十善会カンファレンス

    十善会カンファレンスの紹介

    十善会病院は長崎市の繁華街に位置する二次病院で、年間2000台以上の救急車を受け入れている救急病院です。呼吸器内科医、一般内科医の指導医として当科の医師が3人所属しており、例年医局から4、5年目の若手が修行のために派遣されています。内科救急は全て断らずに引き受ける方針であることから、呼吸器、感染症に限らず内科全般の様々な疾患を経験することができ、generalist養成の貴重な場となっています。

    そんな野戦病院で経験された比較的まれな症例や興味深い症例を、当科で月1回行っている「十善会カンファレンス」で症例報告の形で発表してもらっています。病歴、身体所見、検査所見を一つ一つ詳細に、ファシリテーターが研修医に質問しながら吟味して鑑別疾患をみんなで検討することで、学生や若手医師の臨床力の向上を目指すとともに、経験豊富で百戦錬磨の十善会のドクターをも悩ますような症例の経過をリアルに追体験することで、若手のみならず指導医にとっても貴重な学びの機会となっています。

    今月のカンファレンス

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    ● 2012年5月

    症例1 80代女性
    主訴:発熱、頚部痛
    2日前から微熱、倦怠感の出現あり、1日前から39 ℃台の発熱、両肩から後頚部にかけての痛みを自覚するようになり精査加療目的で受診。身体所見では体温39.0 ℃と後頚部痛以外に著変を認めなかった。血液検査ではWBC 10600 /μl (好中球 77.1%)、CRP 11.4 mg/dlと炎症反応の上昇を認めた。頚部MRIではT2強調画像でC3にhigh intensity areaを認めた。血液培養検査にてStreptococcus Pneumoniaeが検出された事から急性化膿性脊椎炎の診断となった。

    症例2 90代男性
    主訴:発熱、頚部痛
    2日前より38℃台の発熱が出現し、誤嚥性肺炎としてABPC/SBT 6g/日で加療されていたが症状の改善をみなかったため紹介受診。身体所見では体温38.8 ℃と頚部痛以外に著変を認めなかった。血液検査ではWBC 12100 /μl、CRP 27.2 mg/dlと炎症反応の上昇を認めた。頚部CTで軸椎歯突起周囲に石灰化を認めた事からCrowned dens syndromeを疑われ、ロキソプロフェンナトリウム投与で経過をみたところ発熱・頚部痛はともに軽快した。


    主訴は同じであったにも関わらず診断は全く異なるものであった。Crowned dens syndromeは1985年にBouvetらにより疾患概念が提唱されている1)が、注目されるようになったのは近年の事である。原因は軸椎歯突起周囲のピロリン酸カルシウム結晶の沈着とされ2)、偽痛風に似る。疫学的には女性に多いとされ、高齢者・女性で頚部痛を訴える患者をみた際は本症も鑑別にいれる必要があると思われる。

    【参考文献】
    1) Acute neck pain due to calcifications surrounding the dontoid process:the crowned dens syndrome., Bouvet JP et al, Arthritis Rheum (1985) 28: 1417-20.
    2) Crowned dens syndrome: a rare cause of acute neck pain., Mitchell et al, Clin Rheumatol (2013) 32: 711-14.

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    ● 2012年6月

    20代男性
    主訴:発熱、頭痛
    病歴:偏頭痛以外には特に基礎疾患の無い若年男性。発熱、頭痛、体動困難感が生じたため同日受診。身体所見では38.3 ℃の体温以外に特記すべき所見を認めなかった。血液検査ではWBC 16600 /μl (好中球 79.8%)、CRP 1.04 mg/dlと炎症反応の上昇を認めた。髄液検査では無色透明の髄液で、細胞数 1.0 /mm3、比重 1.006、蛋白 26.1 mg/dl、糖 56.0 mg/dl(髄液糖/血糖比 0.5)、LDH 17.0 IU/l、Cl 107.4 mEq/lであった。所見は典型的でなかったものの細菌性髄膜炎は否定出来ないとしてCTRX 2g/日で治療を開始したところ、頭痛は軽快し解熱傾向を認めた。血液検査ではWBC 9600 /μl、CRP 2.52 mg/dlとWBCの改善を認めた。ところが第4病日から頭痛が再燃し、これに伴い体温も38 ℃台へ再度上昇した。治療を継続したところ、頭痛・発熱ともに3日で軽快した。第13病日に再々度、頭痛と38 ℃台の発熱を認めたが今度は2日で軽快した。12時間〜3日間続く38 ℃以上の発熱を3回繰り返した事、発熱時に髄膜炎に伴うと考えられる頭痛を呈した事から診断基準を満たすとして、家族性地中海熱と考えられた。

    家族性地中海熱(以下FMF)は、持続期間の短い周期性の発熱と漿膜炎が特徴の常染色体劣性遺伝性疾患である。FMFの責任遺伝子であるMEFVはIL1-βの活性化に抑制的に働くタンパクであるpyrinをコードしているため、この遺伝子変異は自己炎症を誘導するものとされる1)。診断においては家族歴が重要だが2)、本症例での家族歴は明らかではない。日本における推定患者数は約300人とされ、数は少ないものの存在する事から、発熱の鑑別疾患の一つとして挙げられるものと思われる。

    【参考文献】
    1) Clinical aspects of Familial Mediterranean fever., Migita K et al, Jpn J Clin Immunol (2011) 34: 355-60.
    2) Familial Mediterranean fever., Adem Kuck et al, ACTA MEDICA (2014) 57: 97-104.

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    ● 2012年12月

    20代女性
    主訴:発熱
    病歴:1年前に近医で顎下腺腫大と舌小帯の嚢腫を指摘されている以外は基礎疾患のない20代女性。1週間の咽頭痛と発熱を主訴に受診。体温39.1℃、BP 105/66, P 116/min, SpO2 95%(RA)、咽頭の発赤と白苔付着、両頸部リンパ節と右鼠径節腫大あり。血液検査はWBC 2800/µL(Neu 81.8%, Lym 13.9%), Hb 10.4g/dL, Plt 182000/µL, BUN 12.9mg/dL, Cre 0.77mg/dL, Na 137, K 3.3, Cl 101, AST 63 IU/L, ALT 36 IU/L, CRP 0.95mg/dL, ESR 49mm/hr. 尿検査と胸部レントゲンは異常なく、腹部エコーで少量の腹水と肝腫大を認めた。
    自己抗体の検査をしたところ、ANA 1280倍、抗ss-DNA抗体 707 IU/mL, 抗ds-DNA抗体 >400 IU/mLと上昇を認め、SLE疑いで大学病院膠原病内科に転院、SLEの確定診断がつきステロイドが導入された。

    本症例は発熱、咽頭痛、リンパ節腫脹という症状で受診しており、Infectious mononucleosis-like syndromeのカテゴリーで鑑別を考えることができる。感染症ではEBV, CMV, HSV, HIV, Adeno virus, GAS, Toxoplasmosis, Bartonellosis (Cat scratch disease)、TBなど、非感染症では悪性リンパ腫、SLE、サルコイドーシス、薬剤反応(Carbamazepine, Minocycline)などが鑑別に挙がる(1)。また、この他にAOSDや菊池病なども考えられる。本症例の特徴として白血球減少、リンパ球減少、少量の腹水があり、ANAと抗DNA抗体の上昇からSLEが強く疑われた。
    また、SLEによる発熱はCRPの上昇を伴わないことが多いようである(2)

    【参考文献】
    (1) The American Journal of Medicine 2007; 120: 911.e1-e8
    (2) Fever 発熱について我々が語るべき幾つかの事柄, 金原出版, 2015

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    ● 2013年5月

    症例1 70代男性
    主訴:左季肋部痛
    経過:胃癌、腹部大動脈瘤の手術歴のある70代男性。1週間前から感冒様症状と咳嗽、3日前から左季肋部痛があり、増悪したため受診。バイタルは大きな異常なく、身体所見上は左季肋部に約5cm大の弾性硬で圧痛、自発痛のある腫瘤を認める。血液検査は凝固系含め異常所見なし。
    腹部造影CTでは左腹直筋内に辺縁清、iso~low densityのやや不均一に造影される腫瘤性病変を認め、腹直筋血腫と診断。

    症例2 70代男性
    主訴:胸腹部痛
    経過:大腸癌の手術歴のある70代男性。10日前から感冒症状、咳嗽あり、7日前より両側胸腹部に皮下血腫が出現、徐々に疼痛が増強したため近医より紹介。
    腹部単純CTにて辺縁清、isodensityの腫瘤性病変を右腹直筋内に認めた。皮下血腫も伴っており、こちらも腹直筋血腫と診断。


    上記はいずれも特発性腹直筋血腫の症例である。
    腹直筋の栄養血管は腹直筋背側を走行する上腹壁動脈と下腹壁動脈であるが、特発性腹直筋血腫はこれらの血管や筋繊維の非外傷性の破綻によりおこる。中高年、女性の多いとされているが、若年でも筋力トレーニングや軍人などで報告がある。リスクには抗凝固薬、高齢、ステロイド、DM、動脈硬化などがあり、誘因としてはくしゃみ、咳嗽、痙攣、分娩、運動などが報告されている。
    限局して拡大傾向がなければ保存的に診ることができるが、増大傾向や腹腔内穿破、感染、血行動態の破綻などを伴えば手術が必要となる。

    【参考文献】
    日職災医誌 2012; 60: 240-244.

