院内感染症コンサルト

    当科の院内感染症コンサルト活動

    当科は他科で発生している感染症症例の相談を受けて、日々対応しています。外科系領域からの相談も多いため、感染症治療の管理に留まらず、時には内科的な包括的管理にも治療応援を行っています。感染性心内膜炎、化膿性脊椎炎、髄膜炎、外科領域の術後感染、誤嚥性肺炎、敗血症など一般的な感染症からICUや救命センターでの不明熱、多発外傷に伴う感染症合併例など複雑な病態の症例まで非常に多岐に渡る症例に対応しています。当科では院内コンサルトに専門で対応できるように、現在は外来医長を中心にコンサルト対応チームを編成して日々対応しています。毎月の新規の相談症例は約30症例/月 前後です(図1)。数日で治療対応が終了する症例から数週間、数か月フォローは必要な症例まで多岐に渡ります。

    文責 田中健之 2014年1月
    柿内聡志(コンサルトチーム員 副外来医長 2015年12月-)、松井昂介(コンサルトチーム員 副外来医長 2015年2月-11月)、島崎貴弘(コンサルトチーム員 2015年2月-3月)、加藤隼悟(副外来医長、コンサルトチーム員 2014年10月-2015年2月)、田中健之(外来医長、コンサルトチーム長 2014年10月-2015年3月)、高木理博(外来医長、コンサルトチーム長 2015年4月-)





    今月の一症例

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    ● H26年1月

    45歳、男性
    感染性心内膜炎(Streptococcus sanguis)、感染性脳動脈瘤破裂、感染性動脈瘤(左尺骨動脈)、僧房弁置換術後

    経過;発熱で近医受診され、経胸壁心エコーで僧房弁逸脱症と疣贅を認め、血液培養でStreptococcus sanguisが陽性で、僧房弁置換術目的で当院心臓血管外科に転院。PenicilinG感受性菌であったため、PenicilinG+Gentamycinの加療開始。予定通り僧房弁置換術施行された。手術前の頭部MRIでは明らかな感染性脳動脈瘤は認めなかった。術後経過良好であったが、術後9日目に呂律不良、左半身脱力、意識レベル低下を認め、頭部CT(図1、図2)にて脳動脈瘤破裂と診断され、緊急手術施行(脳動脈瘤切除、血腫除去)。その後頭部の術後経過良好であったが、術後17日目頃に入院時に自覚していた左前腕痛を再度認め、その後も腫脹圧痛が悪化傾向にあり、上肢CT (図3)にて尺骨動脈の感染性動脈瘤と診断され、動脈瘤切除術が施行された。

    ポイント:起炎菌は感受性良好の菌であったが、治療経過中に次々と感染性脳動脈瘤が出現してまれな経過を辿った一例。

    図1(動脈瘤破裂による脳出血)          図2(造影CTにて動脈瘤を認める)
     
    図3(造影CTで尺骨動脈に動脈瘤を認める)  

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    ● H26年2月

    29歳、男性
    肺炎球菌性髄膜炎、DIC、脾臓摘出後、片腎

    経過;18歳時の交通事故で脾臓損傷して脾臓摘出術を施行(肺炎球菌ワクチン未接種)。その後は特に入院歴もなかった。X年X月X日の早朝に発熱、嘔気出現し、近医を受診。WBC 20000, Plt 30万, CRP 2でCTにて小腸の壁肥厚を認めたため、腸炎としてLVFX,整腸剤、制吐剤を処方され一旦帰宅。しかし、翌日には意識障害出現して、同院に緊急入院。WBC 33700, CRP 33, Plt 9万のため、敗血症、DICと診断され、MEPMとリコモジュリンなどの投与開始されたが、意識障害遷延するため、翌日に当院神経内科に転院となった。転院後の髄液穿刺にて多核球優位の細胞増多、肺炎球菌抗原陽性、尿中肺炎球菌陽性で肺炎球菌性髄膜炎と診断。MEPMとデキサメタゾンの投与開始。後日の血液培養、髄液培養でPSSPと確認して、CTRXに変更して治療継続した。その後意識障害改善して、右感音性難聴は残存したが、軽快退院した。

    ポイント:脾摘後重症感染症の一例。脾摘症例では肺炎球菌ワクチン接種が必須であり、外科の先生方への周知が必要であった一例。

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    ● H26年3月

    68歳、男性
    感染性硬膜下血腫

    経過;2か月前に庭仕事で転落して頭部打撲歴あり(その際は打撲の程度強くなく、医療機関受診歴なし。)
    軽度の意識障害で交通事故を起こし、救急病院受診となり、頭部CTにて両側(左側優位)の慢性硬膜下血腫を認め、当院脳外科に搬送された。転院後に左の硬膜下血腫に対して穿頭洗浄血腫除去を施行されたが、術中所見で血腫以外に混濁した膿も認めたため、グラム染色施行したところ(その時点で当科コンサルト)、好中球多数の背景にグラム陰性桿菌を多数認めたため(後日培養で大腸菌と同定)、感染性硬膜下血腫と診断され、抗菌剤(CTRX)の投与となった。

    ポイント:医療機関受診歴もない方で、頭部打撲の既往はあったが、膿瘍になるような受傷起点は明らかではなく、大腸菌の侵入門戸も不明であった。

    転院時の頭部CT

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    ● H26年4月

    35歳、女性
    敗血症(Listeria monocytogenes)、DIC,大動脈炎症候群、大動脈解離

    経過;大動脈炎症候群と大動脈解離で当院膠原病内科と循環器内科フォローの方。免疫抑制剤としてプレドニン10mg, メトトレキセート4mg, タクロリムス1.5mg内服中。数日前に焼肉を食べにいったあとから、発熱(38度)、嘔気、下痢を認め、当院時間外の外来を受診した。本人の他には同様の症状を有する者は明らかでなかった。感染性胃腸炎疑いとして補液を行われ、一旦帰宅された。その後、高熱(40度)の発熱を認め、かかりつけの当院膠原病内科受診時にWBC 1400, Plt 3.2万, CRP 8.82と感染症を疑われ緊急入院となり、当科にコンサルト。メトトレキセートの副作用で口腔粘膜のびらんが進行していた。免疫抑制状態であることから経験的治療としてMEPM+VCMの点滴を開始、その後の入院時の血液培養でListeria monocytogenesが陽性となり、ABPC+GMに変更した。その後は治療経過良好で、入院時に認めていたDICも改善した。

    ポイント:可能性としては、メトトレキセートの粘膜障害で腸管などの粘膜障害もあり、そこが侵入門戸と考えられた。

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    ● H26年5月

    50歳代、男性
    診断名;AIDS, Diffuse large B cell Lymphoma,CMV腸炎、HBV既感染(HBV-DNA陰性)

    経過;リンパ腫(十二指腸病変の生検にて診断)の診断にて血液内科にて化学療法(R-CHOP)を施行中に、化学療法後の白血球の回復が通常よりも遅い印象があり、CD4リンパ球数を測定したところ32/μLと低値であったため、HIV検査施行したところ陽性と判明。当科コンサルトの上、確認検査で確定診断に至り、抗HIV治療も開始となった。化学療法と並行治療が必要でHBV既感染であることも考慮し、RAL+TDF/FTCのレジメンを選択した。

    ポイント:AIDS関連リンパ腫の一例

    PET : 左股関節から腸骨に強集積。甲状腺にも集積。腹部正中に強い集積(十二指腸横行部)
    GIF : 十二指腸水平脚に隆起性病変散在する。

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    ● H26年6月

    73歳、男性

    経過;9か月前に食道がんの診断となり、8か月前から当院放射線科にて化学放射線療法施行中の患者。数日前から発熱、倦怠感出現して近医受診し、CTにて放射線肺臓炎を疑われ、当院放射線科に再入院となった。入院時に心嚢水、両側胸水貯留を指摘あり、心嚢液のドレナージを循環器内科で施行すると同時に、発熱が感染性疾患と関連していないかどうか当科へコンサルトされた。照射部位での肺の索状影と心嚢水、両側胸水であったため、放射線障害による一連の肺臓炎と漿膜炎(心嚢水、両側胸水)と考え、NSAIDsでまずは対応しながら、一応、左胸水穿刺にて細菌、抗酸菌精査を行った。心嚢水、胸水の抗酸菌の塗抹は陰性であったが、後日、心嚢水と胸水から結核菌のPCRが陽性となった。肺野には明らかな活動性結核の陰影はなく、3日間喀痰結核菌塗抹も陰性であり、結核として当科に転科となった。T-SPOTは陰性で結核の罹患歴や暴露歴なし。

    ポイント:結核は忘れたころにやってくるという教訓の症例

    発症2か月前のCT(放射線肺臓炎を疑う索状影)
    発症時のCT(両側胸水、心嚢水貯留)

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    ● H26年7月

    66歳、男性

    経過;エビ養殖業に従事しており、海外と日本を半年ごとに往復する生活をしている。東南アジアから帰国直後より、左足の違和感と歩きにくさの自覚があった。明らかな受傷機転なし。入院5日前から左下腿に発赤腫脹が出現。表皮剥離も伴っていた。症状悪化のため、当院救急外来受診した。感染性の蜂窩織炎、壊死性筋膜炎を疑われ当科へコンサルトとなった。皮膚の浸出液のグラム染色では好中球浸潤と連鎖球菌を認めた。抗生剤加療をABPC/SBT+CLDMで開始となったが、MRIでも筋膜炎を疑う高信号を認め、肉眼所見も病変の広がり進行も認め、ショックで意識レベルの低下も認めたため、入院翌日に緊急で左膝下で切断となった。
    浸出液培養の最終結果はStreptococcus pyogenes,Staphylococcus aureus、下腿組織培養ではStreptococcus pyogenes.

