当初は感染症予防治療分野、現在は臨床感染症学分野)教室に所属したことになる。本年度もさらに2名の新人が教室員になった。教室員の数を“約”としたのは、なかには自分を教室員として意識していないひとも含まれるからで、そのことが物語るように、この10年間に教室と各教室員との距離感は明らかに多様化した。また、それぞれの教室員の背景、夢や目標、到達地点も様々になった。それは、診療科を担う臨床教室を運営する上で決して容易なことではないが、私は、これらの“多様性”は教室の「強さ」でもあると考え、これからも熱研内科が外に開かれた様々なひとを包容できる教室でありたいと思う。

ひとが何をしたのか
そんなひとが集まり、この10年間に、熱研内科の教室員による素晴らしい実践があった。熱研内科病棟での日々の診療に加えて、長崎大学病院での感染症コンサルテーションが充実し、感染症内科として大学病院全診療科からさらに大きな信頼を得た。ここ数年は、年間約400症例のコンサルテーション症例をディープに診ている。上五島病院の内科が崩壊しかけたときの緊急医師派遣支援、東日本大震災後の支援、フィリピン台風被害後の支援や西アフリカエボラ対策支援もあった。離島・へき地医療学講座へも長期に人材が派遣され、また、こういった国内の地域医療支援は、支援活動のみに終わらず、それぞれ新たな学術研究へと発展した。教室員の海外での活動もさらに活発になり、ロンドン大学、リバプール大学、コロラド大学、マヒドン大学へ複数の教室員が長期・短期留学し、数か月から数年間にわたり、数多くの教室員が、タイ、ベトナム、フィリピン、そして最近はアフリカへと長期滞在し、研究や研修をした。国際NGOを通じた国際医療協力への参加協力もあった。国立感染症研究所、大阪大学微生物病研究所、結核研究所、名古屋医療センター、近畿中央胸部疾患センター、神奈川県立循環器呼吸器病センターなど、様々なかたちで国内留学する教室員もいた。複数の大型プロジェクトも成功させ成果を上げてきた。北タイランパンHIVコホート、中部ベトナムニャチャン住民コホートとカンホア病院でのバースコホート、また、国内では本格的な全国多施設成人肺炎調査である。平成26年からは、フィリピン国立感染症病院(サンラザロ病院)に最新の感染症診断ラボを開設するという海外プロジェクトの推進力にもなっている。一方、長崎大学病院では、特発性肺胞タンパク症患者を長崎大学病院初の肺移植手術まで漕ぎ着けたこと、さらには、この肺胞タンパク症の原因がGM-CSF β鎖遺伝子欠損にあることを世界で最初に報告した研究は、自分が生涯関わった最も印象に残った仕事だった。

ひとが育つところ
教室の最も重要な使命のひとつは人材育成である。私自身は、この10年間、熱帯医学研究所教育室長・熱帯医学研修課程教務委員長、医歯薬学総合研究科熱帯医学修士(MTM)の副専攻長(教務主任)として、そして2012年からは、MTMをさらに発展させた熱帯医学・グローバルヘルス研究科(TMGH校)の創設に中心的役割を担ってきた。その一方で、教室内では、私自身が先頭に立って教室員に系統だった教育をするなどの貢献は殆どできず、むしろ個としての自分の能力不足を嫌というほど、思い知らされた10年でもあった。しかし、振り返ってみると、羨ましくなるようなすばらしい人材がたくさん育っていた。育ってきた教室員を見ていて、ひとが育つ最も大事な要素は、かたちではなく、「実践」だと確信する。教室として、何か特別な教育活動をしてきたわけではないが、良い臨床医になるには良い診療を、良い研究者になるには良い研究を、ロールモデルとなるひとたちと一緒に良い仕事ができれば、ひとは育つ。教室は、実践を通じて人が育つところであり、診療にせよ、研究にせよ、質の高いものに関わることが、教室員が何を実践しているかが、教室の人材育成に一番大事な要素だと確信する。逆を言えば、良い患者診療に携わらないところで、良い臨床医は育たないし、高いレベルの研究に携わらないところで、良い研究者は育たない。これからもさらに高いゴールを目指して歩み続けたい。

これからの10年
「熱帯医学」は、熱帯地に特有の熱帯感染症を対象とする学術領域である。また、国際保健医療は、途上国の保健医療に係る問題を扱う実務領域で、いずれも「熱帯地vs欧米・日本」「貧しい国vs富める国」といった異なる世界の課題として捉えてきた。一方21世紀に入り、ひと、もの、文化、政治、経済のグローバル化が急速に深化し、かつて途上国と言われてきた国々との国境が益々不明瞭になってきた。そのようななかで、新たにでてきた「グローバルヘルス」は、地球上に住むあらゆる人々の健康を、国境や大陸を超えた連続するものとして、同じ目線で捉えることにより、国内の問題も含めて健康課題を本質的に理解し解決しようとする新たな学術・実践領域である。ここ3年間ほどTMGH校の創設にかかわるなかで、「グローバルヘルス」について考える機会が増えた。そして、考えれば考えるほど、日本の医療に深く携わる一方で、海外での経験があり、国際的な視点をもった医師が集まる熱研内科は、まさに、日本国内で最もグローバルヘルスを実践してきた臨床教室であることに気付かされる。これからの熱研内科は、「グローバルヘルス」という潮流のなかで、日本の医療と世界の医療を双方向に結ぶ懸け橋として、さらに大きな役割がある。

私はこの10年間自分の無力さに何度も失望させられてきたが、振り返ってみると、この間に成し遂げたすべては、熱研内科に集まった教室員によってなされたことで、私の役割はただ、教室員が仕事をする環境を整えるべく支援し、応援してきただけだった。そして、患者診療、研究、社会貢献のどれにおいても、教室員の誰かが、目の前の患者さんのために、地域医療や世界の医療のために、あるいは医学の発展のために、すばらしい活躍をしたとき、自分もその一員であったことを心から嬉しいと感じていた。今、他の教室の教授たちから羨ましがられるほど、すばらしい志をもった仲間に恵まれている。 “世の中のひとのために自分たちに何ができるのか”そのことをだけを愚直に考え、これからの10年間、気持ちを新たにして、引き続きひとりひとりの教室員を支援して行きたい。

2015年4月
有吉紅也


今年の春、学会が続けて京都で開催されたおかげで
久しぶりに故郷を満喫できた
(左京区黒谷)

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