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    ● 2013年6月

    90代女性
    主訴:意識障害
    通常の起床時間を過ぎても起きてこないため、家人が声をかけたところ反応が鈍く、救急要請となった。意識レベルGCS E2V3M4、発熱ないが血圧 174/98mmHgと高値、HR 84/min。SpO2 97%(r/a)。呼吸音、心音は異常所見なし。WBC 3500/μL、Neu 64.7%、CRP 0.04mg/dL、アンモニア 228mg/dLと炎症所見はなかったがアンモニア高値を認め、また尿所見では混濁2+、細菌3+、WBC沈査 10-19/HPF、リン酸NH4Mg血症を認めた。腹部CTでは拡張した右尿管を認めたことから閉塞性尿路感染症に伴う高アンモニア血症による意識障害の診断となった。尿培養では1回目Arcanobacterium pyogenes、2回目GroupC streptococcusとProteus speciesを認めた。治療は尿道カテーテル留置。多量の混濁尿の排出が認められ、翌日の血中アンモニア値は66mg/dLまで改善し意識レベルも改善した。神経因性膀胱による高度の低緊張性膀胱のため尿路感染を起こしたと考えられた。カテーテル抜去後は残尿750mlであったことから、しばらくカテーテル留置を継続する方針となった。
    尿路感染症による高アンモニア血症の機序としては、慢性的な尿貯留と感染に伴うアンモニア産生増加が考えられている。重度の排尿困難により膀胱の過伸展が起き、尿中アンモニアが膀胱静脈叢に吸収される。膀胱静脈叢は内腸骨静脈を経由し下大静脈に流入することで直接体循環へとアンモニアが移行し高アンモニア血症を来す。ウレアーゼ産生菌が増殖している場合にはより高アンモニア血症を起こしやすく、本症例ではProteus属がウレアーゼ産生を担っていた可能性が考えられた。

    ポイント:閉塞性尿路感染であったにも関わらず、腎盂腎炎の典型的な症状は来さず、意識障害を主体とした症状発現であった一例。

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    ● 2013年9月

    30代女性
    主訴:心窩部~上腹部痛
    診察待機中にコーヒー残差様の吐血が1回あり、精査加療目的に入院となった。意識清明、体温36.3℃、血圧120/70mmHg、HR 60/min、SpO2 99%(r/a)。眼瞼貧血所見あり。呼吸音・心雑音なく、腹部は平坦、軟で心窩部に圧痛を認めた。WBC 13200/μL、Neut 86.4%,CRP 0.04mg/dLと左方移動を伴う白血球の上昇を認めたがCRPは上昇していなかった。Hb 8.2 g/dL、MCV 63μm3と小球性貧血を認めたが、血小板低下はなく、その他肝機能・腎機能に異常所見を認めなかった。腹部CTでは虫垂壁肥厚や周囲の脂肪織濃度の有意な上昇は認めなかったが、虫垂内腔に低吸収物質を含んでいる所見を認めた。虫垂炎を疑い、緊急手術となった。病理組織検査の結果では、粘膜下組織片に全周性に脂肪織を伴った結合織の増生がみられ、内腔が狭くなっていた。上皮成分に腫瘍性病変は認められず、最終診断は虫垂粘液腫となった。
    虫垂粘液腫(mucocele)は虫垂内腔に粘液が貯留し嚢腫状に腫大した病態で、発生頻度は虫垂切除例の0.2-0.3%といわれている。成因は虫垂内腔根部での閉塞や虫垂粘膜の粘液産生の持続、虫垂内腔の無菌性の持続などが言われている。20-30%は無症状で経過することがあるが、腸重積やイレウスの原因となることもあるため注意が必要である。治療は粘液瘤を破らずに虫垂間膜を含めて虫垂切除を行うことである。もし粘液瘤が破れて内容液の腹腔内漏出や散布があれば腹膜偽粘液腫を来して予後不良となる。周囲と固く癒着し浸潤が疑われれば回盲部切除や右半結腸切除が必要となる。

    ポイント:典型的な虫垂炎の画像ではなかったが、手術により虫垂粘液嚢腫を診断することができた一例。

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    ● 2013年11月

    症例1 30代男性
    主訴:意識消失
    既往歴:花粉症
    経過:これまでアレルギーの既往なし。1年前から運動中に顔面が腫脹することが数回あった。ジョギングを開始し30分後に顔面腫脹が出現し,その後,眼前暗黒感が出現し数分間意識消失し救急搬送された。到着時には意識回復しバイタルは異常なかったが,アナフィラキシーを疑い特異的IgEを測定したところエビ,カニ,小麦などが陽性であった。ジョギングの20分前にエビグラタンなどを摂取していた。

    症例2 10代男性
    主訴:呼吸困難
    既往歴:小学生の頃まで喘息とアトピー
    経過:体育で運動中に呼吸困難感と皮膚発赤が出現したため受診した。収縮期血圧78mmHg,脈拍 130/分とショックバイタルであり,エピネフリン0.3mg筋注とヒドロコルチゾン100mgの点滴を行い速やかに血圧や症状は改善した。コナヒョウダニ,ハウスダストの特異的IgEは陽性であったが,エビ・カニを含めた食物抗原では陰性であった。運動の約2時間前にエビチリや魚のフライなどを摂取していた。


    食物依存性運動誘発性アナフィラキシー(FDEIA)の2例。FDEIAは特定食物(小麦,エビ,果物が多い)を摂取し2時間以内に運動するなどして生じるため,原因食物の摂取後2時間は運動しないよう説明するなど指導が必要であり,見落とさないよう注意すべき疾患の一つである。

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    ● 2013年12月

    60代男性
    主訴:発熱,腹痛
    既往歴:3回の大腸憩室炎,急性腹症で手術歴あり,高血圧・胆石症にて通院中
    経過:前日に38℃の発熱と腹痛が出現し軽快したが念のため来院。バイタルや身体所見は異常ないが,CRP10mg/dlの炎症反応上昇,胸部単純X線で異常陰影を認め精査目的に入院となった。炎症反応は自然に低下したが腹痛は増悪寛解を繰り返し1週間後には再度腹痛,CRP上昇を認めた。その後再度腹痛・ CRP上昇は自然に改善した。血縁者に家族性地中海熱(FMF)の家族歴がある事が判明し,数日で自然軽快する腹痛を繰り返している既往歴からFMFを疑い遺伝子検査を行ったところ診断に至った。コルヒチンによる治療を開始し腹痛発作は認めなくなった。
    FMFは国内患者数が500名と推定される稀な遺伝性自己炎症性疾患であり,発熱に漿膜炎や滑膜炎が随伴する。本症例のように発熱に随伴した腹痛の増悪寛解を繰り返している症例では本疾患も鑑別に挙げ,家族歴の聴取が必須となる。

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    ● 2014年1月

    70代男性
    腎細胞癌分子標的薬治療中に発症したニューモシスチス肺炎
    経過:1年4か月前に腎細胞癌(RCC,sarcomatous G3 pT3a)に対して右腎摘出術を受けた。4か月前に下肢痛を自覚、3か月前に精査に下部腰椎、左臼蓋、胸椎、両側副腎に転移再発を認め、スニチニブ導入となった。嘔吐が強く治療継続困難となり、2か月前から1か月間放射線治療目的に入院していた。放射線治療後よりテムシロリムス25mg週1回投与開始し、4回目投与後5日経過したところで38℃台の発熱、倦怠感が強くなり、5回目投与予定日に内科紹介、入院となった。入院時は37.9℃の発熱、HR125、RR22、SpO2 95(室内気)で眼瞼結膜貧血所見と下腿に軽度浮腫を認める他には身体所見は特記事項無かった。血液検査ではWBC 3200, Hb 6.1, Plt 9.6万, LDH 689, BUN 25.5, Cr 1.52, Glu 240, HbA1c 6.6, CRP 15.31, 室内気でのABGはpH 7.433, PCO2 31.8, PO2 61.8, HCO3- 20.8, BE -2.4, A-sDO2 48.5であった。画像検査では胸部X線写真、CTにて両側びまん性の淡いすりガラス状陰影を認め、広範囲に地図状に分布していた。びまん性すりガラス状陰影を呈する肺炎の鑑別のため提出していた血液検査ではKL-6 747↑, βDグルカン 174↑, CMV C7-HRP 陰性, カンジダ抗原 陰性, アスペルギルス抗原 陰性, 抗核抗体 40倍の結果でニューモシスチス肺炎(PCP)またはテムシロリムスによる薬剤性間質性肺炎が疑われた。BALを施行したところ、細胞数4.15x10^5/mL(Neut 3%, Ly 52%, AM 45%), CD4/8 0.82, 細胞診Class I, 細菌培養で口腔内常在菌, 抗酸菌塗抹・培養陰性, ニューモシスチスPCR 陽性となり、PCPの診断となった。
    入院直後、テムシロリムスは一時中止とし、mPSL125mg連日投与し解熱していたが、BALの結果から直ちにST 9T3xで治療開始した。経過中に腎機能の悪化と高K血症を認めたため、STをペンタミジン300mg点滴に変更し、最終的にはペンタミジン吸入を短期間継続したが、炎症反応、βDグルカン数値は改善し、退院となった。化学療法は一時中断の後、スニチニブ再開したが副作用のためインターフェロンに変更、その後転移巣増大ありアキシチニブに変更したところ、コントロール良好となった。