    ポイント:早急な足切断の判断が必要であった症例

     
    下肢MRI(左下腿筋・筋膜高信号)

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    ● H26年8月

    79歳、男性
    誤嚥性肺炎、脳梗塞

    経過:急性脳梗塞にて当院脳卒中センター入院。入院時に炎症反応上昇と発熱にて胸部レントゲン、胸部CT施行され、肺炎像を認めたため、脳卒中センターにてPIPC/TAZ点滴が開始となった。しかし、その後も発熱持続し、炎症反応の改善も乏しいため、当科にコンサルトとなった。バルプロ酸内服されており、カルバペネム禁忌であったため、まずはLVFX+CLDM併用に変更した。しかし、後日喀痰培養にてESBL産生Kelebsiela pneumonia (カルバペネム、キノロン、アミノグリコシド感受性)が判明したため、口腔内嫌気性菌の関与も考慮しつつESBL産生菌の加療を強化する意味でCPFX+CMZに変更した。しかし、肺炎悪化、呼吸状態も悪化したため、バルプロ酸中止し、MEPMへと変更した。変更後は肺炎像と炎症反応の改善を認めた。しかし、一旦改善を認めていた数日後に炎症が再燃し、喀痰培養でCorynebacterium striatum (カルバペネム耐性)が陽性となった。Corynebacteriumが真の起炎菌かどうかは議論を呼ぶところであったが、他に明らかな感染のフォーカスを認められなかったため、同菌を治療対象としてVCMを追加した。その後は解熱傾向で炎症反応、肺炎像も徐々に改善を認め、呼吸状態も徐々に改善した。

    ポイント:ESBL産生菌呼吸器感染症での抗生剤選択判断の難しい症例であった。

    胸部CT;
    左肺優位に胸水を伴う肺炎であり、左上葉は大葉性肺炎、下方には一部Consolidationも認められていた。

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    ● H26年9月

    61歳、男性
    後腹膜膿瘍、感染性膵嚢胞、重症急性膵炎(ERCP後胆管ステント)、閉塞性胆管炎、ARDS,急性腎不全、DIC

    経過;総胆管結石に対して他院にてERCP施行され結石除去の処置を施行されたが、処置後に重症膵炎合併し、全身状態悪化したため、集中治療目的で当院へ転院となりICU管理となった。転院後、当科にもコンサルトあり、集中管理+MEPM動注療法など施行され、循環動態、呼吸状態は急性期を脱したが、炎症反応はなかなか改善を認めなかった。抜管後のフォローのCTにて広範囲な後腹膜液体貯留+ガス像を認めた。ガス像は後腹膜から陰嚢にも拡大していた。消化器外科と泌尿器科にて緊急で外科的ドレナージが施行された。その際の検体にてグラム陽性球菌(連鎖状)とグラム陰性桿菌を多数認めた膿であったため、MEPMに追加してLZD+CPFXの併用も開始した。後日の各種ドレナージの膿検体の培養では、Enterococcus faecium, Pseudomonas aeruginosa, Candida albicans, Enterococcus avium, Bacteroides theotaiotaomicron, Bacteroides ovatus, Parabacteroides distasonisが陽性となった。各種感受性が判明し、Bacteroidesに関してはカルバペネムも含めて多剤耐性であったため、メトロニダゾール(MNZ)点滴加療も追加した。最終的にはMNZ+CPFX+MCFG+PIPC/TAZの多剤併用療法+持続洗浄ドレナージにて炎症反応の改善を認めた。全身状態の安定化をはかり外科的ドレナージを行うこととなった。

    ポイント:腹腔内嫌気性菌感染症の難治症例でMNZとドレナージの治療効果が示唆された。

    腹部CT;

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    ● H26年10月

    73歳、男性
    腹部大動脈瘤人工血管置換術後感染、感染性心内膜炎疑い、感染性脳動脈瘤疑い、MSSA菌血症、Eikenella菌血症、Streptococcus constellatus菌血症

    経過;約9か月前にruptured AAAにて人工血管置換術施行された(他院)。約1か月前から発熱を認め、近医に入院され精査が行われた。腹部CTでも人工血管感染を疑うような所見なく、血液培養で感染性心内膜炎の起炎菌としても矛盾しないEikenellaが血液培養で陽性であったため、感染性心内膜炎疑いとして当院循環器内科に転院となり、当科にも加療に関してコンサルトがあり、経験的治療としてRFP+GM+CEZが開始となった。入院時身体所見では両下肢にJaneway病変、足趾にOsler結節を認めたが、上半身には特異所見なく、眼底にRoth斑は認められず、肝脾腫も認めなかった。その後の精査で経食道心エコーでは明らかな疣贅を認めていないこと、頭部MRIおよび胸腹部造影CTで梗塞性病変は認めていないこと、腹部CTにて人工血管周囲にガス像を認めたことなどから、Duke診断基準では感染性心内膜炎の基準を満たすが、状況的には人工血管感染の可能性が高いと評価した。当院の血液培養ではMSSAとS.constellatusが繰り返し陽性であった。当初は全身状態から外科的治療は困難と判断され、上記3剤で14日間の治療後にCEZ+RFPで6週間、以後も内服治療を継続する予定となったが、全身状態改善後に施行したGIFで十二指腸水平脚に瘻孔を認め、人工血管が露出していたため、腹部大動脈再置換術施行された。術中検体からは腸球菌やグラム陰性腸内細菌科を検出し、DAP+PIPC/TAZ+RFPで治療継続となった。将来的には画像変化をフォローしつつ内服治療を継続する予定である。

    ポイント:人工血管感染は一般的には保存的治療での根治は難しく、内服治療に移行したとしても内服をほぼ恒久的に継続する必要性が高い。

    腹部CT:人工血管壁に沿って血栓と気泡あり   GIF:十二指腸に露出した人工血管

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    ● H26年11月

    78歳、男性
    肺非結核性抗酸菌症( M.intracelluare)、中心性頸髄損傷、頸髄症、胸椎破裂骨折、胸骨骨折

    経過;4m下の畑に転落し多発外傷にて当院救命センターに緊急搬送。同日胸椎破裂骨折に対して緊急手術施行(椎弓形成術+後方固定術)。入院時のCTにて右上葉に粒状影を認めた。しかし、呼吸器症状なく、喀痰の排出もなかったため、術後経過を診ていたが、術後2日目にたまたま痰の喀出あり、抗酸菌の検査(抗酸菌蛍光染色)にてガフキー2号相当の抗酸菌を認めたため、急遽、陰圧室に隔離して、抗酸菌PCR検査を施行した。その結果、結核菌のPCRは陰性で、非結核性抗酸菌(M.intracelluare)が陽性と判明した。明らかな結核の既往や暴露はなく、喀痰咳嗽、発熱、盗汗、体重減少などは認めなかった。元々受傷直前まで農業に従事されており健康上の問題は無かった。T-SPOTは判定不能(ESTAT6:0, CFP10: 0,陰性コントロール:379,陽性コントロール:534)で、何らかの炎症の背景がありIFNgammaがベースラインで反応していたことを反映している結果であった。MAC抗体は強陽性であった。今後は外傷の治療経過が落ち着き、薬剤感受性結果が判明した頃に治療を開始する予定である。

    ポイント:肺結核なのか、非結核性抗酸菌症なのかは院内感染の観点でも判断が非常に難しい。

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    ● H26年12月

    76歳、男性
    感染性腹部大動脈瘤、A群溶連菌性敗血症、脳梗塞後遺症

    経過:高熱で近医総合病院に精査加療で入院となった。入院時の腹部CTにて45mmの腹部大動脈瘤の指摘があった。当初はMEPMで加療開始となり、入院時の血液培養で後にA群溶連菌が陽性と後に判明したため、ABPC+CLDMに変更され加療継続されていたが、フォローのCTにて(入院後21日目)、腹部大動脈が66mmに増大していたため、外科的適応も考慮され、当院心臓外科に転院搬送となった。転院後の当院の腹部CTにて瘤破裂も認めていたため、緊急手術となった。転院後の血液培養は連続して陰性であった。手術検体の培養も陰性であったが、手術検体(動脈組織など)をすりつぶして、A群溶連菌抗原迅速検査をその懸濁液で行ったところ、陽性であった。抗生剤はABPC+CLDMを選択して術後6週間の予定で開始した。

    ポイント:手術組織の懸濁液で溶連菌抗原陽性であり、培養陰性であったが、起炎菌と溶連菌の可能性が濃厚であった。

    CT画像:腹部大動脈瘤と破裂してその周囲に認める血腫

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    ● H27年1月

    31歳、女性
    右側顎下部膿瘍、頚部蜂窩織炎、右側下顎埋伏8抜歯後

    経過:近医の歯科にて右下8を抜歯後に顎下部が急激に腫脹してきて(近医歯科では経口抗菌剤CAMの処方あり)、と同時に近医総合病院にてLVFX点滴も外来で投与されていたが、開口障害も進行してきたため、抜歯後7日目に当院口腔外科に紹介入院となった。造影CTにて顎下部に膿瘍を認め、口腔外科にて全身麻酔下に切開排膿を施行された。当科には抗菌剤の選択に関してコンサルトがあった。口腔内連鎖球菌や嫌気性菌を経験的にカバーするようにABPC/SBT+CLDMの併用を推奨した。切開排膿の培養からはStreptococcus anginosus,Prevotella denticolaが陽性と判明した。血液培養は陰性であった。術後の経過も良好で術後9日目で点滴治療終了として退院後は外来にて経口抗菌剤(AMPC/CVA)に移行して外来フォローとなった。

