ケニア

ケニア共和国ビタ近郊の医療施設における感染症診療の実際

加藤隼悟(記)、大澤令奈、鈴木基

長崎大学アフリカ海外教育研究拠点および熱帯医学研究所(熱研)アジア・アフリカ感染症研究施設ケニアプロジェクト拠点(ケニア拠点)のビタプロジェクトサイトを訪問し、同地区近郊の医療機関を視察した結果を報告する。なお、今回の視察に先立ち、長崎大学熱帯医学研究所臨床感染症学分野(熱研内科)医員で長崎大学大学院医歯薬総合研究科熱帯医学専攻修士課程(MTM)在学中の大澤令奈医師が現地におけるMTMプロジェクトを遂行する目的で滞在しており、今回の視察には熱研内科助教の鈴木基医師、同医員の加藤隼悟医師、大澤医師が同行した。

2014/1/28-2/1にかけてケニア共和国旧Nyanza Province、現Homa Bay County内の MbitaにあるMbita District Hospital(MDH)を重点的に、またSindoにあるSuba District Hospital(SDH), Homa BayにあるHoma Bay District Hospital(HDH)及びMbita近郊のAngiya Dispensaryを視察した。

 

MDHはMbitaの街道沿いにあり、医師は卒後3-4年目の若い院長一名のみで、Clinical Officer(CO:レジデントのような臨床業務従事者)が9名で勤務しており、基本的には全てCOが診療にあたる。朝9時頃から小児病棟(7床だが1ベッドに2患児となることが多く、実質10床前後)、成人女性病棟・男性病棟(各4床で空床が目立った)を回診し、その後小児から成人まで全年齢を対象にした外来診療を一人で(患者が多い時は二人で)行う。外来患者はおよそ240人/週で約70人が5歳未満である。大半が発熱患者であり、発熱を伴わない場合は消化器症状(嘔吐・下痢)、呼吸器症状(咳・呼吸苦・頻呼吸)、貧血・倦怠感、低栄養、外傷などが主訴である。外来小手術や簡単な処置は全て外来中にCOが行う。

成人の入院患者の多くはHIV陽性で、外来でAntiretroviral therapy(ART)も行っている。HIVのProvider-Initiated Test and Counselling (PITC)、結核のDOTS、Antenatal Care Service(ANC)もあるが、これらはより下位のHealth care facilityであるHealth CentreやDispensaryでも提供している。病院の役目としては上記の他に、下位のHealth care facility から紹介されてくる患者を診療し、入院病床を管理する点が求められている。このほかに周産期管理や帝王切開手術が可能な手術室もあり、帝王切開や簡単な外科手術は医師(院長)と看護師によって行われる。

感染症の診断である程度診断可能なものはマラリア(Thick filmのみ)とHIV(ケニア政府支給の迅速診断キット、日本のODAにより寄贈されたCD4カウンター*)、結核(Z-N染色、Reference laboにおける培養)、血清Cryptococcal antigen (sCRAG) 、梅毒反応のみである。他に可能な主要検査は下記である。(*現在はFACESによるHIV研究に使用されており、FACESはKenya Medical Research Institute(KEMRI)とUniversity of California San Francisco(UCSF)の共同プログラムで主にUS-CDCとPresident’s Emergency Plan For AIDS Relief(PEPFAR)から出資されていて日本は関与していない)

  • 血球計数(白血球分画):全例施行されず、血小板数は測定不能
  • 生化学:肝機能、腎機能程度だがHIV初診時以外ほぼ施行されない
  • 血糖値:測定可能だが糖尿病以外では測定しない
  • Widal test:Typhoid疑い例に施行しているが、地域におけるベースラインのTitreは不明
  • 血清H.pylori抗体:消化器症状がある場合
  • Sickle cell test:Severe anemic caseに施行、陰性確定までに2日かかるため検査頻度は高くない
  • 尿検査:試験紙法のみだが施行例は多くない
  • レントゲン撮影:院内では不可能で近くのPrivate Clinicに依頼。但し施行例はわずか
  • 便鏡検:Cyst、虫卵を見るが、施行例は多くない
  • 細菌培養:不可能

ほぼ全ての発熱患者と発熱陰性であってもマラリアが疑われる患者にはThick film検査を行っており、結果は半定量的に1+から4+まで評価されており、3+以上はSevere Malariaとされる。逆に1+や-(陰性)であっても、臨床的にマラリアと診断されてマラリア治療を受けている例も多い。改善が見られない場合は抗菌薬を追加して何らかの感染症として治療される。このため、マラリア感染のない発熱患者や、原虫感染はあるがparasite loadは高くなく本来はマラリア治療対象外であっても、別の感染があって発熱しているためにマラリア治療を開始され、改善が認められないという例もあるようである。また、週末や夜間の受診の場合は血液鏡検がなされずに抗マラリア治療を開始する場合も多い。概してマラリア以外の診断の正確性は疑問が残り、肺炎、髄膜炎、敗血症などが一定数見逃されている可能性がある。HIV/AIDSに関連する日和見感染症についても診断は困難である。

日常の臨床業務としては、COが回診で入院中の患者のAssessment & Planを決定するが、判断が難しい場合や高次医療機関への転院が必要な場合などは医師(院長)に相談して決定する。COによる外来診療の主な業務は書類記入(処方箋、入院証明、診断書など)、診察カルテ記載(患者が持ち帰る、乳児の場合は母子手帳を用いる)、服薬指導などである。ある日の午前中の診療光景では、診察待ちの患者が多く診察は主に問診のみであり、身体所見はあまり丁寧に評価されず、発熱例は全て抗マラリア薬処方(Thick film結果に関わらず)となっていた。基本的にバイタルサインは入院患者では一日2回体温、脈拍、呼吸数をみるが、外来ではsick lookingな場合のみ血圧を測定する程度であった。