    ポイント:テムシロリムス(mTOR阻害剤)による薬剤性間質性肺炎とPCPの鑑別が問題となった。2010/7/23-2103/11/15にテムシロリムスの副作用報告では187例(13例死亡)の間質性肺炎と13例(6例死亡)のPCPが認められていた。本剤治療中の間質性肺炎とPCPには十分な注意を要する。

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    ● 2014年5月

    50代女性
    主訴:インスリノーマ
    経過:受診当日の朝から傾眠傾向が続いたため、救急搬送された。3か月前には、パニック障害を疑われ、精神科に紹介されている(発作性に、「目がギラギラする」)。搬送時の意識レベルは、JCSⅢ-200であった。血液検査で、BS 22と重度の低血糖あり、50%ブドウ糖で治療された。食事を全量摂取して2時間後でさえ、無症状だが低血糖を示した。インスリノーマが疑われたため、腹部CTを施行したところ、膵頭部に1cm大の造影効果のある腫瘤を認めた。確定診断のため、大学に紹介した。

    ポイント:インスリノーマは、パニック障害など精神科疾患を疑われる場合がある。

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    ● 2014年7月

    ADL自立した 特に既往のない 80代男性
    現病歴:受診当日、起床後寒気を感じそのまま寝ていたが、再度起きてトイレに行った際体動困難となり、救急要請となった。家族によると寝ているとき呼吸がおかしかった。呼吸器、消化器症状なし。
    現症/経過:来院時、JCS 10、体温39.3℃, 脈拍110 /分, SpO2 94% (Nasal O2 3L), BP 126/74 mmHg、瞳孔:2.0/2.7(左) 他異常所見なし。血液検査は、来院時WBC 7600/µL (Neu 96%, Lym 3.3%), Hb 13.6g/dL, Plt 153,000/µL, BUN 19.2mg/dL, Cre 0.93mg/dL, Na 135, K 3.19, Cl 102, AST 23 IU/L, ALT 13 IU/L, CRP 1.29mg/dL. インフルエンザはA,B陰性であった。翌日には、白血球、CRPはそれぞれ、24000/µL、20.74まで上昇。胸部X線で明らかな浸潤影なく、尿検査でも異常はなかった。来院時採取した血液培養2セットからStreptococcus pneumoniae が同定され、侵襲性肺炎球菌感染症と診断された。髄液培養は陰性であった。腹部エコーでは、脾臓低形成を認めた。抗生剤開始後、第2病日には解熱し、意識清明となった。

    【侵襲性肺炎球菌感染症 Invasive pneumococcal diseases; IPD】
    CTや各種検査結果から、肺炎、尿路感染症、腹腔内感染症は否定的であり、感染症の原因検索に難渋した症例である。65歳以上のIPD症例は、肺炎に伴う菌血症と肺炎や髄膜炎を伴わない菌血症がそれぞれ約4割程度あり、髄膜炎が2割程度いる。発熱だけがIPDの症状の場合もあるため、全身状態の悪い高齢の発熱患者では、血液培養や髄液培養の施行が大切である。すべての65歳以上の人、19-64歳の機能的解剖的無脾症の人は23価の肺炎球菌ワクチンを推奨される。

    【参考文献】
    中久保 祥、渋江 寧:肺炎球菌感染, KANSEN Journal No.56, Aug 2015
    千葉 菜穂子:わが国における侵襲性肺炎球菌感染症の実態とその予防としての肺炎球菌ワクチン, 日本化療法学会雑誌, Vol.59 No.6, Nov 2011

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    ● 2014年10月

    既往に糖尿病、高血圧、狭心症、脳血管性認知症のある施設入所中の80代女性
    主訴:体動困難、発熱
    現症/経過:受診1週間ほど前に転倒し腰痛を訴えていたが、経過観察となっていた。もともと歩行はできていたが、徐々に体動困難となり、受診当日38℃の発熱が出現したため、来院。来院時身体所見は、JCS 1、体温 37.1℃、脈拍96/分、血圧140/60 mmHg, SpO2 96% (room air)、口部ジスキネジアがある以外は、身体所見に異常なかった。血液検査は、WBC 5800 (Neuto 70.3%), CRP 0.26。 尿グラム染色で、グラム陰性桿菌(2+)と好中球(+)を認めたことから、腸内細菌による尿路感染症の診断で、CTRXによる加療を開始。解熱、尿所見の改善みられたため、抗生剤治療は14日間で終了した。しかし、その後も不随意運動、体動困難は持続した。薬剤性の可能性を考え、ハロペリドール(定型抗精神病薬)、レボメプロマジン マレイン酸塩(定型抗精神病薬)、ブロマゼパム(抗不安薬)、フルボキサミンマレイン酸(SSRI)を中止したところ、不随意運動は徐々に改善した。

    【薬剤性パーキソニズム】
    通常、薬剤性パーキソニズムのおよそ9割は薬剤内服開始3ヶ月以内に発症し、数日、数週の単位で急速に進行することが特徴である。ドパミン受容体遮断作用のある抗精神病薬は、パーキソニズムを出現させる可能性がある。他に、胃腸薬や降圧薬も原因となることがある。大量投与や、高齢者、女性、認知症患者はリスクファクターとなる。鑑別を考える上で、問題になるのはパーキンソン病であるが、パーキンソン病の症状は、急激に悪化することはないため、本症例のように、急激に変化した場合は、全身状態の悪化か薬剤性を疑うべきである。治療は、原因薬剤の中止が原則である。

    【参考文献】
    日本神経学会 パーキンソン病治療ガイドライン2011

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    ● 2014年11月

    40代女性
    既往歴:基礎疾患に気管支喘息があり、膵炎の既往あり
    現病歴は入院の6日前から下痢と腹痛を自覚し、翌日外来を受診となり、整腸剤などを処方されたが症状が持続するため、5日後に精査加療目的にて入院となった。
    身体所見としてバイタル安定、意識清明、腹部に軽度の圧痛あること以外は明らかな異常所見は認めなかった。
    血液検査ではWBC5600/μl, HB 13.8g/dl, Plt 19.7万/μl, CRP 6.95と炎症反応の上昇を認めるのみであった。腹部のMRIでT1WIでは均一な等信号、T2WIで低信号を呈し一部淡い高信号の腫瘤影あり。後腹膜神経原性腫瘍と考えた。精査を予定であるが、CTガイド下生検を行い、診断をつけるためには事前の造影CTで血流の確認が必要だが、喘息やアレルギーで困難であるため、画像にて経過観察の方針となった。

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    ● 2014年12月

    70代女性
    既往歴:基礎疾患に2型糖尿病、骨粗鬆症、不眠症あり
    受診の1か月ほど前から食欲低下があり、精査目的で十善会病院を紹介、入院となった。
    内服薬はシタグリプチン、センノシド、エチゾラム、リセドロン(ボナロン)、マグラックス、ドネペジル、ハロペリドール、エスシタロプラムであった。
    身体所見ではバイタルは安定、明らかな発熱なし。意識は清明で、胸部、腹部に明らかな異常所見は認めなかった。皮膚は湿潤しており、多汗を認めた。口や手指に振戦を認めた。
    血液検査、尿検査では特記すべき異常所見は認めなかった。
    受診の10日前にパロキセチンからエスシタプラムへ変更されたとの病歴があり、身体所見よりセロトニン症候群を疑い、エスシタプラムを中止としたところ、翌日より振戦の改善を認めた。
    セロトニン症候群は抗うつ薬を服用中に脳内セロトニン濃度が過剰となり、錐体外路症状、精神症状、自律神経症状を来す副作用である。1)時に悪性症候群との鑑別が必要になることがある。本症例では悪性症候群では認めないミオクローヌスを認めたことが診断の一助となった。