    ポイント:早期ドレナージの介入で治療経過良好であった症例。

    CT所見:右側翼突下顎隙膿瘍、右側頚部蜂窩織炎

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    ● H27年2月

    57歳、男性
    急性喉頭蓋炎、A群溶連菌感染症、気道狭窄(緊急気管切開)、縦隔炎、低酸素脳症

    経過;数日前から咽頭痛自覚あり、喘鳴呼吸苦が出現して、近医内科を受診した。初期対応した医師が急性喉頭蓋炎を疑い、耳鼻科緊急対応可能な当院へ緊急搬送となった。搬送後、耳鼻科のファイバー所見では明らかな喉頭蓋炎の所見であった。呼吸困難、気道狭窄を認めたため、緊急気管切開の準備を始めた段階で心停止呼吸停止となり、緊急気管内挿管となってICU入室となった。咽頭スワブの溶連菌迅速抗原キットで陽性となり、また、CTにて縦隔炎まで炎症の波及を認め、重症溶連菌感染症として、まずは初期投与として経験的加療でMEPM+ABPC+CLDMの併用を開始した。後日、血液培養3セットと咽頭培養で化膿性連鎖球菌が検出された。炎症自体はその後徐々に改善を認めたが、当初の低酸素脳症の影響で意識障害は遷延して、最終的には意識障害が後遺症として残り、リハビリ目的で他院へ転院となった。

    ポイント:急性喉頭蓋炎の緊急対応で、処置の対応としては適切であったが、進行がその対応を凌駕して急速であった。

                CT1:喉頭浮腫所見    CT2:縦隔炎(縦隔の液体貯留)

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    ● H27年3月

    57歳、女性
    急性中耳炎、外耳道炎、乳様突起炎

    経過:ADL自立している主婦で、5歳の子供と暮らしている。2週間前に咽頭痛を自覚。その後右耳の痛み、右顔面の腫脹発赤、耳介周囲の発赤が出現して、当院耳鼻科を受診された。中耳炎所見を認め、鼓膜切開には排膿を認めた。抗菌剤に関して当科コンサルトがあった。耳漏の溶連菌迅速抗原陽性。抗菌剤としてはABPC+CLDMを初期治療として推奨した。経過は良好であった。

    ポイント:生来健康の比較的重症の中耳炎。初期対応適切で経過良好であった。

    CT; 右耳介周囲の浮腫所見

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    ● H27年4月

    50歳、男性
    細菌性髄膜炎(肺炎球菌)、侵襲性肺炎球菌感染症、脾臓摘出術後重症感染症(OPSI:Overwhelming Post-Splenectomy Infection)

    経過;5歳時に球状赤血球症に対し脾臓摘出術後(肺炎球菌ワクチン接種なし)。入院1週間ほど前に咽頭違和感、頭痛、悪寒・戦慄出現し、入院4日前に近医受診しAZM投与されたが改善せず。入院当日、血液検査でWBC 21,700/μl, CRP 18.8mg/dlと上昇あり。髄液検査で細胞数 2700/μl(多核球 71%, 単核球 29%)、髄糖 48mg/dl(血糖 130mg/dl)、蛋白 100mg/dlと上昇しており、細菌性髄膜炎が疑われた。CTRX投与開始となったが意識状態の変容有り、入院2日後に当院脳神経内科に転院となった。前医の血液培養から肺炎球菌が陽性と判明し、CTRXに加えてVCMで初期治療を開始した。その後、肺炎球菌はPSSPと判明しCTRX単独で治療継続し軽快退院となった。退院時に肺炎球菌ワクチン(PCV13)を施行した。

    ポイント:H26年2月の症例でも脾臓摘出術後の11年目の肺炎球菌性髄膜炎があったが、本症例は45年経過後のOPSIであった。OPSIリスクは一生涯続き、数時間の経過で急速に進行し死亡することもある疾患であるため、既往歴の聴取及びワクチンによる予防は重要である。日本では保険適応ではないが、ACIP(Advisory Committee for Immunization Practices)では脾臓摘出術後の肺炎球菌ワクチン未接種者には初回はPCV13を投与し、8週以上経過後にPPV23の投与、以後5年毎にPPV23の再投与を推奨している。

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    ● H27年5月

    37歳、女性
    帯状疱疹、Varicella-Zoster Virus(VZV)髄膜炎

    経過;SLEにて当院膠原病内科に通院加療中であった。入院3日前より陰部に皮疹を自覚し、徐々に左大腿内側から臀部にかけて広がる小水疱、紅斑病変となった。入院1日前に近医皮膚科を受診し帯状疱疹の診断となり、バラシクロビルが処方となった。しかし、帰宅後より発熱、頭痛と悪心・嘔吐が出現したため翌日当院入院となった。Kernig’s singやBrudzinski’s signなどの髄膜刺激症状を認め、髄液検査にてWBC 268/μl(単核球 83%, 多核球 18%)、髄液蛋白 205mg/dl, 髄糖 36mg/dl(血糖 124mg/dl)と髄膜炎の所見を認めた。また、帯状疱疹による皮疹は片側性であったが2デルマトームにまたがるような範囲に認め、胸部CTにて左下葉に肺炎像も認められた。免疫抑制状態でもあることから播種性帯状疱疹に準じて空気感染対策を行い、VZVによる髄膜炎を疑いアシクロビル(ACV)による治療を行った。治療開始後、速やかに解熱し頭痛症状も改善し、皮疹も徐々に痂疲化を認めた。髄液PCRでVZVが検出され、10日間のACV投与で治療終了とした。

    ポイント:本症例は免疫抑制患者に発症した帯状疱疹とVZVによる髄膜炎の症例である。本症例では髄膜炎症状の出現前に帯状疱疹の診断が得られていたが、VZVによる髄膜炎は特徴的な皮疹が出現する前に髄膜刺激症状が出現することもあるため、診断時に皮疹がなくともウイルス性髄膜炎の鑑別にあげる必要がある(Clin Infect Dis 2008;47:783-9)。逆に、合併症のない帯状疱疹であっても50%以下の症例で髄液細胞数の上昇を認めるとされ、臨床症状を伴わない髄膜炎は少なからず存在すると思われるが、免疫不全患者に発症した帯状疱疹の場合は髄膜脳炎や播種性帯状疱疹へ進展するリスクがあり注意が必要である(Clin Infect Dis 2007;44:S1-26)。播種性帯状疱疹と診断した場合は空気感染対策が必要となり、院内感染対策上も重要となる。

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    ● H27年6月

    30歳、女性
    Toxic Shock Syndrome(TSS)疑い、創部感染、高血圧

    経過;入院14日前に近医外科にて手術を受け、その後外来follow upとなっていた。入院2日前より発熱、嘔気・嘔吐、倦怠感、食欲低下が出現。入院1日前に前医受診し手術部位の創部感染が疑われ同院入院の上、ABPC/SBT 6g/dayが開始となった。入院時より軽度の全身紅斑を認めていたが、翌日には紅斑は増悪し、急性腎不全も出現したため同日当院救命救急センターへ転院搬送となり、当科コンサルトとなった。来院時血圧は104/63mmHgとショックには至っていなかったが前医での創部培養でGPCが検出されており、経過から創部感染及びTSSを疑った。全身管理と創部の外科的治療に加えて、LZD600mg x2とCTRX 2g x1で加療を開始し、後に培養結果がMRSAと判明したためLZDで加療を継続し改善した。尚、紅斑出現7日目に同部位に落屑を認めた。

    ポイント:本症例はMRSAによるTSSが疑われた症例である。TSSはCDCにより1)38.9度以上の発熱、2)びまん性斑状紅皮症、3)紅斑出現後1~2週目に見られる落屑、4)成人では収縮期血圧90mmHg以下の低血圧、5)多臓器障害のすべてを満たすことと定義されている。可能であれば、血液や髄液培養陰性、レプトスピラ症、麻疹またはロッキー山脈紅斑熱の否定も必要である(2011 Case Definition)。本症例は低血圧を来していないため確定診断には至らないが、その他4項目を満たしておりTSSとして加療し改善した。TSSを疑った場合はCLDMやLZDなどの蛋白合成阻害作用のある薬物の使用がTSST-1といった毒素産生を抑えるため有効と考えられている(Clin Infect Dis. 2006;42:729-30)。

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    ● H27年7月

    80代、女性
    細菌性髄膜炎(Streptococcus constellatus), 海綿静脈洞血栓症

    経過;入院6日前に頭部打撲し頭痛を訴えていた。入院当日は昼頃より具合が悪そうにしていたが、意識状態の変化は認めていなかった。同日16時頃に自宅(暑熱環境)で意識障害にある状態を発見され当院救急外来へ搬送。来院時の腋窩温 39.1度、GCS E3V3M5の意識障害は認めたが、クーリングでJCS1桁まで意識レベル改善したため熱中症が疑われた。しかし、採血でWBC 27700, CRP 25.73と炎症所見を認め、検尿で尿路感染所見を認めたため、尿路感染の合併を疑われたが、入院翌日に再び発熱と意識障害を認めたため当科紹介。項部硬直を認めたため髄液穿刺を施行したところWBC 1850(多核球 97%) 髄糖 7と髄膜炎の所見を認めた。細菌性髄膜炎としてCTRX, VCM, ABPCとDexamethazoneでempiric治療を開始したが、後に血液培養及び髄液培養からStreptococcus constellatusが検出された。抗生剤はABPC 12g/dayを継続としたが、発熱、意識障害改善乏しく、day 11に施行した頭部造影MRIでは髄膜炎の所見に加えて、両側眼窩内の上眼静脈の拡張と海綿静脈洞の造影欠損及びDWI high intensityを認めた。抗生剤加療に加えて脳室ドレナージ術なども行われたが、状態改善得られずday 18に死亡退院となった。

