マスタ テキストの書式設定
2 レベル
3 レベル
4 レベル
5 レベル
<#>
宇宙線研の梶田先生、海洋研の西田先生、霊長研の松沢先生に感謝いたします。わたしに与えられているテーマは、木本先生が非常によく分かりやすくお話いただいた気候変動によって起こるいろいろな健康の問題であり、我々の研究所で行っている研究の事例をご紹介したいと思います。
 我々の長崎大学熱帯医学研究所は「いったいどうして日本でそんなことをしているのか」とよく言われていました。しかし、「地球温暖化」によって、そのうち日本も熱帯化してくるという話が出てくるようになり、皆さんにより身近な研究所になりつつあるということで、非常に喜んでいます。そのようなことで、このような機会が与えられ、長崎から出てきて皆さんにお話する機会もできたということです。
1
2
 今、木本先生のお話を聞いて少しわかったのですが、人為的なことがこのまま続いた場合には、100年後には4度から5度くらい気温が上り、そうでなければ、それでもこのくらいは上りますという気温の予測があります。
 温暖化に伴って、いろいろな気候の変動があり、それによって直接起こるのか、あるいは揺らぎなどによって起きるのか分かりませんが、気候の変動は明らかに振幅が大きくなり、それによって起きるいろいろな健康被害についても、そろそろ準備しなければならないということになってきています。
 気候の変動によって、どんな病気あるいは我々の専門である感染症がどのような影響を受けるのか、それから、そのような影響を受けたときにどのような病気や感染症に人間が適応できるものなのか、あるいはそういうものに非常に弱い、あるいは耐えられるのかについて、ある程度予測していかないと、それについての準備ができないような状況になりつつあるということです。
 先ほどもご紹介がありましたが、国連やWHOあるいは環境省や国際機関、国内機関がいろいろな調査のもとに解析を進めています。
3
 ここで気候変動が起こった時に、人体への暴露、熱波、気温上昇、豪雨、などにさらされます。その時に、我々の専門でいえば、感染源になるような汚染、あるいは感染経路の変化というものが起こっていきます。それから、農業のシステムや水勢、いわゆる水の状況が変化し、社会経済、人口の動態も変わっていく。最終的にはこのようないくつかの健康被害も起こってくるだろう、あるいはすでにもう起こっている。
 一番分かりやすいのは、熱中症ですが、それ以外にも大気汚染、本日これから少し触れる水系感染症、それから、媒介昆虫やねずみなど媒介動物などの増減によって起こる感染症。それから、飢餓や渇水によるもの、栄養、精神的な健康被害がだんだん顕在化してくるだろうといわれています。
4
 ここに気候変動によって、相当な影響を受けるであろうというものをWHOまとめた資料の中から抜粋してあります。この中には、コレラやマラリアなど皆さんご存じのものもあれば、あまりご存じないものもあります。我々の研究領域では、非常に親しみのあるものがたくさん挙げられています。マラリアもそうですが、日本脳炎、デング熱、リーシュシュマニア、西ナイル熱、蚊が媒介動物になるようなもの、あるいは、水、あるいは食物から感染する感染症、それから温暖化に伴ってインフルエンザは少し伝播力が弱くなるという話もありますが、いくつかの感染症は温暖化あるいは気候変動によって、非常に大きな影響を受けるのではないかといわれています。
5
 先ほど少しお示ししたのですが、コレラのような下痢症は非常にたくさんの乳幼児を殺しています。世界的にみると、180万人くらいの子どもが死んでいるということになっていますが、マラリアでも100万人くらいの人が毎年死んでいる。このようなものが気候変動によってさらにひどくなる。あるいは、日本にも直接影響を与えてくるのではないかと、我々は特にアフリカやアジアに研究拠点を持ち、そこで起こっていることを観察あるいは解析しています。
 宮本武蔵の五輪の書ではないのですが、水から始まり、熱、火の話、風の話も出てまいります。
6
 最初は、水の話をしたいと思います。
7
 水系感染症は、先ほどのコレラのように、気候変動、例えば、気温、海水温の上昇によって、プランクトンについたコレラ菌が広がっていく。洪水によって、人の近くまで攻め寄せてくる。水道も実は、処理能力を超えた量が水源に流入し、浄化が効かなくなる場合があります。今、清潔なものに触れていますが、ちょっとした洪水や、過剰な降雨によって容易に崩れ去るものであるということです。