    【参考文献】
    厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル

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    ● 2015年1月

    30代男性
    主訴:Helicobacter cinaedi感染症、左膝整復骨接合術後
    経過:めまい発作でコンクリートの川底に転落、前額部と左膝に受傷した。左膝蓋骨粉砕骨折と診断された。第11病日に骨接合術を施行、経過順調であったが、第16病日に39.6℃の高熱と左大腿内側〜後面の発赤が出現した。WBC 19,900、CRP 14.21と炎症所見を認めた。膝関節に腫脹なく、穿刺にても関節の感染は否定的であった。血液培養を施行、2セットとも陽性となるが、肉眼で確認できず、当初偽陽性と判断した。しかし、第19病日提出の血液培養も2セットのうち1セットが陽性であった。血液寒天培地、チョコレート培地に半透明のフィルム状コロニーの生育を認め、グラム染色でらせん状のグラム陰性桿菌を認めた。PCR法で、Helicobacter cinaediと確定した。ABPC 2g×3/日の投与で徐々に解熱した。

    ポイント:明らかな免疫不全のない方に生じたHelicobacter cinaediの一例。菌が遊走性を有するため、血液寒天培地上、通常の菌のコロニーの性状と異なり、菌の発育を見逃してしまう可能性があるとされる。

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    ● 2015年2月

    60代男性
    病歴:38度台の発熱と食欲不振が出現し、近医受診した。WBC15000/μL, CRP 39.6mg/dLと炎症反応高値を認め、IPM/CSやLVFX投与されたが改善せず、紹介となった。
    既往歴:40代でアルコール性肝炎
    入院後経過:入院時は体温36.7度で心窩部軽度の圧痛・不快感以外は特記すべき所見を認めなかった。入院時の採血では、WBC 14600/μL (Neu 82.1%) , AST 101 IU/L, ALT 125 IU/L, LDH 205 IU/L, γGTP 252IU/L, BUN 25.4mg/dL, Cr 1.37 mg/dL, CRP 30.37 mg/dLであり、膠原病関連自己抗体陰性、血液培養陰性であった。画像所見では特記すべき所見は認められなかった。入院時より体温は36度台で発熱を認めず、WBCは10000μL/L、CRP 10mg/dL前後でくすぶっていたが、胃十二指腸炎は絶食とPPI内服で改善、肝機能障害も自然軽快した。

    家族性地中海熱は周期性発熱、漿膜炎を主徴とする遺伝性自己炎症疾患で、本邦における患者総数は約300 名と推定されている。典型例では、12時間~3日続く発熱や腹痛などの漿膜炎症状を周期的に繰り返す。一方、非定型例では発熱の期間が数時間以内~4日以上など様々であり、発熱も微熱程度で症状が非典型的である。治療はコルヒチン内服である。

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    ● 2015年3月

    20代男性
    病歴:数週間前より黒色便を認めるようになり、その後に吐血したため近医受診し、緊急上部消化管内視鏡を施行された。胃食道静脈瘤破裂の診断となりSBチューブを留置後に搬送された。
    入院後経過:来院時吐血は止まっていたが吐気が持続していた。バイタルおよび入院時身体所見では頻脈以外は特記すべき事項なし。採血検査では、WBC 9600/μL (Neu 75.2%), Hb 10.0g/dL, AST 29 IU/L, ALT 22IU/L, T-bil 2.14mg/dL, BUN 50.1mg/dL, Cr 0.73mg/dL, CRP 0.08mg/dL、HBV/HCV陰性。
    内視鏡的静脈結紮術(EVL)および輸血を行うも、貧血が進行し高次病院に転院となった。
    転院後の腹部造影CTで肝外門脈閉塞を指摘された。閉塞の原因は不明であり、食道静脈瘤に対し待機的にEVLが行われた。今後は降圧剤による静脈瘤軽減を図る事となった。

    肝外門脈閉塞症は、肝門部を含めた肝外門脈の閉塞により門脈圧亢進症に至る症候群である。原因不明の原発性肝外門脈閉塞症と、乳幼児臍炎や腫瘍等による続発性肝外門脈閉塞症二次性に分類される。日本における患者数は、2005年の全国疫学調査では、推定340~560人とされる。20才未満が最も多くやや男性に多い。治療対象は食道胃静脈瘤出血となる。出血がコントロールされていれば予後は良好で、10年累積生存率は90%以上とされている。

    【参考文献】
    門脈血行異常症の診断と治療のガイドライン(2013年)、難病情報センター

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    ● 2015年4月

    60代女性
    3日前より倦怠感が出現。近医にてセフジトレン処方されるも改善なし。39度の発熱、腋窩、股関節痛を生じ、夜間診療所を受診。皮疹を認め紹介された。ふだん専業主婦であるが、1ヶ月ほど前よりみかん畑で季節労働をしていた。身体所見:体温39.0度、血圧 110/83 mmHg、脈拍 96bpm、SpO2 98%(room air)。胸腹部に異常なし。手掌および大腿に米粒大の境界不明瞭な紅斑が多数みられた(写真)。よく身体中をさがすと、背部に周囲に発赤を伴う痂皮もみとめられた。主要検査所見:WBC3,000, CRP16.84, AST94, ALT 64。
    皮疹(特に手掌の皮疹)、発熱、みかん狩りの病歴より日本紅斑熱を疑い、MINO+LVFXで治療開始。投与開始後2日で解熱し、皮疹も消退した。LVFXは3日で終了。経過順調にて第16病日に退院となった。
    国立感染症研究所に抗体検査を依頼し、Rickettsia japonica IgG 320倍、IgM 640倍との結果で日本紅斑熱の診断となった。

    ポイント:皮疹が診断の手がかりとなった日本紅斑熱の症例。ツツガムシ病では体幹部を中心に発疹を認めるのに対し、日本紅斑熱の紅斑は四肢末梢にやや多く、初期の2〜3日は手掌にも認めるのが特徴である。

    【参考文献】
    馬原文彦:日本紅斑熱の発見と臨床的疫学的研究、モダンメディア 54 巻2 号, 2007

     

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    ● 2015年6月

    悪寒戦慄を伴う発熱と腰痛、急性呼吸不全を呈した70代男性
    高血圧、糖尿病(HbA1c 6.5%)、心房細動、腎盂腎炎の既往のある70代男性。 4日前右腰痛にて近医受診。腹部単純Xp、検尿異常なくNSAIDs処方された。腰痛持続、悪寒戦慄2回あり紹介受診。受診時、体温36.4度、脈拍103回/分、血圧127/57、SpO2 97%(RA)、右前胸部にwheezeを聴取し、CVA叩打痛は認めなかった。WBC 10,400/μl、CRP 24.51、血清生化学、尿検査異常なし。造影CTにて両肺透過性低下を認め、腰部には明らかな異常を認めなかった。何らかの感染症が疑われ、抗生剤MEPM+LVFXが開始されたが、入院後急速に呼吸状態が悪化(リザーバー酸素10L/分)し、間質性肺炎急性増悪も疑われ、ステロイドセミパルス(mPSL 500mg)が追加された。腰痛は消失したが第3病日の胸部CTで間質性陰影悪化しており、胸水も増加。急性心不全を考え、ラシックスを開始したところ、3500ml/日程度の利尿とともに酸素化、画像所見の著明な改善を認めた。以上より感染を契機とした急性心不全と判断した。
    感染源不明のまま、本人の強い希望により第10病日退院。第16病日に腰痛、右臀部痛〜下肢しびれ感を主訴に、近医整形外科受診。MRIにてL5/S1の化膿性椎間板炎の診断となった。

    ポイント:初診時発熱なく、造影CTで感染源がわからなかった上に、急性呼吸不全が前景に出たため化膿性椎間板炎の診断が遅れた症例。化膿性椎間板炎では半数以上で発熱はみられないとされ、診断にはMRIが重要であるが、本症例では造影CTのみでMRIは撮らなかったため、診断がつかなかった。