    ポイント:本症例はStreptococcus constellatusによる髄膜炎の症例である。50歳以上の成人における細菌性髄膜炎の起炎菌として肺炎球菌以外の連鎖球菌が起炎菌となることはまれである。そのような場合は感染性心内膜炎があったり、本症例のようにStreptococcus anginosus groupの場合は脳膿瘍があったりするため、基礎疾患の検索が重要である(Clin Infect Dis. 1999;28:1104-8)。本症例では脳膿瘍はなかったが、retrospectiveにみると来院時の頭部CTで眼窩内に上眼静脈の拡張が確認でき、経時的な増大傾向を認めたことから何らかの原因で化膿性海綿静脈洞血栓症を形成し、2次性に細菌性髄膜炎を発症したものと思われた(Lancet 2014;384:928)。

    初診時CT 造影MRI(BRAVO) 入院後day16 CT

    ● H27年8月

    60代、男性
    肺化膿症(Streptococcus constellatus)

    経過;中咽頭癌に対して当院耳鼻咽喉科にて舌咽頭全摘術を行い永久気管孔を作成した。術後34日目より37度台の微熱が出現。経過を見られていたが改善せず、49日日より38度台となったためLVFXが開始となった。速やかに解熱したが、胸部CTにて右中葉に6cm大の肺化膿症を認めたため術後52日目に当科紹介となった。気管内採痰のグラム染色ではグラム陽性連鎖球菌を多数認めたが、すでに抗生剤が投与されていたためか培養結果はMRSAであった。ABPC/SBTに抗生剤は変更としたが、膿瘍ドレナージ及び局所検体評価目的に気管支鏡を施行し、EBUS-GSのシースを膿瘍内に留置し膿を吸引排液した。吸引した膿の培養からはStreptococcus constellatusが検出され、同菌による肺化膿症と診断し、以後はABPCにて治療継続とした。

    ポイント:本症例はStreptococcus constellatusによる肺化膿症の症例である。本症例は永久気管孔があり、口腔内からの誤嚥は起こらないはずであるが、起炎菌がStereptococcus constellatusであった。本症例をretrospectiveに見直すと術前より右中肺野に2.5cm大の結節影が確認でき、術前に口腔内にいた本菌を誤嚥し、すでに膿瘍形成をしていたものと思われる。先月紹介したStreptococcus constellatusによる髄膜炎の症例とは異なり本症例は緩徐な経過であった。また、肺化膿症に対して気管支鏡のEBUS-GSのシースを用いた経気道的な膿瘍ドレナージはEBUS-GSによる手技の応用として有用であった(Heart, Lung and Circulation 2014;23:e166-7)。

    ドレナージ前 経気道的ドレナージ中 ドレナージ後

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    ● H27年9月

    67歳、女性
    無鉤条虫感染症

    経過;夫婦で複数の海外渡航歴あり。受診3ヶ月前にラオスに2週間行き、現地で生のきゅうり、牛肉(中が赤かった)を食べた。受診前日の夜、パンツに冷たい感覚があり、便にうどんのような形状をした1.5x3.0cm程度の白い固形物が混入していた。近医受診し寄生虫感染が疑われ当科紹介受診した。患者が持参した便には下写真の虫体を認め、虫体を潰しホルマリン・エーテル法で下写真の虫卵も確認した。熱帯医学研究所の寄生虫学分野及び感染研にご協力いただき、形態学的、遺伝子学的に無鉤条虫と診断した。その後、夫も同様の症状あり。プラジカンテル450mg(10mg/kg)をそれぞれに2回分処方。内服翌日、両人ともに腹部の差込み症状と大量の排便あり。大き目の虫体が排泄され、その後虫体の排泄は認めなくなった。

    ポイント:人に寄生するTaenia属条虫としては、豚を中間宿主とする有鉤条虫(Taenia solium)と牛を中間宿主とする無鉤条虫(Taenia saginata)がよく知られている。昨今では無鉤条虫に形態が類似し、豚の肝臓に寄生するアジア条虫(Taenia asiatica)がアジア地域(韓国、中国、フィリピン、台湾、インドネシア、タイ、ベトナム)に分布していることがわかった。日本においては2010年に海外渡航歴のない関東地区在住の15名からこのアジア条虫が検出され、日本にもこの条虫が定着している可能性が示唆された(豚レバーが感染源として疑わしいといわれている)。
    これら3つの条虫は中間宿主の中で卵が孵化し、筋肉や肝臓に寄生した幼虫を加熱不十分な調理物として食することで感染し、2-3ヶ月の潜伏期を経て小腸内で成虫となり、受胎変節が排便時に排出されたり、自力で肛門より這い出す。受胎変節から遊離した虫卵が中間宿主に経口摂取され、感染が連鎖する。
     有鉤条虫はヒトも中間宿主になりうることが知られており、虫卵をヒトが経口摂取すると脳など中枢神経系に嚢虫が寄生して、重篤な嚢虫症を引き起こす。無鉤条虫とアジア条虫はヒトが虫卵を経口摂取しても嚢虫症を起こすことはない。
    治療はいずれの条虫においてもプラジカンテル(商品名 ピルトリシド)あるいはガストログラフィンによる駆虫が有効である(山崎浩 et al., Infectious Agents Surveillance Reports, 2011;(32):106-71)

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    ● H27年10月

    36歳、女性
    Parvovirus感染症

    経過;胞状奇胎に対して2泊3日で子宮内容除去術を施行し一旦退院。術後7日目に再手術目的で入院した際に38.9℃の発熱を認めた。軽度の腰痛と腹痛および内診にて子宮領域の圧痛を認めたことから子宮内感染が疑われFMOX 1gx2が開始となった。しかし、WBC 2200(neut 1280), CRP 0.22と白血球はむしろ低下し、炎症反応の上昇も乏しかった。治療開始後も38度の発熱が持続し、子宮内感染としては非典型的であるため、入院3日目に当科コンサルトとなった。診察時、本人の全身状態は比較的良好で、発熱以外の症状は改善しており、診察上は下腹部の軽度の圧痛を認める以外は特記すべき異常はなく、体温 38.3℃、HR 81/分と比較的除脈であったことなどから、薬剤熱やウイルス感染を考えFMOXは中止として経過観察とした。入院5日目にはWBC 1500(neut. 570)まで低下したが解熱し、その後WBCも改善したため入院7日目に退院となった。退院後に関節痛及び四肢の淡い皮疹と腫脹感の自覚があり、発症から14日目にParvovirus B19 IgM抗体を測定したところ陽性となりParvovirus感染症と診断した。

    ポイント:婦人科術後に発症した成人のParvovirus感染症の症例である。Parvovirusは小さな1本鎖DNAウイルスでenvelopeを持たないため、アルコールなどで失活せず、比較的耐熱性もあり、しばしば集団感染が見られる。伝染性紅斑以外にも関節症や骨髄無形成発作など様々な病態を呈することが知られており、好中球減少症を来すこともある(Clin. Microbiol. Rev. 2002;15:485-505)。一般的に潜伏期間は4~14日で感冒様の発熱症状が皮疹などの特徴的な症状を呈する前に認められるため、この時点での診断は接触歴が明らかでなければ難しい(Am Fam Physician. 2007;75:373-6)。本症例はParvovirus感染患者への接触歴は明らかではなく、術後の局所症状を伴う発熱から病歴上はSSIが疑われたが、今年は全国的に例年よりもParvovirus感染が流行しており、長崎市も同様の傾向が見られている(長崎県環境保健研究センターHPより)。疫学情報を加味することは重要である。

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    ● H27年11月

    10代、男性
    Dengue fever

    経過;シンガポールから観光目的に飛行機で来日。飛行機内で発熱、頭痛、筋肉痛の自覚あり。手持ちのアセトアミノフェンを内服し、福岡空港に到着後、当日中に長崎へ。道中、発熱持続し、嘔気・水様性下痢症状も認めたことから同日長崎市内の夜間救急病院を受診。東南アジアからの旅行者で、居住地区にデング熱の流行があったとの情報が得られ、同日当院当科紹介受診となった。来院時、体温 37.1℃(アセトアミノフェン内服3時間後)、HR 68/分、全身状態は良好で、診察所見上は軽度の腹部圧痛を認めるのみで皮疹も認めなかった。迅速診断キットでNS1抗原、IgM、IgG抗体検査(Dengue NS1 Ag + Ab Combo - Standard Diagnostics, Inc.)を施行したが陰性であり、ウイルス性胃腸炎の診断で整腸剤を処方し帰宅。しかし、同日の全血を保健所に提出したところ、PCR検査からDengue virus type 2が検出されDengue feverと診断した。患者はその後、重症化することなく経過し、観光を満喫し終えてシンガポールに帰国した。

    ポイント:発症当日の検査でNS1抗原とIgM、IgG抗体が陰性であったDengue feverの症例である。平成27年6月1日よりDengue feverの検査としてデングウイルス抗原(NS1)定性検査が保険収載となった。施設要件があるため算定可能な施設の制限はあるものの、診断キットが保険適応となったことは大きな進歩である。今回使用したキットは保険収載されたものとは異なるが、本症例のように超急性期はNS1抗原が陰性となる可能性も考慮し、PCRや抗体検査などの各検査の適切な施行時期も知っておく必要がある。また、今回も10月の症例と同様、身体所見や検査所見だけではなく、疫学情報が診断に重要であった。

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    ● H27年12月

    10代、男性
    化膿性恥骨結合炎

    経過;野球部部員。就寝中に右股関節痛を自覚。歩くのがやっとなほどの痛みで、起床後に38度台の発熱を認め当院整形外科を紹介受診。診察上、恥骨結合部~右内鼠径輪付近の圧痛を認め、WBC 10900, CRP 5.04と炎症反応の上昇もあり精査入院となった。CTでは同部位の明らかな異常は認めなかったが、MRIにて恥骨結合を中心に恥骨骨髄や右恥骨筋、外閉鎖筋にSTIRやT2WIで高信号を認め恥骨結合炎と診断した。入院時に提出していた血液培養からday2にGPCが陽性となり当科コンサルト。CEZで治療開始し、後日、黄色ブドウ球菌(MSSA)と同定され、化膿性恥骨結合炎と診断した。血液培養は治療開始後、速やかに陰性化したが、発熱は1週間ほど遷延した。その後、徐々に解熱し、疼痛も改善した。

    ポイント:化膿性恥骨結合炎はまれな疾患であるが、女性の尿失禁手術後やスポーツ選手に認められることがある。化膿性恥骨結合炎の起炎菌は原因により様々だが、スポーツ選手の場合は約9割が黄色ブドウ球菌とされる。単純レントゲン、CTでは初期には異常が検出されないためMRIが有用である。同様の症状を呈するものとして恥骨骨炎、恥骨骨髄炎があり、恥骨骨炎はサッカー選手など足を振ることの多いスポーツ選手によくみられる非感染性の炎症性疾患で鑑別が難しい。発熱した時に重要なのはやはり血液培養 2セットである。
    参考:Ross JJ et al. Medicine (Baltimore). 2003 Sep;82(5):340-5.