8
 先ほどもお話がありましたように、大雨が増えています。
9
それから世界的に見ても、降るところと降らないところの差が非常に大きくなって、河川の流量が増えている。これは、海洋中に流れ出る陸地、特に人口が密集しているところを通る河川の水が大量に海洋に流れ出る。海洋中、あるいは河川のプランクトンの生態がこういうものに変わってくる。
10
 これは降雨量、降水の強度についてもこのように変わってきているのです。今日お示しするのは、ベンガル湾とケニアの高地についてですが、青い部分には非常に降雨が多くなっている。
11
洪水については、30年間で25億人が被災し、この数年、非常に洪水の頻度が上がってきているのが特徴的だと思います。
12
13
 我々の研究所の橋爪くんが、ダッカで頻発する洪水によって下痢症が増える、しかも、コレラが非常に増えていることを観察しました。
コレラについてはよく言われているのですが、コレラ菌がバイオフィルムを作って海洋のプランクトンにへばりつき、それが広がっていく。最初、ベンガル型といってインドにしかなかったような菌が、南米で大流行したり、世界的に広がったりしつつあります。
 それから、おそらくプランクトンの中でいくつかの病原性の強いコレラ菌が人に非常にかかりやすいコレラ菌と遺伝子交換をし、より毒素の強い新しいタイプのコレラ菌となって最近見つかっています。
14
 コレラについては多少過小評価されているのですが、今や熱帯地域を中心に非常に問題が大きくなってきている。このインド洋のベンガル湾に河川が流入しています。この地域は洪水のメッカといわれ、特に90年代の後半には、大きな洪水に何度か見舞われています。
15
このとき、先ほどコンピュータのシミュレーションでもありましたが、このようなところでは海面がかなり上昇するといわれていますから、洪水の頻度はこれからますます上がってくるだろうということです。
16
17
 これは2004年の洪水の様子ですが、もちろん常識的にはすぐ予想されるわけですが、水位が上って川の水があふれれば、人の生活の区域がすべて川になるわけです。こうやって、道路のところを舟で通行し、非常に衛生上問題のある状況になる。
18
日々の生活は非常な困難を伴うものになります。
19
1996年から2001年までのここに示したようなデータを解析し、洪水と下痢症の関連について調べました。
その結果コレラの頻度が確かに上昇したことが明らかになりました。
20
 このときに、水位や下痢症の発症状況を調べて、洪水に見舞われたときにどのように人間が発症するのかを見ています。そうすると、降水量が上ると川の水位が上り、ある一定のところを超えたときに洪水がおこりますが、この時期に一致して、下痢症の患者が増えていることが、よく分かると思います。
21
22
 これは降雨量で、平年の値を赤い線で示しています。
23
この時期にコレラの患者数は著しく増加し、さらに10週後ぐらいにももう一度増加しているのがわかるかと思います。明らかに洪水でコレラの患者は増えるわけです。
こういう悲惨な状況になるわけです。
24
25
洪水の際のコレラに感染する危険度を計算したグラフですが、洪水時に6倍、16週後にも約3倍と高くなっています。
ベンガル湾だけでなく、いろいろなところで降水量、降雨量が増えていますし、海洋にはコレラ菌が浮遊しているという状況です。
 これはアメリカのカトリーナの時の被害ですが、決してこれは他人ごとではなく、このようなことが起きた時には、コレラを中心にして、腸管下痢症がおそらくかなり問題になってくるということです。
海洋の水温が上昇すれば、コレラ菌の付着したプランクトンは世界中の地域に拡散する可能性があり、カトリーナによるニューオーリンズの洪水被害の様な温帯地域でも安全とはいえなくなる日が来ると予想されます。
26
最初にお話ししたIPCCのAR4のダイジェストに示されているコレラの増加に関するページですが、最近の研究では、毒性の強いベンガル型と世界中で拡散しているエルトール型の遺伝子が混在した新たなタイプが拡がっていることがわかってきており、このような遺伝子交換が海洋中のコレラ菌の増加により加速されていることが危惧されています。
27
 次に、これは降雨量と非常に関係しているのですが、媒介蚊も非常に増えます。そのひとつの例で、ケニアの高地の我々の観察で証明されています。
28