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    ● 2015年7月

    60代女性
    主訴:肩こり、背部痛、頭痛
    病歴:1年前にラクナ梗塞の既往あり、高血圧、高脂血症で内服加療中。1週間前から咳嗽があったが軽快し、発熱はなかった。深夜に肩こり、背部痛と頭痛あり受診した。BT 36.6℃、PR 105bpm、BP 136/80mmHg、SpO2(マスク5L)95%、RR 17/分。眼瞼結膜の軽度貧血、呼吸音は両側、特に左で優位にcoarse crackles聴取する。血液検査ではWBC 11500/μL(Neu 80.6%, Ly 14.6%), Hb 14.5g/dL, PLT 30.3万/μL、電解質異常なく、肝機能はALT のみ45U/Lと軽度上昇。腎機能異常なし。 CK、LDH、KL-6、NT-proBNPも上昇なかった。動脈血ガスはマスクで酸素5L投与下でpH 7.457, PaO2 28.9Torr, PaCO2 53.8Torr, HCO3 20.0mmol/L, BE -2.5mmol/Lであった。胸部単純X線、胸部CTでは心拡大と肺水腫を疑う浸潤影を認めた。心不全も否定できなかったためラシックス投与し、2時間で600mLの排尿を得た。同日午後には呼吸状態は改善し、酸素投与終了。入院時の心電図では広範囲にST上昇がみられ、翌日には陰性T波が出現。その後徐々にST上昇が軽減し、1ヶ月後には正常化した。入院時の心エコーでは心尖部の壁運動低下がみられ、EF 39%であったが、4病日には全体の動きは改善し、EF 61%へ改善がみられた。循環器内科にコンサルトし、心電図と心エコー所見から、たこつぼ型心筋症の診断となった。
    たこつぼ型心筋症の90%は閉経後の女性で発症し、突然の情動ストレスや身体的ストレスが誘因と言われる。心室は全体に拡張するが心基部の運動は維持される。肺水腫、低血圧、胸痛などの症状が出現し、急性心筋梗塞に似た心電図変化がみられる。数日〜数週間で軽快することが多いが、患者の10%で再発がみられる。たこつぼ型心筋症に特徴的な心電図として、広範囲の陰性T波、QT延長。早期は広範囲ST上昇がみられ、数週後には正常化する。特に急性冠症候群との鑑別が重要であり、特徴的な心電図変化や心エコー所見が手掛かりとなる。

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    ● 2015年8月

    50代男性
    主訴:背部痛
    高血圧で内服加療中。仕事中午前7時頃に急に背部痛が出現した。40分後に受診した時には立っていられないほどの激痛となり、痛みに波があった。受診時バイタルは血圧が疼痛増強時210/110mmHg台、疼痛改善時は170/110mmHg台と著名に上昇している以外は異常を認めなかった。呼吸音異常なく、腹部圧痛もなかった。血液検査ではWBC 9300/μL(Neut 79.6%, Ly 15.6%)、電解質異常はなく、T.Bil正常。AST, ALT, LDH, ALP, CKなど逸脱酵素は正常値。尿検査は蛋白+、潜血−、白血球−。心電図、胸部単純X線、造影CTには明らかな異常は認めず。来院から2時間後には徐々に下肢麻痺が出現し、尿意が分からなくなった。両側バビンスキー反射は陰性、両乳頭の高さで疼痛があるが、それより下方レベルでは疼痛を感じていなかった。両側進行性の神経障害から胸椎レベルでの硬膜外血腫を疑って整形外科に紹介し、造影MRIにて脊髄硬膜外血腫の診断が確定した。
    脊髄硬膜外血腫は、急性の局所痛あるいは神経根痛で発症し、脊髄障害や脊髄円錐障害など様々な徴候がみられる。抗凝固療法中や外傷、腫瘍、血液疾患のある患者に起こりやすいと言われる。基礎にある凝固障害の迅速な補正と外科的な減圧術が治療である。
    腰背部痛の原因として、①悪性腫瘍 ②胸腰椎圧迫骨折 ③脊髄圧迫症候群 ④脊椎感染症 ⑤大血管性疾患 の悪魔の5疾患が言われている。本症例で診断された脊髄硬膜外血腫は、③脊髄圧迫症候群に該当し、進行性の神経機能の消失がみられ、見逃してはならない腰背部痛の一つである。症状出現から48時間がgolden timeで、迅速な整形外科への紹介が必要である。血腫、悪性腫瘍、骨折などが原因で、尿閉(感度90%)、saddle anesthesia(感度70%)、肛門括約筋の緊張低下・両側坐骨神経痛・SLRT(下肢伸展挙上テスト:感度80%)などの身体所見が特に重要である。

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    ● 2015年9月

    60代女性
    主訴:右麻痺増強
    既往歴として15年前に髄膜腫の手術、脳梗塞後遺症、症候性てんかんがあるが、普段は歩行も可能でADLはほぼ自立していた。今回、昼食後に嘔吐を認め、その後右麻痺増強、体動困難、失禁、異常言動出現したため家族につれられ受診となった。来院時現症ではBP 113/72mmHg HR 73/min 整 RR 16/min BT 34.1℃ SpO2 95%(RA) GCS(3.4.6)、肺野でcoarse crackle聴取、右不全麻痺を認めた。脳外科診察後、心電図でⅠ~Ⅲ、aVF、V2~6に陰性T波を認め内科へ紹介となった。胸部単純レントゲン写真で軽度のうっ血像を認め、心エコーで心基部の収縮は保たれているが、心尖部の無収縮を認めた。問診により抗てんかん薬を全く飲んでいなかったことが判明し、てんかん発作後のたこつぼ型心筋症と診断した。保存的加療により改善を認めた。

    ポイント:たこつぼ型心筋症は何らかのストレスが誘因となり、急性冠症候群と類似した症状や心電図所見を呈するが、冠動脈病変が存在せず、左室造影や心エコーで特徴的な異常を示す一過性心筋障害である。閉経後女性に多く、おおむね2〜3週間以内に回復する。
    原因となるストレスとしては心理的ストレス(肉親や友人などの死、交通事故、サプライズパーティー、激しい口論、講演、強盗被害、戦争、治療への恐怖、地震)や身体的ストレス( くも膜下出血、ダイビング、激しい運動、カテコラミン投与後、β刺激薬使用後、アドレナリン使用後、検査/手術、疾患の治療中)が報告されており冠動脈疾患との鑑別が重要である。

    【参考文献】
    N Engl J Med 2005; 352:539-548

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    ● 2015年10月

    症例は20代男性。既往歴は川崎病、小児喘息。
    経過:倦怠感を自覚した翌日に微熱を認め、2日後に37℃台の発熱・咳嗽・鼻汁・頭痛を自覚し、受診。
    PL顆粒、鎮咳剤、気管支拡張剤、抗生剤の処方あり、4日間内服継続していた。その間にも37℃台後半の発熱、食欲低下、両側膝関節・手掌・足底の灼けるような激痛で歩行困難、睡眠困難となり再受診、入院となった。当初の家族歴では母親が反応性低血糖としてフォローされているという情報のみであった。入院時身体所見では37.8℃の発熱とHR100程度の頻脈、苦悶様表情、腹部全体に圧痛を認める他は神経学的所見を含め有意所見なかった。血液検査ではALP 385, CK 324, CRP 0.77と軽度上昇していた他には、血算、生化学、尿検査に有意な異常は認めなかった。血沈7mm/hで抗核抗体40倍、フェリチン47.8、甲状腺機能やIgG/A/M値も特記異常なく、心電図・心エコー、胸部・腰部・膝のX線写真も異常なかった。内服薬はNSAIDと胃薬のみ頓用とし、他は全て中止して経過観察したところ、38.2℃の発熱と発熱に同調する四肢末端痛の増悪、寛解を認めた。入院3日目には症状は軽快し、食欲も戻り表情は明るくなった。
    詳細な病歴、症状レビューにて、運動時の四肢末端痛と灼熱感は幼少時からあり、熱が上がっても発汗せず、手掌はいつも乾燥していたとのこと。母も同様の症状を認め、詳細な病歴を確認したところ、血縁者でFabry病歴がある事が判明した。家族歴があり、αガラクトシダーゼ著明低値を認め、腎生検にて糸球体上皮細胞の腫大と空胞変性を認めたことから、Fabry病の確定診断を得た。四肢末端痛にカルバマゼピン内服開始し、酵素補充療法導入予定となった。

    ポイント:伴性劣勢遺伝病のFabry病診断には詳細な家族歴聴取と血縁者の症状の確認も重要であった。若年者の説明がつかない多彩な症状では遺伝性疾患も考慮すべきである。酵素補充で治療可能であるため、早期治療導入は長期予後を左右しうる点で、診断に至る重要性が高い一例であった。


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    ● 2015年11月

    50代男性
    主訴:呼吸不全
    右鼠径ヘルニアに対して待機的に手術を行うこととなり、全身麻酔下での腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術施行。術中特に問題なく術場で抜管を行ったが、数分経過したのちに舌根沈下、意識レベル低下、呼吸速迫し、ピンク色の泡沫様痰が大量に吸引された。再挿管し胸部単純写真撮影後、呼吸器内科にコールあり。手術時間3時間7分で出血量14g。輸液量2400ml、尿量100ml。<術中に使用した薬剤>フェンタニル、レミフェンタニル、ミダゾラム、ロクロニウム、セファゾリン<術直後に使用した薬剤>ファモチジン、メトクロプラミド、フルマゼニル、ナロキソン塩酸塩であった。
    陰圧性肺水腫、アナフィラキシー、輸液過多、ARDS、急性左心不全、神経原性肺水腫などを鑑別に考えたが、保存的加療で改善し、いずれも経過から否定的であった。ナロキソンが投与されていたことから薬剤性肺水腫と診断した。