    T2WI T2WI

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    ● H28年1月

    40代、男性
    気道熱傷後の侵襲性肺炎球菌感染症

    経過;生来健康で特記すべき基礎疾患はない。火災による熱傷にて当院救急部に救急搬送。熱傷の範囲は5%程度であったが、顔面に大量の煤の付着などあり、気管支鏡でも声門下の煤の付着を認め、気道熱傷の診断で経鼻挿管の上、人工呼吸管理が行われていた。入院day2に39.3℃の発熱を認めたため喀痰培養および血液培養が提出された。Day3に血液培養でグラム陽性球菌が陽性となり当科コンサルト。胸部単純レントゲン上は明らかな肺炎像はなく、黄色ブドウ球菌による菌血症のカバーも考慮してABPC/SBTの開始を推奨した。その後、血液培養から検出されたグラム陽性球菌は肺炎球菌と判明し、喀痰からも同様の肺炎球菌が検出され、侵襲性肺炎球菌感染症と診断した。ABPCに治療を変更して治療継続した。

    ポイント:本症例は気道熱傷を起こした翌日に侵襲性肺炎球菌感染症を発症した。熱傷の患者に対する予防的抗生剤投与は一般的には推奨されておらず、汚染創を有し、熱傷面積20~40 % 以上の患者で、気道熱傷などの条件を満たした場合に考慮してもよいことになっている(熱傷診療ガイドライン 改訂第2版)。熱傷患者における感染症ではKlebsiella pneumoniaePseudomonas aeruginosa, Acinetobacter baumanii, Staphyrococcus aureusなどが重要であり、本症例のようなStreptococcus pneumoniaeの感染は0.54%、侵襲性感染症となると0.16%とまれである(Burn 2010;36:528-532)。また、本症例は肺炎や副鼻腔炎などの明らかな菌の侵入門戸を認めなかった。推定ではあるが熱傷により損傷した気道に経鼻挿管を行ったことで、元々上気道に保菌していた肺炎球菌がバリアー機能を失った上皮より血管内へ侵入したものと思われた。

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    ● H28年2月

    60代、男性
    インフルエンザウイルス感染後の侵襲性肺炎球菌感染症、敗血症性ショック

    経過;関節リウマチで抗ヒトIL-6モノクローナル抗体とmethotrexate投与中であった。同居家族がインフルエンザに罹患後、本人も発熱。近医でのインフルエンザの迅速検査は陰性であったが強くインフルエンザ感染が疑われたためLaninamivirが投与された。しかし、その後も発熱持続するため受診後3日目に近医再診し、胸部レントゲンで両側肺炎を指摘され当院リウマチ膠原病内科へ同日入院となった。入院時、BP 105/63mmHg, HR 103/min, temp 38.0℃, 意識は清明だが、O2 経鼻カニューラでPaO2 55.3Torrと頻呼吸で呼吸不全を伴っていた。同科で施行した血液検査ではWBC 1000, CRP 11.09とWBCはむしろ減少しており、尿中肺炎球菌抗原が陽性で、インフルエンザ後の重症肺炎球菌性肺炎を疑われ同日当科コンサルトとなった。喀痰グラム染色所見も肺炎球菌性肺炎で矛盾せずCTRXでの加療を開始したが、同日中に呼吸不全が急速に悪化し、ICUでの人工呼吸管理が必要となった。翌日には血液培養からグラム陽性球菌が検出され、肺炎球菌と確定後に侵襲性肺炎球菌感染症としてABPCへ変更して加療し全身状態は改善した。

    ポイント:インフルエンザウイルスは感染した気道上皮細胞から出ていくときにノイラミニダーゼで細胞表面のシアル酸が切断されて露出し、そこに細菌が接着しやすくなる。また、上皮機能障害やアポトーシスをおこし、細菌の付着及びclearanceが障害される。さらにウイルス感染後の自然免疫応答障害により感染が拡大するため、肺炎球菌や黄色ブドウ球菌による重症肺炎、侵襲性感染症が起こりやすく注意が必要である(Chertow DS et al. JAMA 2013;309:275-282)。また、近頃、敗血症の定義が見直されたが(Singer M et al. JAMA. 2016;315(8):801-810)、本症例は旧来のSIRSを基にした定義でも敗血症であり、新定義でもSOFAは5点であり、敗血症の診断となった。その後、同日中にショックで昇圧剤開始となりlactate 3.7mmol/Lまで上昇し、敗血症性ショックの状態となった。診断定義が変更されたからと言って患者さんの状態が変わるわけではないのだが、感染症科医としてはSOFA scoreに慣れる必要はあるだろう。
    印象ですが、今年はインフルエンザ後の重症肺炎を含む重症インフルエンザ感染が例年より多い気がしますので、皆さんお気をつけください。

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    ● H28年3月

    60代、男性
    Klebsiella pneumoniae肝膿瘍、眼内炎、肺化膿症

    経過;3~4合/日程度の飲酒歴のある男性。受診8日前より発熱あり。3日前より左目の視力低下を自覚。受診当日、下肢の脱力にて体動困難となり近医受診。脳卒中を疑われ当院脳神経外科へ紹介受診となった。頭部MRIにて小さな急性期梗塞は認められたが、神経学的な所見と一致せず、血液検査にてWBC 12200, CRP 21.49と炎症反応の上昇あり、感染症が疑われ同日当科コンサルト。腹部症状は乏しかったが腹部CTにて9cm台の多房性の肝膿瘍及び肝静脈内の血栓を認めた。眼症状については眼科に紹介し眼内炎と診断された。TAZ/PIPC+CPFXで加療し、眼内炎に対しては硝子体手術及び硝子体内注射が行われた。肝膿瘍に対してはPTADが施行されたがドレナージ効果が乏しく、経過中、肝静脈血栓由来と思われるseptic emboliによる肺化膿症も出現。ソースコントロールのためday 12に肝切除術を行った。その後は経過良好となり、血液培養、ドレナージ液、肝組織いずれの検体からもKlebsiella pneumoniaeが検出され、CTRXに抗生剤は変更し治療継続した。後に肝切除標本から管内胆管癌が検出された。

    ポイント:K.pneumoniaeによる肝膿瘍から眼球、肺等の遠隔部位に感染巣を認めた症例である。1980年代より東南アジアを中心にK.pneumoniae肝膿瘍から多数の遠隔感染巣を呈する同様な症例の報告があり、2002年にこのような経過を示す原因としてK.pneumoniaeのphenotype及びgenotypeの違いによるvirulenceの違いが示された(Emerg Infec Dis 2002; 8: 160-66, Lancet Infect Dis 2012;12:881-87)。本症例は基礎疾患として管内胆管癌が後に判明したため、原発性ではないがK.pneumoniaeによるinvasive liver abscess syndromeの様相を呈し、培養検出されたK.pneumoniaeのphenotypeはstring test陽性でhypermucoviscosityを示すphenotypeであった。肝膿瘍の症例では眼内炎や髄膜炎、肺化膿症などの遠隔感染巣をきたしてないかや基礎疾患の検索も必要である。

    肝膿瘍 Septic emboliによる肺化膿症

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    ● H28年4月

    50代、男性
    脳膿瘍

    経過;受診4日前に構語障害出現。1日前に左手のしびれが出現し近医脳神経外科受診。同院での頭部MRIにて右前頭頭頂葉皮質下白質~深部白質にring enhancementを示す35x20mmの病変を認め当院脳神経外科に紹介入院。入院当日38度の発熱も認め、脳膿瘍が疑われ当科紹介。同日、外科的ドレナージが行われグラム染色で連鎖状のGPCを認め、最終的にStreptococcus intermediusが同定された。当初CTRXで治療開始していたがPCGに変更とした。検索した範囲で右左シャントは認めず、心臓、肺、副鼻腔、中耳などには明らかな感染focusは認めなかったが、口腔内には歯周病を認め、CTにて上下顎骨骨髄炎の所見があり同部位が侵入門戸と考えられたため、歯科へ紹介し、歯科治療も併せて行った。

    ポイント:歯性感染からの脳膿瘍が疑われた症例。歯性感染症は感染性心内膜炎や誤嚥性肺炎、人工呼吸器関連肺炎などとの関連で議論されることが多いが、脳膿瘍含め多彩な感染症の感染源となりうるため、口腔ケアは重要。尚、本症例には未診断の糖尿病もあったが、歯周病と糖尿病の関連も示されており、やはり口腔ケアは重要である。