ここでは、我々が海外研究拠点を設置しているケニアで見られた気候変動、この場合は温暖化というよりは気候の揺らぎによる降水量の変化が結果的にマラリアの患者数を急激に増加させた事例をご紹介します。この研究は香川大学の寺尾先生と我々の研究所の橋爪、皆川の共同研究です。
29
30
 マラリアは、非常に貪欲に血を吸う蚊です。これはもうお尻からあふれているのですが、それでもなおかつ血を吸います。メスの蚊で産卵する前に、このように血を吸います。マラリアはこの蚊がいる場所で流行っているわけですが、熱帯地域に蔓延する病気です。
 もともとはスウェーデンや日本などの高い緯度の地域にも流行っていましたが、現在は、熱帯地域に限局して蚊の生息に合わせて流行する病気です。
31
この蚊が刺すと、肝臓でまず増えて、血液の中に入り、最終的には赤血球に寄生して、それが悪さをし、脳の細かい血管の中に入ったりして人を殺すわけです。
32
このように重症化すると、脳の血管が詰まって意識を失ったり亡くなったりします。特に、赤ん坊のかなりの数が、特にサブ・サハラとよばれるサハラ砂漠の南の地域では死んでいて、乳幼児のうち5歳ぐらいまでに死んでしまうのが半分くらいになるところもあるということで、マラリアは依然として怖い感染症です。
33
34
 アルゴアが温暖化のひとつの例として、ケニアの高地でマラリアが非常に流行っていることを挙げています。要するに北向きに温暖化が進むというのと、もうひとつはマラリアの場合には、だんだん暖かくなると高地に上昇していくという現象も、大きな脅威になっています。
35
我々はこのナイロビに研究拠点を持っていますが、この地域で起こってきた90年代のマラリアの流行について、特にインド洋のダイポールモード現象と比較してマラリアとの関係をみた研究をご紹介します。
36
ナイロビは標高1700メートルくらいあり、非常に快適なところですが、そういう地域でも温暖化が見られる。
37
実際にマラリアはこの頃、当然、昔の方が多いわけですが、これを見ると蚊帳も使っていなくて、抗マラリア薬もまだなかった時代なのですが、最近は治療もできるし、コントロールされているつもりだったのですが、90年代に非常に増えたことがある。
38
ナイロビはこのようにきれいなところですが、最近都市化が進んでいまして、マラリアが流行る環境にないのです。ところが、このようなところでもマラリアの感染が増えた。どうして増えたのかを調べたわけです。
39
 こちらがインド洋で、こちらが少し高地になりますが、この高地でマラリアが非常に流行った時期が90年代であると。このあたりは海抜1500メートルの高地で、非常に快適なところで、20〜25度くらいの気温です。
40
このような快適な地域でもマラリアが大問題になったことがあります。
41
患者の数は、90年代に多発していることがわかります。
 この原因が温暖化にあるのではないか。それから、温暖化以外の気候変動、そして開発その他の問題がいくつかからみあって、このようなことが起きている。
42
そういうことを考えているときに、エルニーニョが(マラリアの)流行の時期と一致しているのではないかという論文がランセット誌に出ています。
43
44
しかし、エルニーニョ以外にも、ケニアの近くにもこのような気象現象、ダイポールモード現象が見られるということを1991年ごろに日本人が発表しています。インドネシアの冷たい海水の中に、インド洋の側に温かい海水が局在する状況が起こる。その時に、冷たい海洋上から風が吹き、湿った空気を含み、温かい海洋上で非常に強い雨を降らせるという現象を、発表しています。この時期、つまりダイポール現象が起こった時期に、マラリアが起こったのではないかと、疑ったわけです。
陽性IODの間の夏季の気候
IODインデックスがプラスの場合、インドネシア側の東方海上は低温となり大気が冷えて下向きに風が吹く。この風は一部ベンガル湾やインドへ吹き込み上昇気流となってインドのモンスーンを降らせる。エルニーニョとダイポールが両方発生すると、インドの熱波は和らぐ傾向にある。すなわち両者は拮抗関係にあると考えられる。
45
47
これは、先ほども見せていただいたシミュレーション図ですが、これを見ますと、東が冷たくて西が温かい水温になったとき、この3つの時期に、まず降雨量が増え、またその時期にマラリアのピークがきています。非常によく一致したということで、昨年アメリカの学術誌に発表したのですが、エルニーニョだけではなく、このようなダイポール現象がマラリアの流行に影響したことが示されたということです。