    ポイント:術後急性肺水腫の原因として、陰圧性肺水腫では喉頭痙攣、異物、筋弛緩残存などが誘因となり、アナフィラキシーでは薬剤、ラテックスなどが原因となる。本症例は輸液過多とまでは言えず、ARDSを来すような手術侵襲や敗血症、輸血、誤嚥などはなく、急性左心不全を起こしえる心筋梗塞、不整脈は認めず、術中に神経原性肺水腫を起こすイベントもなかった(Anesthesiology. 2010;113:200-7)。薬剤性肺水腫は非心原性が多く、厚生労働省発行の重篤副作用疾患別対応マニュアル(H21年5月)にはナロキソンがgroup 1(10症例以上の報告があるもの)として記載されており、術後急性肺水腫の鑑別診断には薬剤性を挙げる必要がある。

    肺水腫発症、再挿管後のレントゲン

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    ● 2015年11月

    60代男性
    主訴:発熱、頸部リンパ節腫脹、食欲不振
    1年前に右被殻出血を起こし、その後症候性癲癇が見られるようになった。抗癲癇薬開始後も発作を繰り返し半年前に自動車事故で左気胸を併発し、外科治療された。今回、痙攣発作を起こしている所を発見され救急要請され、当院到着後にショックバイタルに至った。
    既往歴は高血圧、脂質異常症、うつ病、前立腺膿瘍で膀胱瘻増設あり。生活歴としては喫煙15本/日、飲酒 焼酎3合+ビール3本。
    来院時は間欠的な強直性痙攣発作の状態で、Vital BP 67/46mmHg HR 132bpm BT 37.5℃ SpO2 97% (NC3L)であった。 身体所見では特記事項なし。検査所見では、WBC10400/μl (Neu 40.9% Ly 53.5%) CRP 0.15mg/dL Na 149mEq/L K 3.24mEq/L Cl 99mEq/L AST 25U/L ALT 9U/L LDH 228U/L ALP 165U/L BUN 12.5mg/dL Cr 1.49mg/dL
    診断は、後腹膜気腫を合併した特発性縦隔気腫であった。縦隔気腫の原因としては、気管・気管支・食道など縦隔内臓器の損傷、肺胞破裂などが挙げられる。保存的加療で問題ない場合がほとんどであるが緊張性縦隔気腫や喉頭圧迫には注意が必要である。後腎傍腔は頭側は横隔膜から縦隔と連続しているため合併する事もある。両者の合併の報告では、消化管からの穿孔で縦隔膜気腫から縦隔気腫に至る報告が多い。
    本症例では、痙攣を契機に特発性の縦隔気腫を起こし、後腹膜まで気腫がおよび、後腹膜気腫による下大静脈圧迫により閉塞性ショックに至ったと推測された。

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    ● 2016年1月

    70代男性
    受診当日起床時より腹部全体の鈍痛と右腰の違和感および軽度吐気が出現したため受診。既往歴は10才で虫垂炎術後である以外は特記事項なし。ADL自立しており、生活歴としては喫煙15本/日、飲酒ビール350ml2~3本と焼酎3合/日程度。内服薬・アレルギーなし。
    受診時の身体所見では、Vital BT36.9℃ BP160/90mmHg HR99bpm, 不整 SpO2 96%(室内気) 右CVA叩打痛を認めた。採血検査:WBC6700/μL CRP 0.28mg/dL BUN 14.8mg/dL Cr 0.8mg/dL K 5.15mEq/L PT-INR 1.2 APTT 41.6 D-dimer 0.9μg/mL 尿検査:潜血(3+) 蛋白(2+) 亜硝酸(-) RBC 10-19/HF WBC 1-9/LF
    入院時の胸部・腹部レントゲンでは特記すべき所見なし。原因不明の腹痛精査目的で入院となった。入院翌日より38℃台の発熱を認め、尿路感染症の可能性を考えCMXを開始したが改善せず、入院3日後に造影CTを施行したところ右腎の腎梗塞が認められた。見返すと入院日の単純腹部CTにて右軽度の腎腫大と脂肪織濃度上昇を認めていた。

    腎梗塞は、尿路結石や尿路感染症として見逃される事も多い疾患である。突然発症の持続性側腹部痛が多いとされるが、腹痛のみの時もある。腹部の圧痛はあまりなくCVA叩打痛も軽度である事が多い。診断では造影CTやMRIが感度85%と良いが、血管造影やシンチグラフィでは更に感度が良いとされる。腎エコーは感度が低い。原因としては、外傷による腎動脈損傷や脂肪塞栓、心房細動、動脈硬化症が主である。治療としてのエビデンスは乏しいが、血栓溶解・血栓除去術や抗凝固療法が推奨される。

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    ● 2016年2月

    60代女性
    主訴:発熱
    病歴と経過:くも膜下出血既往歴あり。1年後の頭部CTで水頭症を認め、脳外科にてV-Pシャントを造設。術後2か月頃から37度台の微熱が出現。熱が1週間以上持続するため、原因精査目的で内科紹介となった。
    るい痩著明でBT37-38℃、日内変動あり。BP150/70mmHg前後、HR90pm.前後、SpO2:96%前後(RA)。腹壁は固く蠕動低下あり、圧痛不明。その他特記すべき有意所見なし。WBC5700/μl、Hb10.7g/dl、Na128mEq/L、K3.9mEq/L、Cl90mEq/L、CRP0.04mg/dl、その他腎機能・肝胆道系酵素・凝固・尿検査異常なし、血培・痰培・尿培陰性、シャントバルブから採取した髄液培養陰性、気管支鏡採痰の真菌・抗酸菌培養陰性。持続発熱が出現する前の頭部・胸腹部CTでは明らかな熱源特定できず。
    発熱が持続するようになって1か月近く経った頃、腹部単純CTを再検。シャントチューブ先端の腸管穿孔が疑われ、同チューブ切断しそこからの造影剤注入透視検査で診断確定となった。外シャント化してチューブから採取した髄液培養でMRSAが分離され、腰椎穿刺で採取し再検した髄液も細菌性髄膜炎様の所見となっていた。以上より、腹腔内シャントの腸管穿孔からの細菌性髄膜炎と診断してVCM投与開始となった。
    振り返って腹部単純レントゲンを見ると、発熱が続くようになった頃からV-Pシャントチューブの位置が全く変わらなくなっていた。周囲組織に固定されてチューブの先端が腸管の同じ場所に持続して当たるようになり、穿孔してしまったものと考えられた。

    【V-Pシャントの合併症】
    腹腔内合併症 : hunt infection 15.7%, CSF pseudocyst 8.6%, abdominal abscess 5.7%,
    腹腔内合併症 : infected fluid collection 4.3%, bowel perforation1.4%.
    症状 : local abdominal signs、increased intracranial pressure.
    症状 : シャント感染の診断は難しい。シャント挿入後すぐに起こることもあるし、数か月後や数年後に
    症状 : 起こることもある。

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    ● 2016年04月

    70代女性
    主訴:咳嗽、発熱
    感冒症状があり近医受診し、総合感冒薬などを処方されたが、その後も発熱・咳嗽・呼吸困難感が徐々に増悪してきたため、症状発症5日後に救急外来を受診した。
    既往歴は糖尿病と認知症
    入院時、BP132/80mmHg、HR88 bpm、BT39.7℃、SpO2 96%(RA)であり、その他身体所見では特記すべき所見は得られなかった。採血にてWBC 20900/μL (Neu 88.8%)、CRP 24.9mg/dLと上昇を認め、γ-GTP 142IU/Lと高値であった。画像所見では、胸部Xpにて両側下肺中心に網状影を認め、胸部CTでは、両側胸膜下に浸潤影が散在していた。細菌性肺炎が疑われ、MEPM、LVFXがもちいられるも改善せず、真菌感染を疑いMCFG、ノカルジア感染を疑いST合剤などが使われた。しかし、その後も胸部CTでも浸潤影および空洞増大を認め、炎症反応の増悪・腎機能障害も認めるようになった。第13病日に、MPO-ANCAが102EUと高値であることが判明し、三次病院に転院となった。
    多発血管炎症性肉芽腫症(GPA)との診断に至り、ステロイドパルス3コース、シクロフォスファミド内服にて治療施行されたが、せん妄の悪化やCMV感染症のためやむなく治療中断となり、最終的に肺胞出血のため約4週間後に死亡となった。
    GPAは、主として(1)全身の壊死性・肉芽腫性血管炎、(2)上気道と肺を主とする壊死性肉芽腫性血管炎、(3)半月体系性腎炎を呈し、その発症機序にANCAが関連する血管炎症候群である。
    また、肺病変をきたすANCA関連血管炎としては、以下の鑑別が重要である。
    ・GPA:肺血管閉塞による空洞影や肺炎によく似た多発浸潤影
    ・Churg-Strauss症候群:強い好酸球性炎症による気管支肥厚所見、好酸球性肺炎
    ・顕微鏡的多発血管炎:びまん性肺胞出血と間質性肺炎