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    ● H28年5月

    60歳、男性
    気腫性胆嚢炎、敗血症性ショック、DIC

    経過;もともと大動脈解離にてフォローされており、心窩部痛を認め近医受診し大動脈解離再発の可能性を考え造影CTを施行されたが、胆嚢含め明らかな原因は指摘できなかった。入院経過観察となったが、数時間後腹痛の再燃あり、精査のため当院救急搬送となった。
    受診時、高熱と血圧低下、全身チアノーゼ認めた。また、大量輸液するも乏尿の状態、アシドーシス/Lactate上昇認め、敗血症を疑い全身管理目的にICU入院となった。入院後よりフォーカス不明の敗血症性ショックとしてMEPMとVCMが開始となった。
    入院時の血液培養全てからGPR, GNRが検出され、侵入門戸として消化管を疑った。初回CTから24時間後にCT施行したところ胆嚢に気腫性変化認め、気腫性胆嚢炎の診断で同日緊急手術となった。抗生剤は、MEPM、VCMを継続とし、毒素産生抑制目的にCLDMを追加した。その後、血液培養と胆汁からE.coli、血液培養1本からC.perfringensが同定された。

    ポイント:血液培養結果より消化管の感染を疑われ、診断に至った症例である。
    <気腫性胆嚢炎について>
    気腫性胆嚢炎の発症率は男女比 7:3で、糖尿病合併している高齢男性に多く見られる。原因菌としてはClostridium perfringensEscherichia coliKlebsiellasStreptococciなどが挙げられ、Clostridium属が最も一般的に報告されている。
    一般的な急性胆嚢炎と比較して、高率に早期壊疽性変化をきたすため急激に悪化し、穿孔するとより敗血症を起こしやすくなる 1)。
    気腫性胆嚢炎は背景に虚血性変化を伴うことがあり、血管炎や動脈硬化、動脈塞栓などの血管の病理所見を認めうる 2)。本症例も大動脈解離の既往があり、動脈硬化の関与があった可能性がある。

    ・参考文献
    1) SUPREET KHARE, ASWINI K PUJAHARI「A Rare Case of Emphysematous Cholecystitis」Jounal of Clinical Diagnostic Research,2015 Sep,Vol-9(9):PD13-PD14
    2) George Bouras, MRCS, Sorinel Lunca, PhD, Michel Vix, MD, Jacques Marescaux, FRCS 「A Case of Emphysematous Cholecystitis Managed by Laparoscopic Surgery」JSLS(2005)9:478-480

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    ● H28年6月

    60代、男性
    食道穿孔、急性膿胸、縦隔炎

    経過;慢性腎不全のため血液透析中で、アルコール性肝硬変による肝性脳症のため近医入院中であった。転院前日の夜間より呼吸状態の悪化を認め、転院当日の胸部CTにて急速に出現した縦隔気腫、右水気胸を認めた。食道穿孔の疑いで当院転院となり、当科にも感染症コンサルトで紹介となった。救急外来で胸腔ドレーンが挿入されており、胸水グラム染色ではグラム陽性球菌を優位に多数の細菌と好中球に加えて、扁平上皮細胞を認めた。重篤な基礎疾患と全身状態からMEPM、VCM、CPFGでの経験的加療を推奨し、緊急手術が開始された。術中内視鏡で食道胃接合部に薬のPress Through Pack(PTP)包装シートが見つかり、肝性脳症からのPTPの誤飲による食道穿孔が疑われた。

    ポイント:PTPの誤飲による食道穿孔が疑われた急性膿胸・縦隔炎である。559症例の食道穿孔の検討では原因の半数以上の59%は内視鏡などによる医原性食道穿孔だが、特発性(Boerhaave’s syndrome)が15%、異物誤飲が12%、外傷が9%、術中損傷2%、悪性腫瘍によるもの1%と報告されている(Ann Thorac Surg. 2004;77:1475-83)。食道穿孔の診断は臨床症状、CT所見や食道透視造影などの画像所見でなされるが、感染症科医の立場からは胸水のグラム染色で通常みられるはずのない扁平上皮細胞を認めたときは食道穿孔を疑うことができる。臨床医が行う直接検体を用いたグラム染色では、菌体のみに注目するのではなく、背景の細胞からも情報を引き出すことが重要である。

    好中球だけではなく扁平上皮細胞散見。  GPC主体。E.faeciumが同定された。

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    ● H28年7月

    70代、男性
    感染性大動脈瘤 (Listeria monocytogenes)

    経過;8年前より胸腹部大動脈瘤を指摘されておりfollow upを受けていた。1か月ほど前に腹痛・背部痛を認めたが下痢などの消化器症状は認めず。安静で経過を見ていたが発熱を認めるようになりCTにて1か月の経過で動脈瘤の急速な増大を認めたため感染性大動脈瘤が疑われた。発熱以外のVital signは安定していたため血液培養を3日間、計6セット施行したが陰性であった。準緊急で大動脈置換術が行われ、起炎菌不明であったためempiric therapyとしてCTRX+DPTを開始した。術中検体のグラム染色ではGPCもしくはGPRが疑われ、術後5日目に術中組織検体の培養でListeria monocytogenesが同定された。同菌による感染性動脈瘤と診断し、抗菌薬はABPCに変更。もともと腎機能低下もあったためアミノグリコシドの併用は行わなかった。

    ポイント:Listeria monocytogenesはグラム陽性の短桿菌で主に髄膜炎や食中毒の起炎菌として有名である。4℃以下の低温でも増殖可能であり、冷蔵もしくは冷凍保存中の食品でも感染源となる。また、潜伏期が長く感染源を同定することは困難なことが多い。本症例のように感染性動脈瘤の起炎菌となることはまれであるが、セフェム系が無効である本症例の治療で後手に回らないためにはListeria感染症のhigh risk groupである妊婦、高齢者、免疫不全患者からGPRが検出されたら鑑別にあげる必要がある。

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    ● H28年8月

    70代、女性
    壊死性筋膜炎(Vibrio Vulnificus)

    経過;腹水を伴う非代償性肝硬変と肝細胞癌で通院加療を受けていた。受診前日の昼までは特に体調は変わりなかったが夕方ごろより右下腿の痛みと嘔気・嘔吐が出現。症状改善しないため翌日当院受診。来院時は右下腿の発赤・腫脹は認めるが水疱は認めず、範囲も下腿前面に限局していた。蜂窩織炎として抗生剤治療が開始となったが、入院後数時間でショックバイタルとなり、下腿腫脹増悪と紫斑の出現を認め壊死性筋膜炎疑いで当科コンサルト。試験切開で筋膜の壊死を認め、同部位から採取したグラム染色でグラム陰性短桿菌を認めた。CTRXとMINOを開始したが、外科的治療については十分なICのもと患者より拒否があった。後日、局所検体及び血液培養からVibrio vulnificusが検出され、治療開始数日後に永眠された。

    ポイント:非代償性肝硬変の患者に発症したVibrio vulnificusによる壊死性筋膜炎の症例である。病歴上、直接的な海水への暴露は認めなかったが、数日内に刺身の摂食があり感染源として疑われた。Vibrio vulnificusに対して感受性のある抗生剤は多数あるが、第3世代cephalosporinとtetracyclineの併用はsynergy効果があるとされている(Antimicrob. Chemother. 2012;67:488-493)。また、肝硬変患者の免疫不全はcirrhosis-associated immune dysfunction syndromeと呼ばれ、肝硬変の状態によりdynamicにpro-inflammatory phenotypeとimmunodeficient phenotypeに変動するとされている。腹水を伴うような非代償期では門脈体循環シャント、Kupffer細胞の機能低下などによる細網内皮系の破綻で菌血症を起こしやすくなり、補体の生成低下などによるオプソニン効果の低下に加えて好中球、単球の貪食能の低下などにより細菌感染が重症化しやすい(J Hepatol. 2014;61:1385-96)。患者教育による予防が重要と思われる。

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    ● H28年9月

    60代、男性
    重症デング熱

    経過;入院13日前に約1週間のインド旅行から帰国。入院4日前より37度台の発熱出現。同日近医受診しLVFXの投与を受けたが、嘔吐が出現し、翌日には38~39度台の発熱となった。発熱持続、倦怠感、食欲不振のため同院再診し、渡航後の発熱であることから輸入感染症を疑われ当院紹介となった。来院時体温 37.1℃、HR 84./min, BP 106/54mmHgで皮疹は認めなかったが、口腔粘膜出血を認めた。主要な血液検査結果はWBC2700/μl, Hct 42.0%, Plt 3.6万/μl, CRP 0.76mg/dl, AST 170U/L, ALT 84U/Lであった。蚊に刺された自覚もあり、マラリア、デング熱、腸チフスなど鑑別に挙がり同日入院となった。後日、保健所に提出した血液のPCRでDengue virusが検出された。当初よりWaring signを伴っており慎重な輸液管理で対症療法を継続した。入院後day6(発症後day 10)にはAST 1170U/l, ALT 960U/lと著名な肝機能異常を来し、重症デング熱と診断したが、その後は軽快に転じ、対症療法のみで自然改善した。尚、重度の肝機能障害に関しては、血球が回復傾向にも関わらず、肝機能障害だけ悪化傾向にあったため、解熱のためのアセトアミノフェンの内服も影響していたものと考えられた。アセトアミノフェン中止後に肝機能障害は改善傾向となった。

    ポイント:2009年にWHOよりデング熱に対するガイドラインが発行され、これまでデング出血熱やデングショック症候群と呼ばれていた病態は重症デング熱と分類することが提唱された。特にwarning sing(腹痛や繰り返す嘔吐、体液貯留、粘膜出血、不穏、肝腫大、Plt減少を伴うHct上昇)を伴う場合は重症デング熱に移行しやすく注意が必要である(WHO 2009: pp1-160)。また近年、国内でのデング熱の流行やジカ熱の世界的流行など蚊媒介感染症が問題となっているが、日本国内でも高濃度のDEETやイカリジンが忌避剤として使用できるようになりつつあり、流行地へ出かける際の予防教育が啓発であろう。