48
49
でも、研究者としては、それだけでなく、気候の影響を見るためには、他の影響を除外してから考えなければならない。そうでなければ、温暖化といってもそうではないかもしれない。実際にその地域において、土地利用が変わってきている。
50
今まで、自然の地域だったところに、トウモロコシ畑などが非常な勢いで開けてきているということがあります。
51
52
それから、日当たりのいい木を伐採した地域は、蚊の絶好の繁殖地になります。このような水溜りを見ただけで、ここには蚊がいるだろうということが専門家にはわかるそうです。
53
54
実際に蚊の繁殖数をみますと、歴然とこのような地域に蚊の数が増えていることがわかります。
 
55
ですから、ただ単に温暖化や降雨量だけではなく、人間の(行った)開発というものが複雑に絡んでマラリアが流行していることが分かりました。
 温暖化だけで何か日本にすぐに影響が及ぶことがあるのだろうかという目で見ると、実はそういう病気もあります。 これは、日本の気温の予測ですが、黄色いところはこれから気温が上昇していき、特に赤いところはより温度の上昇がひどいだろうということです。
56
 温暖化の影響で、一番日本に影響がありそうだというのが、このデング出血熱という感染症です。
58
デング出血熱はフラビウイルスというRNAウイルスの感染症で、特にこのネッタイシマカという獰猛な顔をしている蚊が媒介します。ヒトスジシマカという「やぶ蚊」とよばれる蚊は長崎などには非常に多いのですが、こういう蚊も、媒介することがあるのです。今は蚊がいて、人がいるけれども、ウイルスだけが回っていないという状況です。
59
このような水がめのところで、蚊がたくさん増えます。
60
 現在、デング熱は熱帯地域で非常に急速に患者数が増えています。
61
これは2000年くらいまでのデータですが、さらに増える一途ということで、昔は3年から5年の周期で熱帯地域に流行っていたのですが、現在はほとんど通年性にデング熱が流行りつつあります。
62
 デング熱は一回目にかかってもそんなに恐ろしくはないのですが、2回目にかかると、出血熱といって解熱するときに突然、ショック症状、出血を起こし急になくなる場合があります。
65
エボラ出血熱というのをご存じだと思いますが、あれと同じように血管から出血するのです。それで、重症化する原因として免疫学的な要因などいろいろなことが言われていますが、まだはっきりわかっていません。重症化して死ぬことがあります。
66
このように、発症化した時に病院にうまくかかっていれば助かりますが、特に熱帯地域で流行っている時期は、ほとんど小児病棟では、ひとつのベッドに二人寝ても足りずに、廊下にベッドを出して寝ているという状況です。流行り出すと恐ろしい病気なのです。
67
69
 これが年々北上してきていて、年々増加しているのですが、台湾のところに赤い色がついていると思いますが、台湾のすぐ北に沖縄があります。現在の温暖化の傾向からいくと、沖縄まで来るのはおそらく時間の問題だろうといわれています。
70
こういうことが、実は長崎や西日本では、復員デング熱ということで1943年ころに大流行したことがあります。
71
長崎の人は今でもデング熱が大流行したことを覚えている人がいます。
72
おそらく、このときは、先ほどのヤブ蚊がある程度媒介したのではないか。これは古い文献ですが、かなりの数の患者さんが出たということが記録に残っています。
73
アメリカ軍が占領の前に、危ない領域をリストアップした時にもデング熱というのが入っていて、このような情報が米軍のほうにありました。
74
 最後に、水や熱はよく気候変動にはあるのですが、風も意外と感染症に関係していることを最後にお示ししたいと思います。
75
 その例は、日本脳炎です。これは特に南の方、九州には非常に多い病気でした。これもイエカ、アカイエカなどの蚊が媒介する感染症です。
76
この日本脳炎の仲間は、例えば、アフリカでは西ナイル熱、アメリカではセントルイス脳炎という病気が流行っています。
 以前は、きっちりとしたすみわけがあったのですが、この前この西ナイル熱がニューヨークに上陸してあっという間にアメリカに広がったことが非常に印象に残ります。