    入院時胸部レントゲン

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    ● 2016年06月

    20代男性
    主訴:左側腹部痛
    来院前日早朝より急に左側腹部痛を感じ起床した。その日は1日中食欲不振で夜になんとか粥を摂取した程度であった。翌朝、疼痛が持続するとのことで来院された。疼痛としては左季肋部あたりに鈍痛があり、部位は変わらず、程度や性状にも変化はなかった。排便は普通で、Sick Contactなし。
    既往歴は小児喘息と腰ヘルニア
    来院時所見としては、Vital BP 129/74mmHg、HR 67bpm、BT 36.6℃、SpO2 98%(室内気) 、腹部は平坦・軟で、左上腹部に圧痛あるも筋性防御や反跳痛はみられなかった。検査所見では、WBC5800/μl (Neu 72.1%) CRP 2.49mg/dLと軽度炎症反応上昇を認めるも、その他特記すべき事項なし。
    腹部CTを撮像した所、小腸に接して7-8cm大の腫瘤影が見られ、これが腹痛の原因と考えられた。エコーにて内部に凝血塊を疑う所見あり、最終的にMRIにて小腸腸間膜血腫との診断に至った。第12病日に腹腔鏡補助下小腸部分切除術が施行され、経過は良好であった。改めて話を聞くと、受診1ヶ月前に椅子に強くぶつかったエピソードがあったとのことであった。
    腹部外傷においては、肝臓や脾臓などの実質臓器に多く、管腔臓器では14.3%とされる。実質臓器と異なり、症状があまりでないことが特徴的である。腸間膜血腫の原因では最も外傷が多く、その他としては抗凝固薬治療や血管造影検査などによる医原性、急性膵炎、腸管動脈瘤破裂、特発性などがある。

    腹部CT冠状断

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    ● 2016年9月

    10代男性
    主訴:頭痛、発熱
    来院5日前より全身倦怠感があり、翌日近医受診し、LVFX・アセトアミノフェンを処方され内服していた。その後2日間は発熱を認めなかったが、来院1日前より、再度発熱と結膜充血、咳嗽を認めるようになり、来院当日38℃の発熱と頭痛を認め、休日救急受診された。既往歴・内服歴・家族歴に特記事項なし。
    来院時、意識清明で、BP116/60mmHg HR58bpm BT38.3℃ SpO2 98%(室内気)。顔面から頸部、両側腋窩、前胸部、背部に非掻痒性皮疹あり。口腔粘膜異常なく、頸部リンパ節腫脹なし。その他特記すべき異常所見は認められなかった。血液検査所見は、WBC 3300/μg (機械分類;Neu 38.9%, Ly 38.5%, Mo 17.1%)、PLT 8.5万Hb 17.1g/dL, BUN 8.6mg/dL, Cre 1.02mg/dL, AST 35IU/L, ALT 29IU/L, LDH 300IU/L, CRP 1.02mg/dL
    同日入院し、経過を見ていたところ、肝機能が徐々に増悪し、また入院4日目に扁桃白苔を認めた。当初皮疹所見から麻疹が疑われ、PCR検査(血液、尿、咽頭スワブ)および抗体検査を施行したが、IgGのみが陽性であり新規感染は否定的だった。その他肝炎ウイルス検査(A/B/C)もいずれも陰性であった。
    入院後、血液像目視分類にて異型リンパ球が37%と陽性である事が判明し、CMVおよびEBV検査を行ったところ、EBVは未感染であったが、CMV-IgM/IgG陽性で新規感染が判明した。これにより、サイトメガロウイルスによる伝染性単核球症と診断した。

    当初見られた皮疹

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    ● 2016年10月

    症例は20代女性。入院3日前より頭痛・悪寒・関節痛が出現した。市販の総合感冒薬を内服したが効果なく、近医病院受診され、頭部CT・腰椎穿刺を施行された。検査所見で異常なく、NSAIDsのみ処方され、帰宅となった。その後も症状持続し、来院1日前には嘔吐を伴う激しい頭痛となったため、翌日に救急外来受診された。
    入院時 意識晴明、BP 101/64mmHg HR69/min BT37.8℃ SpO2 98%(室内気)
    頭痛は全体にあり、後部硬直も認めていた。採血ではWBC 8800/μL(Neu 93%) CRP 1.88mg/dL、肝腎機能異常なし。髄液所見では外観無色透明で、細胞数85.0/mm3(リンパ球優位) 蛋白170.4mg/dL 糖54.0mg/dLであり、当初MRIでも特記すべき所見はなく、無菌性髄膜炎との診断になった。NSAIDsのみで経過観察されていたが、入院3日目より、誰かについていかなければならない等の異常言動や、廊下に寝転ぶなどの異常行動が見られるようになった。再度頭部MRIを施行した所、両側深部皮質下にFLAIR高信号が多発しており、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)と診断された。治療としては、ステロイドパルス、免疫グロブリン大量療法を施行され、次第に意識状態は改善したが、下肢の不全麻痺が残存し、リハビリ転院された。後日、マイコプラズマ抗体(PA)が320倍と高値となり、契機となった感染が疑われた。
    ADEMはアレルギー性の脱髄疾患で、ワクチン接種後の小児症例の報告が多いが、感染を契機としてすべての年代で起こりうる。発生機序には分子相同性や、ウイルス感染などにより血液脳関門が破壊され、中枢神経の抗原が放出されて自己反応性T細胞が新たに賦活されるepitope spreadingなどの説がある。数時間から数日のうちに神経症状が進行することが特徴的である。ウイルス性脳炎の可能性が否定できない急性期には抗ウイルス薬の併用が行われることもある。

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    ● 2016年11月

    症例は60代男性。右大脳半球脳梗塞にて脳外科入院中の患者で、皮膚掻痒を主訴に内科コンサルトとなった。既往歴としては、2型糖尿病(2年前-)、腎周囲膿瘍。アレルギーなし。生活歴や家族歴に特記事項なし。
    内科コンサルト初診時診察では、バイタルに著変なく、前胸部中心に掻爬痕を認めたが、明らかな皮疹や紅斑は認めなかった。
    採血では、WBC 8300/μL (Neu 79.4%, Ly 13.0%), RBC 702万/μL, Hb 12.6g/dL, Hct 44.5%, Plt 58.2万/μL, CRP 0.14mg/dL, AST 23 IU/L, ALT 25 IU/L, LDH 406 IU/L, ALP 217 IU/L, γGTP 49 IU/L, T-bil 0.99 mg/dL, BUN 16.2mg/dL, Cre 1.02 mg/dLであり、赤血球増多を認めていた。末梢血塗抹では標的赤血球や球状・楕円などの変形や大小異なる赤血球が見られた。また腹部エコーにて脾腫を認めた。
    上記より真性多血症と診断された。抗アレルギー薬と瀉血を行い、またヒドロキシカルバミドを施行し、改善を認め退院した。

    真性多血症は特発性慢性骨髄増殖性疾患の一つで、赤血球量の増加やHctの上昇により血液粘稠度が上昇し、血栓症を引き起こす。発生頻度は100万人中5人とされ、やや男性に多く、診断時の平均年齢は60歳である。顔面紅潮や高血圧が高頻度で起こり、脾腫も70%で認める。検査所見では赤血球像の増殖を認め、真性では二次性と異なりエイスロポエチン値が正常~低値を示す。約20%症例で染色体異常を認め、90%以上がJAK2 V617Fに変異が見られる。治療としては瀉血療法、低用量アスピリン療法、骨髄抑制薬によるHU療法などが用いられる。予後は良好だが血栓症の予防が治療の主眼となる。

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    ● 2017年1月

    症例は発熱と掻痒性皮疹を主訴に来院した、脳梗塞後遺症で通院中の80代女性。2週間前から両上肢に発疹が出現し、徐々に全身に拡大、また38℃台の熱発を認め、歩行や呂律が悪くなったため家族が救急要請した。
    入院時の身体所見では体幹部・四肢に掻痒性皮疹を認めたが、その他特記すべき所見なし。各種培養陰性で、感染源不明であったが広域抗菌薬を使用された。皮膚所見に関しては、皮膚科受診し、薬疹やウイルス感染性皮疹を疑われ、抗ヒスタミン薬や外用薬などで経過観察されていた。その後も発熱・炎症反応上昇が持続し、肝機能障害の増悪を認めた。画像検査では胆石を認めるのみで、肝炎ウイルス、自己免疫性肝炎マーカー、EBV、CMVは全て陰性であった。状態改善を認めず、精査加療目的で高次病院に転院となった。 転院先病院にて、成人Still病のYamaguchi基準にて大項目3つ(発熱、皮疹、白血球上昇)および小項目2つ(肝機能異常、RF陰性・抗核抗体陰性)を満たし、成人Still病と診断された。ナイキサン投与開始され解熱したものの、CRPやフェリチン、SIL-2R、LDH上昇が持続していた。皮膚生検施行され、真皮・血管周囲に炎症細胞浸潤を認めたが悪性リンパ腫は否定的だった。また骨髄検査では、血球貪食像を認め、血球貪食症候群(HPS)と診断された。HPSに対し、ステロイドパルス治療施行されたが、経過中に院内肺炎を合併し、最終的に死亡に至った。成人Still病に伴う血球貪食症候群の発症が疑われた症例であった。