    口腔粘膜出血

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    ● H28年10月

    70代、女性
    ペースメーカー感染

    経過;洞不全症候群に対し8年前よりペースメーカー留置しており受診1週間前に他院でペースメーカーの電池交換が行われた。受診2日前より創部痛出現。受診当日は39度の発熱及び創部の発赤、腫脹、熱感がありペースメーカー感染疑われ当院循環器内科に入院となり当科コンサルトとなった。創部は血種及び膿の貯留が見られグラム染色で多数のブドウ球菌を認めた。菌血症も疑われたためセファゾリンとバンコマイシンを併用としたが、血液培養は陰性で、創部の培養結果からMRSAと判明し、バンコマイシンで治療継続及びペースメーカーの除去を行うため転院となった。

    ポイント:ペースメーカー感染はひとたびdeviceへの感染が確立すればペースメーカー自体を除去しなければ再燃率が高いため、基本的には除去が必要である(Baddour LM et al. Circulation 2010;121:458-77)。しかし、長年留置したペースメーカーは抜去それ自体にリスクがあり、行える施設も限られている。発症してしまうと大変であるため、近年、完全埋め込み式のペースメーカーの開発やミノマイシンとリファンピシンを放出する生体吸収性の線維で作ったメッシュに包んで埋め込むなどの技術が開発されてきている(Kondo Y et al. J Arrhythm 2016;32:297-302)。

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    ● H28年11月

    60代、男性
    侵襲性肺炎球菌感染症、感染性心内膜炎疑い

    経過:受診数か月前にPPSV23の接種を受けていた、特記すべき基礎疾患のない方。当院受診5日前に発熱し近医へ入院。敗血症疑いでTAZ/PIPCが開始となったが、入院後に急性発症の大動脈弁逆流症によるうっ血性心不全を発症。入院時の血液培養からは肺炎球菌が検出され当院へ転院となり当科コンサルトとなった。心エコーでは疣贅は明らかではなかったが、診察上、著名な拡張性雑音とsplinter hemorrhageを認め、臨床経過からも肺炎球菌による感染性心内膜炎が疑われ同日緊急の大動脈弁置換術が行われた。抗生剤はCTRXで開始したが後にPSSP(セロタイプ3)と判明し、PCGへdeescalationを行い継続した。病理所見では明らかな疣贅は認めなかった。

    ポイント:感染性心内膜炎が疑われた侵襲性肺炎球菌感染症の症例である。本症例は感染性心内膜炎の大基準1つ(新たに発症した逆流症)と小基準2つ(発熱、血液培養陽性)しか満たさず疑いにとどまる(Circulation 2015;132:1435-86)。近年の報告では、感染性心内膜炎の起炎菌としての肺炎球菌の割合は約1%とまれであり、半数ほどは肺炎を伴い、髄膜炎も併発するとAustrian症候群と呼ばれる。発症様式としては急性発症で、本症例で診られたsplinter hemorrhageなどのvascular phenomenaを認めることはまれで、黄色ブドウ球菌による感染性心内膜炎の如く基礎となる心疾患がなくても発症する(Medicine 2015;94:e1562)。肺炎球菌ワクチンによる予防が期待されるが、本症例は残念ながらワクチンの効果が得られなかった一例であった。

    本症例で診られたSplinter hemorrhage。感染性心内膜炎以外でも見られる
    非特異的な所見のため本症例での因果関係は不明。

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    ● H28年12月

    70代、女性
    ガス産生性肝膿瘍、Clostridium perfringens 菌血症

    経過;糖尿病で加療中の患者。入院1日前に発熱あり、腹痛を伴い翌日早朝に前医緊急入院。肝膿瘍及び敗血症疑いで抗生剤治療開始となったが同日中に急速に全身状態悪化し、高度の溶血性貧血の出現及び血液培養よりグラム陽性桿菌が検出されClostridum perfringens による敗血症疑いで当院転院となった。腹部CTでは肝門部近傍にガス像を伴う肝膿瘍を認め、外科的切除も検討されたが全身状態と侵襲度の高さから適応とならずCTガイド下ドレナージを施行した。抗生剤はTAZ/PIPC+CLDMで加療開始し、ICUで集学的治療を行った。C.perfringens による菌血症はコントロールできたが高度の溶血性貧血に対し大量の輸血を必要とした。一時的に小康状態とはなったものの、多臓器不全からの改善は得られなかった。

    ポイント:Clostridium perfringens による菌血症は重篤な溶血性貧血を伴い致死率は80%に及ぶ(Neth J Med 2010;68:343-6)。救命のためには外科的なソースコントロールと適切な抗生剤治療が必要だが、本症例のように外科的切除が適応とならなかった肝膿瘍に対して持続灌流ドレナージが有効であったとする報告もある(日消誌 2014;111:1416-23)。抗生剤は大量のペニシリン系抗生剤に加えて溶血性貧血を引き起こすα toxin産生を抑制する目的でCLDMやMNZの併用が行われる。

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    ● H29年1月

    80代、男性
    起炎菌不明脳膿瘍

    経過;軽度腎機能障害とペースメーカーの埋め込み後、歯周病で歯科通院中の患者。入院5日前より動作緩慢となり、2日前に右上下肢痙攣出現し前医入院。右半身麻痺及び左前頭葉に多房性のring enhancementを認める占拠性病変を指摘された。脳膿瘍を疑われ当院脳神経外科転院となり、当科コンサルトとなった。侵入門戸として歯周病やPM埋め込み後であることから感染性心内膜炎からの脳膿瘍も想定しCTRX+TEICで治療を開始した。抗生剤により症状改善傾向となり、膿瘍化がすすみサイズが45mm程となり、day11に外科的ドレナージが行われた。しかし、グラム染色、培養とも陰性で起炎菌は同定できなかった。血液培養陰性、TEEでも疣贅認めず、感染性心内膜炎は否定的であった。歯周病からの起炎菌を想定し、MRSAカバーは不要と考え高容量のCTRXのみで治療継続の方針とした。

    ポイント:起炎菌不明の脳膿瘍の1例である。脳膿瘍は近接感染臓器からの波及や血行性感染などの発症様式の違いにより推定される起炎菌も異なるため、選択される経験的治療も異なるが、治療期間が6~8週と長期に及ぶため起炎菌同定は重要である。一方で、抗菌剤治療開始の遅れは予後不良に関連するため診断したらすぐに抗菌薬使用が推奨される(Brouwer MC NEJM 2014;371:447-56)。抗生剤治療開始からドレナージまでに時間を要すると本症例のように、局所検体の培養及びグラム染色から起炎菌の情報が得られない。感染症科として早期ドレナージの適応になければ、起炎菌決定のための穿刺吸引や16SrRNAなどの検査を積極的に行うべきだったかもしれない(Brook I J Clin Neurosci 2017 in press)。

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    ● H29年2月

    60代、女性
    抗菌薬関連脳症

    経過;血液透析中の患者。入院6日前より歯痛、右頬部腫脹が出現し、歯性感染症、上顎洞炎、頬部蜂窩織炎の診断で外来でCTRX 2g x1が開始となった。局所切開ドレナージなども行われ炎症反応も順調に改善傾向にあったが、全身倦怠感を訴えていた。入院1日前に自宅で意識障害が出現している所を発見され、前医緊急入院。髄膜炎疑われ当院へ搬送となった。神経内科の診察では意識障害及び下肢の痙攣を認めたが、髄膜刺激症状、麻痺、巣症状認めず、頭部MRI検査、髄液検査などでも異状は認めなかった。経過からCTRXによる抗菌薬関連脳症が疑われ、抗菌剤選択について当科コンサルトとなった。Cephalosporin系、Penicillin系ともに避けた方がよいと考えCLDMでの加療を推奨した。CTRX中止後2日目には症状改善した。

    ポイント:腎不全患者に発症したCTRXによる抗菌薬関連脳症と考えられた症例である。抗菌薬関連脳症は過小評価されていると考えられている疾患で、Metronidazoleによるものが有名だがPenicillin, Cephalosporin, Macrolide, Quinolone, Isoniazidなど様々な抗菌薬で発症する。症状は様々だが、Penicillin, Cephalosporin系はGABAA受容体に結合することで、痙攣やミオクローヌスなどを起こすと考えられている。中でもCephalosporin系は腎不全を基礎疾患とする場合が多い(Neurology 2016;86:963-71)。今回は腎機能に応じた容量調整が必要ないとされるCTRXではあったが、患者は小柄であり、体格なども含めて検討する必要があったかもしれない。抗菌薬の副作用対策も含めたfollow upが重要であった。

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    ● H29年3月

    60代、男性
    誤嚥性肺炎(Raoultella ornithinolytica 肺炎疑い)

    経過;精神疾患で入院加療中であったが嚥下障害が認められ、誤嚥性肺炎としてABPC/SBTで加療歴あり。入院day 50に再度発熱、炎症反応上昇及び胸部レントゲンで肺炎像の出現を認め、誤嚥性肺炎再発としてABPC/SBTが再開となった。一旦解熱傾向となったがday 53に再び発熱し、抗生剤投与開始前のGeckler分類2の喀痰培養からRaoultella ornithinolytica が培養同定されていた。再度取り直したGeckler分類5の喀痰のグラム染色でも同菌と思われる多数のグラム陰性桿菌を認めた。同菌はABPC/SBTには耐性を示しており、CTRXに変更し加療を行った。