さらに、アラスカの方から日本をうかがっている。逆に東南アジアにも広がっていて、そちらから日本に入ってくるのではないかと危惧されているわけですが、もとからあった日本脳炎も気が抜けない状況であることがわかりました。
77
これは典型的な日本脳炎が流行している場所の風景ですが、水田がありそこでカが発生し、そこに豚がいます。豚が宿主になってウイルスを増やし、その間に人にもかかっていくという病気です。
78
僕は、小さい時にこの患者を見たことがありますが、悲惨な脳炎を起こします
79
助かっても、重い後遺症を残すこともありますし、熱帯地域のインドやベトナムや東南アジアではかなりの患者が出ています。
80
アジア脳炎
東アジア、東南アジア、西アジア、パフアニューギニア、オーストラリア北部への拡大
81
ただ、今減少している国として、このような国があります。
82
日本、中国、韓国、タイ、このようなところでは、ワクチンが非常によく効いて患者が激減しました。ただこれは、集団予防で減っているのですが、実際にもうワクチンはいいのではないかという話が何度も出ているのです。それがいかに危険なことかということが、次のお話で分かっていただけると思います。
83
インドやベトナムではこのように毎年患者さんが出ています。
85
86
実は日本脳炎のウイルスが風に乗って移動しているのではないかという観察結果が出ました。
87
これは日本脳炎のウイルスのタイプを観察したデータなのですが、このような地域では3型という遺伝子型が多く、日本もそうなのですが、最近ここに1型が見られるようになって、ほとんど3型から1型に置き換わったということが報告されています。
88
長崎などで見られる蚊には、3割くらいの日本脳炎遺伝子を持っている蚊がいるので、それを調べることによって、遺伝子型が変わっていることが分かります。
89
90
これはひょっとしたら、東南アジアから移動してきているのではないかということで、長崎とベトナムの三箇所と、中国で採取した蚊のサンプルの遺伝子を解析し、調べた結果です。
特に、この赤いのがベトナムの分離型であり、黄緑色が日本の分離型で、同じところに分離される。ただ、分離した年代が多少ずれていて、ベトナムのほうが早くて、日本の方が少しあとで分離されている。これは、ベトナムあたりから、我々が運んだのではなく、なんらかの自然現象で運ばれたことが強く示唆されています。
91
これは、研究所のウイルス学分野の鍋島くんがいろんなところの、いろいろな年代の分離株の遺伝子を調べた結果、こういう経路できていることがわかり、
92
また、別の経路で、上海経由でこのように、非常に短期間にウイルスが移動してきていることがわかりました。また、日本の国内で、九州から南関東にかけて、東向きにウイルスが移動してきている。これはまとめたものですが、こういう経路でウイルスが移動してきていることがわかりました。
93
94
今、長崎でいくつかの種で、これを捉えようとしているのですが、毎年違う株が、いれかわり中国から流れてきていることが分かりました。この地域にひとつのファミリーがあって、こういう向きにウイルスが移動してきている。
95
では、どうやってこれが移動しているのかが、次の疑問になりますが、ひとつの可能性として、偏西風に乗って蚊が飛ばされてきているのではないかと。
100
蝶などにそのような例があるのですが、よく調べられているのは農業被害を及ぼすウンカの移動です。ここにコンピュータで計算した移動のシミュレーションが出ていますが、このようにウンカが中国大陸から九州あるいは日本の石川県、能登半島の方に流れてきている。ですから、媒介蚊も非常に条件は限られているものの、このような経路で出てきているのではないかと。ですから、ウイルスをワクチンで抑えたからといって、気を抜くと、どんどんまた次が出てくる。これはどうも風の影響でこれが出てきているということが示唆された非常に興味あるデータです。
101
102
103
竹上先生の話
104
105
106
このような今までお話してきたようなデータは、我々の海外感染症研究拠点という二つの拠点、文部科学省から大きなサポートを頂いて運営している研究機関ですが、実際に現地で働くことによって得られる貴重な情報が入ってきているということです。
107
これは、ケニアのキリマンジャロが見えるところですが、世界的な規模で起きる感染症についてその場で考え、しかも地球規模で考えるということは大切だろうということです。
どうも、ご清聴ありがとうございました。
 
108