SDHはMDHよりもやや規模が大きいが、MDHと機能的には同様のdistrict hospitalである。Mbitaから4WDの車でないと通れない未舗装道路を走り、1時間弱で到着。同院には2名の専門医、3名の医師、9名のCOが勤務している。同院で可能な感染症検査はMDHとほぼ同様だが、細菌検査室は現在稼働準備中で、細菌検査のトレーニングを受けた技師が培養検査の導入を目指している。他にレントゲン撮影(フィルム現像機あり、稼働率は高くなさそうな印象)、エコー(技師が1名、使用頻度は疑問が残る)が可能であった。

HDHは同Countyにおける最大の病院であり、district hospitalではあるがMDHやSDHよりも規模が大きく、同county内の医療施設から紹介患者が集まる病院である。MbitaとHDHの間は大半が舗装路であり車で50分あれば到着する。同院には7名の専門医、6名の医師、多数のCOが勤務しており、医学生、看護学生の実習施設でもある。カルテの初診時記載量も多く、学生やCOが記載した後で必ず医師による入院時記載も行うようであった。検査設備も充実しており、感染症検査としてはMDHで可能なものに加えて一般細菌グラム染色・培養検査(血液(非自動検出)、髄液、痰など)、抗酸菌蛍光染色・培養、GeneXpert(結核菌に対するNucleic Acid Amplification Testであり、同時にRFP耐性遺伝子も検出、検査費用が非常に高価でアフリカでは援助の入っているMDR-TB蔓延国で導入されている)などである。顕微鏡は複数台あり、膨大な量のBlood filmを検査しているため、thin filmまで検査する余裕が無いとのことであった。当院では今回視察した中で唯一髄液検査が施行されていた。画像検査は2台のX線検査台があり、造影検査も可能なようだが、訪問時に放射線技師は不在であった。CTは無いため、必要な場合はより大きな病院へ紹介するとのことであった。超音波検査は可能である。HDHは他の病院と比べるとかなり大規模であり、CDC、MSFなど複数の機関の援助や研究プロジェクトが入っているようであった。

Angiya dispensaryはMbitaから舗装路を車で走り15分程度のところにあるビクトリア湖に面した崖の上にある診療所である。医師やCOはおらず、看護師による外来診察とマラリアやHIVの迅速検査を行っている。マラリアの鏡検はできない。栄養指導や予防接種、ANCも行っているほか、分娩室もある。マラリア、HIVの治療薬と一部の抗菌薬は供給可能であるが、安定供給が得られるのはアメリカのPresident’s Emergency Plan For AIDS Relief(PEPFAR)によるHIV対策関連の検査キット・治療薬のみで、ケニア政府からの供給は不安定であるとのことであった。当地域においては長崎大学とJICAの共同事業によるDemography & Health Surveillance Systemの構築が行われており、その事業の一環で当dispensaryにも長崎大学スタッフが訪問していた経緯があり、今回の見学がかなった。

今回視察した地域ではマラリア、HIVの患者が多かったが、他の疾患の診断が難しい状況であり、実際の感染症流行状況が正確に評価できていないと考えられた。各医療施設における設備に制限があるため、正確な診断には診断設備を導入するか検体を輸送してreference laboratoryで検査する必要がある。Hospital basedのみでなく、population basedの各種感染症流行状況を評価していくことが望まれる。同地域において長期的な研究を行う場合は、医療施設間の移動、季節による環境変化などを考慮していく必要があると考えられた。

ケニア・ナイロビにおける臨床研修
期間: 2007年11月~12月

長崎大学熱帯医学研究所が平成17年から取り組んでいるケニア感染症研究プログラム、及び熱研内科が提供する海外研修期間を利用して、2007年11月から2ヶ月の間、ケニアのナイロビにおいてMbagathi District HospitalとGertrude’s Children’s Hospitalで臨床研修を経験した。
ケニア・ナイロビは東アフリカに位置し、比較的安定した治安と高地による温暖な気候を背景に、東アフリカの政治・商業の中心都市として発展してきた。一方近年では職を求めて地方から人々が流入し、人口集中による治安の悪化や貧富の差が顕著化している。

Mbagathi District Hospitalはベッド数約200床、ナイロビで唯一の県立病院である。東アフリカ最大のスラム街、キスム均衡に立地することから毎日お金に余裕のない人々が地域の相互扶助制度(ハランビー)を利用して、外来通院・入院してくる。また病院敷地内にはNGO団体であるMSF(国境なき医師団)と協力し、無料でHIV治療を受けられる外来診療施設を提供している。診療行為の大部分は医師不足のため、看護師と医師の役割を併せ持つ準医師によって行われ、診断は主に身体所見と問診によってなされる。入院病棟ではHIVに関連した結核や髄膜炎、悪性腫瘍等を多く認める。


内科病棟回診の風景、医師1人に準医師がついて治療方針を確認する

一方でGertrude’s Children’s Hospitalは主に外国人等の裕福な患者層を対象とした私立小児病院で、80床のベッド数に対して28人の医師が勤務する。日本や欧米の病院と比較しても遜色のない清潔な施設で、対象疾患もHIVや結核等の熱帯感染症は少なく、下痢症・中耳炎・急性上気道炎等が一般的である。

 

写真左:病院玄関の建物 写真右:病院中庭にある公園

今回ケニアでの経験を通じて、アフリカの同一都市においても医療施設や疾病構造に格差が存在することを理解することができた。また臨床医としての役割や限界についても考えさせられた。熱研内科では今後も海外で熱帯医学に関連した活動をするにあたり、熱帯地域の現状を理解する手段として海外での臨床研修の継続が計画されている。


参照:ケニア保健医療の現状について

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