    ポイント:誤嚥性肺炎の起炎菌の一つとしてRaoultella ornithinolytica の関与が疑われた症例である。Raoultella ornithinolytica は腸内細菌科細菌に属し、以前はKlebsiella ornithinolyticaと呼ばれていたが、遺伝子学的に2001年から同菌名に再分類された(日本臨床微生物学雑誌 2016;26:58-62)。同菌はサバ科の魚類を摂取することによって起こるヒスタミン中毒の原因となるヒスタミン産生菌の一つとして知られているが、尿道カテーテルなどの人工物にbiofilmを形成し、院内感染の起炎菌としても注目されている(Int J Infect Dis. 2016;45:65-71)。病原性は強くはないが、アミノペニシリンには自然耐性で、他の腸内細菌科細菌と同様にESBLやAmpC beta lactamase, carbapenemase産生などによる耐性化も報告されている(Folia Microbiol (Praha). 2017 Epub ahead of print)。

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    ● H29年4月

    50代、女性
    術後創部感染 (Mycobacterium wolinskyi)

    経過;婦人科疾患に対して腹腔鏡下手術を行った約2か月後に、腹腔鏡を挿入したポート部に一致して皮下に硬結が出現した。当初は血腫と考えられたが局所の発赤・疼痛出現あり、血腫感染疑いでLVFXやCTRXなど投与を受けた。しかし、臨床的な改善認めず当科コンサルトとなった。一般的な抗菌薬に反応見られず、感染もはっきりしない臨床症状であったため、抗菌薬は中止としたが、徐々に悪化傾向を認めた。術後4か月目に切開を行ったところ排膿を認め、一般細菌培養は陰性であったが、抗酸菌培養にてMycobacterium wolinskyi が同定された。同菌による創部感染と診断し、AMK、MFLX、MINOによる治療を開始した。

    ポイント:Mycobacterium wolinskyiによる創部感染の症例である。同菌は元々Mycobacterium smegmatis(恥垢菌)と呼ばれていたが、薬剤感受性や遺伝子学的相違から1999年にBrownらによりM.smegmatis sensu stricto, M.goodii, M.wolinskyi に細分類された迅速発育菌である(Int J Syst Bacteriol 1999; 49: 1493-1511)。本症例のように術後の創部感染や外傷部位の軟部組織感染・骨髄炎を起こすことが多く、特別な免疫不全がなくても感染しうる。標準的な治療法は確立していないが、過去の報告では適切なdebridementに加えて、ニューキノロン系+テトラサイクリン系抗生剤にAMKを1か月併用することが多いようである(Diag Micro Infect Dis 2011; 71: 421-27)。術後の創部感染の起炎菌としてNTMも忘れてはならない。

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    ● H29年5月

    60代、男性
    カンジダ眼内炎

    経過;糖尿病と肝硬変で加療中に尿路感染症を発症し前医入院。ABPC/SBTやCTMで症状改善したが、入院中に視力障害が出現し当院眼科紹介受診したところ、真菌性眼内炎を疑われ当科コンサルトとなった。全身状態は比較的良好ではあったが真菌血症に伴う眼内炎を疑い、血液培養3セット採取後にFLCZを開始した。後日、血液培養1セットと眼内検体よりC.albicansが同定された。

    ポイント:C.albicansによる真菌性眼内炎の症例である。本症例ではカンジダ血症発見前に眼内炎が見つかったが、一般にはカンジダ血症が先に診断される。カンジダ血症は眼内炎のリスクとなるためRCTで有効性が証明されているわけではないが、見逃したときの影響の大きさを鑑みて、眼症状がなくても好中球減少のない患者は1週間以内に、好中球減少のある患者は好中球回復後1週間以内に眼科医へのコンサルトが必要である(Clin Infect Dis 2016;62:e1-50)。カンジダ血症の侵入門戸として、肝硬変患者では消化管からのカンジダ血症も考えられるかもしれないが、肝硬変患者と真菌感染の関連は低いとされている(Int J Infect Dis 2014;23:69-74)。前医入院時の尿培養でC.albicans が検出されていることより尿路から侵入した可能性はあるが不明である。

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    ● H29年6月

    70代、男性
    頸部ガス壊疽

    経過;右上顎歯肉癌に対し手術療法、放射線治療を施行後の患者。右下顎の歯根膜炎に対する加療を行っていたが、入院4日前より右頬部腫脹出現、1日前に右下顎部皮膚の小さな黒色変化を自覚し、急速に拡大するため当院口腔外科受診。来院時、意識は清明であったが血圧 65/44mmHg、脈拍90/分, 体温 36.8度, 呼吸数 20/分でショックバイタルであり、敗血症性ショック疑われ、当科コンサルトとなった。右頚部皮膚は10cm四方の黒色壊死を認め、嫌気臭を伴っていた。頚部CTにて壊死組織の部位に一致してガス像を認めており、ガス壊疽と診断した。緊急手術で壊死組織の除去を行い、TAZ/PIPC+CLDMで加療開始し、ICU管理となった。後日培養からはS.constellatus, Prevotella buccae, S.aureus が検出された。

    ポイント:頸部に生じた非クロストリジウム性のガス壊疽の症例である。ガス壊疽を含む頸部の壊死性筋膜炎の原因としては歯性感染由来が78%, 咽頭由来が16%, 外科手術や外傷由来が6%を占め、治療は外科的デブリードマン・ドレナージと嫌気性菌及びグラム陰性菌にも感受性のある広域抗菌薬投与を行う(Clin Infect Dis 1995;21:51-6)。高圧酸素療法も治療オプションにはなり得るが十分なevidenceはない(Infect Dis(Lond) 2017;23:1-7)。

      右頬部の軟部組織にガス像を認める

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    ● H29年7月

    50代、女性
    肺クリプトコッカス症

    経過:脊椎関節炎に対して6か月前より抗TNFα阻害薬の投与を受けていた。入院2週間前より喀痰、労作時呼吸困難感が出現し外来で抗菌薬治療(CAM, CTRX, LVFX)を受けていたが症状増悪し、胸部レントゲンにて右下肺野肺炎像を認め当科紹介となった。胸部CTでは右下葉にconsolidationとすりガラス影が認められた。抗菌薬不応の肺炎として気管支鏡検査を施行したところ、BALFは陰性であったが、組織培養でCryptococcus neoformansが検出された。髄膜炎を否定し、FLCZで治療を開始した。

    ポイント:抗TNFα阻害薬投与中の患者の肺クリプトコッカス症である。非HIV患者の肺クリプトコッカス症は一般的には末梢肺野の結節影・腫瘤影となることが多いが、基礎疾患を有する症例ではconsolidationを呈することもあり、consolidationを呈する症例ではクリプトコッカス抗原は高値を示すことが多い(J Infect Chemother 2015;21:23-30)。本症例ではクリプトコッカス抗原は陰性で、陰影の性状からも当初は強く疑っていなかったが、組織培養にて診断がついた。

    Consolidationとすりガラス影が主体の陰影。
    免疫状態により非特異的な陰影を呈することもある。

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    ● H29年8月

    70代、女性
    感染性心内膜炎、脳出血

    経過;僧帽弁置換術(機械弁)の既往のある患者。肺炎の診断でセフェム系抗生剤投与開始2日後に意識レベル低下、麻痺が出現し、頭部CTにて皮質下出血を認め当院搬送。同日、緊急開頭血種除去術が行われた。術後発熱が持続し、血液培養から持続的にMRSAが検出されたため当科紹介。診察所見上、peripheral signが認められ感染性心内膜炎が強く疑われた。TTEで僧帽弁に7mm大の疣贅が確認され、MRSAによる人工弁感染性心内膜炎の診断でVCM+GM+RFPで治療開始し、心臓血管外科へコンサルトとなった。

    ポイント:脳出血の合併症を伴うMRSAによる人工弁感染性心内膜炎の症例であり、peripheral signが早期診断に結び付いた。脳出血を伴う感染性心内膜炎に対する手術のタイミングはcontroversialであるが、欧米のガイドラインでは4週間以上延期することを推奨している(Circulation 2015;132, 1435-86, Eur Heart J 2015;36:3075-123)。日本で行われたretrospective studyでも7日以内の早期の手術は院内死亡率が高くなる傾向があり (Eur J Cardiothorac Surg 2016;50:374-82)、本症例も内科的治療を行っている。しかし、経過次第では時機を見て再検討必要であり、心臓血管外科、循環器内科、脳神経外科、感染症内科のコミュニケーションが重要であろう。

        眼瞼結膜点状出血  指先だが無痛性でありJaneway病変?

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    ● H29年9月

    60代、男性
    Vibrio parahaemolyticus 肺炎疑い

    経過;漁の最中に巻き上げ網に巻き込まれ顔面などを受傷し当院救急外来救急搬送となった。海水誤嚥の訴えはない。来院後に外傷に伴う上気道閉塞疑われ、挿管人工呼吸管理となった。翌日に発熱が出現し喀痰グラム染色を施行したところ極多数のGNRが単独で認められた。胸部レントゲンでも右下肺野に肺炎像が出現しており、誤嚥性肺炎としてABPC/SBTが開始となったが、喀痰培養から5 x 107 CFU/mlのVibrio parahaemolyticus のみが培養同定され、当科紹介となった。同菌に対してCPFXの追加を推奨した。尚、経過中、嘔吐や下痢は見られなかった。

    ポイント:Vibrio parahaemolyticus は1950年に大阪で起こったシラス食中毒事件で藤野恒三郎により発見された食中毒の起炎菌である(Biocontrol Sci. 2011;16:129-37)。ほとんどが胃腸炎として発症し、まれに創部感染や菌血症の起炎菌にもなるが(Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 8th ed)、肺炎の起炎菌としての報告はYuらの1例のみである(Ann Intern Med. 1984;100:320)。胃腸炎では通常抗生剤加療は必要ないが、投与する際はDoxycyclineやQuinoloneが推奨されている。本症例は海水との暴露があり、喀痰グラム染色所見と培養結果から同菌による肺炎を疑ったが、報告が少なく起炎菌と断定するには慎重な判断が必要である。

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