    成人Still病は、16-35歳の若年成人女性に好発するとされるが高齢者でも報告がある。発熱、関節症状、皮疹を主症状とし、発熱では弛張熱や夕方~夜間上昇するevening feverが見られる。皮疹に関しては、サーモンピンク疹と呼ばれる径数mm程度の斑状や丘疹状皮疹が体幹や四肢に見られ、発熱時に増強することが多いのが特徴である。

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    ● 2017年2月

    症例は、高血圧と右被殻出血の既往歴がある60代女性。くも膜下出血を起こし入院、減圧開頭脳動脈瘤頚部クリッピングに加え、正常圧水頭症に対しVPシャントを施行されていた。
    入院経過中に37℃台の微熱を認めるようになり、当初尿路感染症と考えられ抗菌薬投与開始となっていたが、発熱や炎症反応上昇が3週間持続していた。
    感染源特定のため、髄液を含む各種微生物学的検査を行ったが、いずれも明らかではなかった。画像検査では、胸部Xpでは経過中特記すべき変化を認めなかったが、CTを撮像したところ両側びまん性すりガラス影と左下肺胸膜直下嚢胞性変化がみられた。また尿検査で蛋白・潜血陽性であり検尿異常も認めた。

     

    非感染性発熱の原因検索のため膠原病検索を行った所、MPO-ANCA陽性となり顕微鏡的多発血管炎(MPA)と診断された。
    その後、無治療で解熱し炎症反応も改善してきたため、一旦他院に転院となったが、その後急速に腎不全が進行したため再度入院となった。ステロイド治療を施行されたが、状態改善せず、最終的に敗血症で死亡に至った。

    MPAの肺病変は、両側の肺底部背側優位の網状・線状影、CTでの胸膜に隣接した小輪状影が特徴的でNSIPパターンと類似する。
    なお、今回の脳梗塞に関しては、脳動脈瘤が指摘されているが、中血管領域であり、MPAによる血管障害としては関連付けられないと判断された。

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    ● 2017年3月

    症例は40代男性。複視を主訴として来院した。来院1週間前に咽頭痛を主とした感冒様症状を認めていた。来院前日、起床後より複視を認め、その日は通常通り出勤し仕事を行っていたが、複視は改善せず、真っ直ぐ歩行するのも困難となったため、深夜に救急受診した。既往歴・家族歴・社会生活歴に特記事項なし。来院時診察所見では、バイタルサインや一般診察では著変認めなかった。神経所見では眼振・視野欠損は認めなかったが、右眼上転障害を認め、右方向視での複視増強を認めた。歩行自体は可能で、四肢の運動神経障害は認めなかったが、両手指の痺れを認めた。採血・尿検査では異常なく、救急外来で撮像した頭部CTでも明らかな異常は認められず、経過観察目的で入院となった。
    翌朝、左方向視でも複視増強を認め、また両手指の痺れが手掌全体に拡大した。頭部MRIを撮像されたが、動脈瘤・脳梗塞などの血管病変や腫瘤病変、変性病変なども認めず、特記すべき所見を得られなかった。同日午後には、四肢が動かしにくくなり、MMTも3-4/5へと低下し、四肢末梢の異常感覚部位が拡大、腱反射の減弱を認めた。精査加療目的に他院脳神経内科に転院となった。
    他院にて、髄液検査・神経伝達速度検査を施行され、ギラン・バレー症候群との診断に至り、大量免疫グロブリン療法が開始された。治療開始から4日目までは症状進行し、四肢筋力低下と、下肢末梢から大腿部まで/上肢は胸部までの感覚障害、神経因性膀胱、嚥下障害、眼球運動障害の進行を認めたが、6日目には改善傾向を示し、治療開始約1ヶ月後には、複視とMMT 4/5程度の筋力低下・四肢末梢感覚障害は残存するもその他の神経学的所見は改善し、歩行器で歩行可能となり、リハビリ目的に転院となった。
    ギラン・バレー症候群は、四肢の運動麻痺を主症状とする自己免疫性末梢神経疾患であり、上気道感染や消化器症状などの先行感染後に起こることが多く、発症後1-数日の経過で症状増悪を認める。本症例では、眼症状が先行しており、外眼筋麻痺を特徴とする亜型のFisher症候群も疑われたが、抗GQ1b抗体のみならず複数の抗ガングリオシド抗体が陽性となっており、最終的には急性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(AIDP)が最も考えられた。

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    ● 2017年4月

    症例はADL自立し、DM、脂質異常症などで内服加療中の60代男性、入院4日前より右股関節外側の違和感を自覚し、3日前より疼痛が出現した。その後疼痛が増悪してベッド上から動けなくなったため救急要請、入院となった。入院時は体温37.6℃と発熱がある以外はバイタル正常、Scarpa三角の圧痛あり、Laseque徴候陽性、Faber Patrick Testは疼痛のため施行困難であった。血液検査では白血球10900/µL、CRP 9.52mg/dLと上昇を認め、股関節MRIで右外閉鎖筋外側、腸骨筋遠位端の筋炎の所見を認めた。化膿性筋炎を疑い、血液培養を採取のうえセファゾリン2g3回/日で治療を開始したところ、血液培養でMRSAを検出したため抗菌薬をリネゾリド600mg2回/日に変更したところ、疼痛改善、CRPも改善した。経胸壁心エコーで疣贅は認めず、フォローの血液培養は陰性であった。抗菌薬は途中ダプトマイシン350mg1回/日に変更して合計17日間経静脈的に抗菌薬を投与し、その後は内服に変更のうえ退院の予定である。
    化膿性筋炎とは、「血行性に2次性に発症した急性の骨格筋肉内の感染症で、結合組織や皮膚、直接の外傷から2次性に発生したものは除外する」と定義される。古典的には熱帯地方の感染症であるが、熱帯地方以外での報告も増えてきている。免疫力の低下、外傷、筋肉の酷使などがリスクとされている。起因菌はStaphylococcus aureusが最も多く、Group A Streptococciが続く。免疫力の低下があればグラム陰性桿菌や真菌も起因菌となる。検査ではCKは上昇しないのが特徴とされ、画像はMRIが有用である。治療は、ドレナージが必要な病変に対してドレナージを施行したうえで、有効な抗菌薬を2週~6週投与する。
    本症例では、普段からウォーキングや軽い筋力トレーニングなどの運動習慣があったようだが、感染を起こした筋肉を酷使していたようではなく、糖尿病が主なリスクファクターとなっていたと考える。

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    ● 2017年5月

    既往にラクナ梗塞、高血圧がありバイアスピリン内服中の59歳男性で、突然の呂律不良と右不全麻痺が出現したため救急要請、当院に搬送された。左皮質下出血の診断で入院となり、血腫の増大があり入院2日目に開頭血腫除去術が施行された。その後神経所見は改善傾向であったが、入院10日目に嘔吐、窒息があり挿管、人工呼吸器管理が開始となった。同じころより左半身の筋力低下も出現し、内科にコンサルトされた。
    コンサルト時、意識レベルはE4VTM1、瞳孔左右差なく、両上下肢はわずかに随意運動を認めるのみであった。四肢の筋トーヌス、深部腱反射は低下していた。血液検査では有意な異常所見認めず、頭部CTでも新規の病変は認めなかった。神経伝導速度は低下していた。脳外科手術や窒息による人工呼吸器管理で集中治療が必要であったことに起因する、ICUAW (ICU Acquired Weakness)の診断となった。
    ICUAWはCritical Illness MyopathyとCritical Illness Polyneuropathyを合わせた概念で、集中治療を要する患者で急性期後に発症する、対称性の弛緩性麻痺と呼吸筋不全である。敗血症で70%、DICで100%起こるという報告もあるが、これの大部分は無症候性で電気生理学的検査のみの所見を含んでいると考える。血液検査ではCKの上昇は認めず、神経伝導速度検査では脱髄型のギランバレー症候群とは異なる所見を呈する。神経の軸索障害が病態とされているが、その原因は不明である。特異的な治療はなく、リスクとなるステロイドの減量やリハビリなどが治療の主体となる。通常可逆性であるが、数か月遷延してICU退室や退院を遅らせる要因となり得る。

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