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黒崎友亮COE研究員がPostdoctoral Presentation
Awardを受賞
平成22年08月
病院薬剤部試験研究室の黒崎友亮COE 研究員は,7月21日,「静電的相互作用を基盤とした生体適合型遺伝子ベクターの開発とその応用」により,
「Postdoctoral Presentation Award」を受賞しました。
同賞は2010年7月21日から23日にかけて行われた社団法人日本薬剤学会主催,第35回製剤セミナー(浜名湖ロイヤルホテル・静岡県浜松市)の「Postdoctoral Presentation の部」において優秀な発表を行った若手研究者に授与されるものです。
なお、同賞は製剤セミナー実行委員会による選考において受賞者が決定され、表彰式は7月21日に同会場にて行われました。
<要旨>
本研究では、種々のアニオン性高分子を用いて、pDNAとpolyethylenimine (PEI) からなるカチオン性のpDNA/PEI complexを静電的に被膜した生体適合型遺伝子ベクター
(ternary complex) を開発し、その有用性について検討した。この結果、カチオン性のpDNA/PEI complexを生体適合性のアニオン性高分子であるpolyadenylic
acid (polyA)、polyinosinic-polycytidylic
acid (polyIC)、α-polyaspartic acid (α-PAA)、α-polyglutamic acid (α-PGA)、γ-polyglutamic acid (γ-PGA) を用いて静電的に被膜することによって、粒子径が100
nm以下で、表面がアニオン性に帯電したternary complexを構築した。pDNA/PEI complexは、強い赤血球凝集や細胞障害性を示したが、開発したternary complexは、これらの毒性を示さず、高い安全性が認められた。さらに、各ternary complexの細胞内取り込みと遺伝子発現効率を測定した結果、γ-PGAを用いて被膜したpDNA/PEI/γ-PGA
complexはアニオン性であるにも関わらず、高い細胞内取り込みと遺伝子発現を示した。
次に、pDNA/PEI/γ-PGA complex のin
vivoにおける毒性と遺伝子発現効果を評価した。pDNA/PEI complexをマウスへ尾静脈内投与した結果、非常に高い肝障害と急性毒性が観察された。一方で、pDNA/PEI/γ-PGA complexではこのような毒性は認められず、生体内でも高い安全性を示した。またpDNA/PEI/γ-PGA complexは、静脈内投与後に脾臓で選択的に高い遺伝子発現を示した。脾臓の組織学的評価を行った結果、pDNA/PEI/γ-PGA complexは脾臓の中でも、特に抗原提示細胞に富んだ辺縁体に多量に蓄積し、遺伝子を発現していることを見出した。これらの結果から、pDNA/PEI/γ-PGA complexはDNAワクチンベクターとしての有用性が期待できる。
そこで、メラノーマに対するDNAワクチン (pUb-M) を用いたpUb-M/PEI/γ-PGA complexをマウスに複数回投与し、メラノーマに対する免疫誘導効果を評価した。この結果、pUb-M/PEI/γ-PGA complexの投与によって、マウスの皮内へ移植した腫瘍の増殖が有意に抑制された (Fig. 1)。さらに、pUb-M/PEI/γ-PGA complexは、メラノーマ細胞の肺転移を著明に抑制し、肺転移モデルの生存期間を有意に延長することを見出した。